05.歯車は少女をまき込み加速する
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***
「っ‥‥」
痛む後頭部に眉を寄せ首を鳴らす。
胡座を崩すように片足を立て体を起こすと、ドラム缶に寄りかかりながら私は大きなため息をつく。
「‥貴方にこんな趣味があるとは思いませんでしたよ。ルバニエ・ファミリー幹部のガイルさん」
後ろで縛られた両腕を試しに引いてみながら、目の前に座る男を見る。
指定された廃工場に足を踏み入れた途端影から鉄の棒が飛んできた。
その後現れた男に応戦していると、背後から次々現れる男たちに何度となく狙われ。
あまりこういうのは得意ではないのに‥
さすがにこの人数は無理だろう、そう思ったと同時に後頭部に鈍い痛みが走り視界が暗転。
そして、今に至る。
「ハッ、随分と余裕だな?ボスとしてのプライドか?」
「そんなプライドいりませんよ」
余裕、というかまあ‥‥死にませんからねぇ‥
内心ため息をついて、視線だけで周りを把握する。
約束の場からは移動したらしい。ここは廃工場というより、どちらかと言えば工場によくある休憩所だ。
窓は割れ室内は砂埃でまみれ、鉄は錆びている。
私がいるのは部屋の中心、車三台は入りそうなそこは左右に向かい合うようにドアがあり、風が吹く度強弱をつけて壁を打った。
私から見て右側のドアは外に何かあるのか人が通れるほど開かないようだったが。
「ですが、彼女がいないことは確信しました」
「‥なんでだ?」
「理由はいくつかありますが、彼女がいるなら私一人脅して従わせるくらいできたでしょう。わざわざ袋叩きにする必要はない」
私の銃はガイルの足元にあるダンボールの上。鞄は彼が肘を付いている机の上。
場所を確認しながら、私は淡々と言葉を紡いだ。
「‥噂通り頭は回るみてぇだな。またひとつ気に食わねぇところが増えたぜラック・ガンドール」
「それはどうも。どうやら貴方は特別私を目の敵にしたいようですが何故です?そんなにスーツの請求書が気に障りましたか?」
「ッ‥」
ガシャンッ‥
椅子の倒れた音と同時に、腹部にガイルの足が食い込む。
「かは‥っ」
「何故、だ‥?全部だよ、テメェの全てに腹が立つ!」
ガイルは目を充血させ、休みなく蹴りを入れてくる。
私が咳と共に血を吐くと、同時に駆け込んできた部下の報告を聞き私に背を向けるように部屋の隅へ移動した。
‥よかった、血が戻る所を見られなくて。
痛む腹部に息を詰まらせながら、私は再びドラム缶に背を預ける。
ユウは無事だろうか?
誘拐されたのは間違いない
しかしまさか同時に2つの組織に狙われるとは‥
向こうの組織が馬鹿か利口であることを願うしかない
利口な者ならばユウがロニーさんの妹と知った時点でどうにか動くはずだし、馬鹿は兄さんたちが何とかしてくれる
「っ‥‥はぁ‥」
ユウ、無事でいてください‥
後ろに頭を預けたまま、私はゆっくり目蓋を伏せた。
「‥おいテメェ」
「何です?シマの権利書なら持ってきてませんよ」
気配を感じて目を開けながら、私は言葉を続ける。
「まさか、人質を取られたぐらいでマフィアのボスが簡単にシマを渡すとでも?」
「ッ‥な、なら」
「ああ、私の命と引き換えにシマを‥などと思わないでくださいよ?無意味ですから」
‥ガイルの拳が怒りで震えている。
利益も見いだせないまま彼をここまで煽ったのも、私が自分で制御できない程に彼に腹が立っていたからだ。
奴はユウを犯すと、殺すと言った。あの瞬間浮かんだ殺意が言葉として紡がれる。
どんなに自分が不利な状況にいても関係なかった。
それだけ‥私は許せなかったのだ。
ユウを、汚すと言ったガイルが。
「ックソが‥‥なら死ね役立たずがァ!」
それにしてもまあ‥煽りすぎましたね。
自分の愚かさに内心ため息をつきながら、私は閉じた目蓋を最後に銃声を聞いた。
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