07.少女は様々な想いに混乱する
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「なっ‥‥!?」
現れたその姿に目を疑った
まさか、どうしてここにユウが‥!?
左側にいた男がユウの体に押され態勢を崩す。
私はその男を壁に蹴り飛ばし、反動で座り込むユウの両耳を塞ぐように胸に押し付けた。
「ぐあっ!」
ガイルと部下の足を打ち抜き、ユウの手を引く。
「立ってください!」
ドアに鉄パイプを引っ掛け出口を塞ぎ、少しでも時間は稼げるだろうとその場を離れた。
「‥‥ッ、」
再生は終えたとはいえ痛みは抜けない。
それでも後ろで息を切らすユウの手を引きながら、とにかく安全な場所へ走った。
「‥ラックさ‥待っ‥!」
人通りの多い所までと思っていたが、息を詰まらせるユウに一度足を止める。
「女連れだ、まだ遠くには行ってねぇ!」
「っ!」
他の部下を呼んだか‥もう声の届く近さまで来ている
ユウの手を引きゴミ箱の影に身を潜める。隠すように抱きしめると、不安げに見上げて来るユウに更に力を込めた。
震えている。雨のせいか冷え切っている体は恐怖も混じっているのだろう、小刻みに揺れる。
ユウを侵食するかのように鼻を掠める煙草の臭いが、無性に苛立ちを煽った。
「向こうだ、捜せ!」
すぐ近くからした声に背中に手を添えれば、ユウが息をのむのが分かって。
遠ざかり気配が消えたのを確認してから問えば、ユウは目を合わせないようにキョロキョロと視線を巡らせた。
「背中‥思いっきり地面に打って、痣になってるみたいで‥」
「っ‥そう、ですか‥‥とにかく早く帰りましょう、私たちの家に」
頷くユウは無理に走らせたからか、靴擦れを起こし血が滲み真っ赤になっている足。
それでも立ち上がろうとしているユウを肩に担ぎ上げ、もう一度走り出す。
「! ラックさん私っ、」
「舌を噛みます、黙って」
ユウが口を噤み、私の服を握ったのが分かった。
土地勘を駆使して人通りが少なくより安全な道を選ぶ。
それから20分は経っただろうか。周りの気配を確かめてからアパートに入り、念のためすぐに鍵をかけた。
そのまま部屋を進みシャワールームにユウを下ろし、勢いよく蛇口を捻る。
「やっ‥‥ラックさ‥っ」
「なぜ、あんなことをしたんです‥貴女は馬鹿ですか!」
びくりと肩を竦め目を閉じた彼女。
「本当に‥っ貴女は予想もしないことをする‥」
腫れた頬に手を伸ばす。掠めるように触れてから、私はユウを抱き締めた。
「ごめん‥なさい‥」
「‥‥他に怪我は?」
首を振って、私の服を握るユウ。
「‥兄たちには?」
「‥‥‥言ってない」
「‥‥、あの場所はどうして?」
「‥‥‥‥‥‥」
「ユウ、」
「‥情報屋さん、で‥」
「‥‥後で詳しく聞きましょうか」
温かい。あんなに冷えていた体が見る見る熱を取り戻していく。
「‥すみません」
どうしようもなく、自分に腹が立った。腫れた頬も手首に巻かれた包帯も、痛々しくて見ていられない。
「すみませんでした‥ユウ‥」
私の責任だ
巻き込んで、守りきれず彼女を傷つけた
ユウが顔を上げようとしたが抱き締めたまま私はそれを拒む。
ユウは入れた力を抜いて、首を振って私の背中でシャツを握った。
――愛おしい
このまま想いを告げたら彼女はどういう反応をするだろう?
現実味のない考えに自嘲して、私はそっと体を離した。
「、ラックさん‥?」
「‥私は出ます、ユウはそのまま入浴を済ませて体を温めてから出てきてください」
「! もう大丈夫だから私も‥」
立ち上がって背を向けた私に、ユウの手が追いかけて来る。
「‥‥私が、貴女から他の男の匂いがするのに耐えられないんですよ」
「え‥‥?」
上着を脱ぎながら後ろ手でドアを閉める。
自分の下に広がっていく水溜まりに視線を落とし、ため息と共に髪を掻き上げる。
玄関から出来た水跡を目で追いながら、私はシャワーの音で聞こえていないことを切に願った。
***
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