05.歯車は少女をまき込み加速する
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***
「今日は早く帰れそうなので、店まで迎えに行きますよ」
言えば、嬉しそうに頷くユウ。
最近、ルバニエ・ファミリーが動きを見せなくなった。
あれほどしつこく手を出していたのだから、諦めたということもないだろうが‥
考えながらじっと眺めていれば、気付いたらしいユウが首を傾げる。
「変な人がいたとか、視線を感じることはありませんか?」
思い出すように間を置いたユウは、フルフルと首を振った。
「そうですか‥ならいいんです。何かあったら必ず言ってくださいね」
「うん」
ユウには安全な裏通りを歩かせているし、二人の時は更に違う道を行くようにしている。
家は割れていないと思うが‥
「ラックさん?」
声に意識を戻すとユウが心配そうに覗き込んでくる。
「、具合悪い?」
「いえ、すみません考え事をしていて」
「‥何か、あったの?」
ユウが仕事のことを聞いてくるのは珍しい。
言ったことはなかったが、ユウは私がボスという立場から仕事のことを聞くのはよくないと考えたのだろう。
私はそれに甘えていたし、実際こんな血生臭い話をするつもりもなかったが。
「ああいえ、たいしたことじゃありません。ありがとうございます」
くしゃりと髪を撫でると頷くユウに。
私は、その手を頬に滑らせた。
「‥すみません、ユウ」
「‥?」
何故謝られたのか分からない、という表情に小さく笑って、カップを手に立ち上がる。
「そろそろ出ましょうか」
言えば慌てて立ち上がるユウを背に、私はため息と共に髪を掻き上げた。
私はユウに一体どれほど気を使わせているのだろう?
場所や道を制約され、いつ巻き込まれるか分からない仕事の話は一切されず、自由に行動できない
これでは‥まるで私たちガンドールの監視下にあるシマと同じだ
私が普通の人間だったら――そこまで思うとこの間見かけた彼が浮かぶ。
そしてそんな自分の考えに自嘲して、私は小さく笑いを漏らした。
***
なんか、ラックさんが少し変だ。
‥‥私に、謝ったときから。
だけど聞くこともできず、私はラックさんをちらりと盗み見て内心ため息をついた。
「あ‥」
また違う道だ。
ラックさんたちのシマなんだから当たり前かもしれないけど、ラックさんはいろんな道を知ってる。
私はその新しい道にある建物や小さなお店を見るのが楽しくて、ラックさんが新しい道を通る度にキョロキョロと周りを見回した。
「ラックさん、あれはなに?」
「ああ、あそこは蜂蜜屋ですよ。こんなことを言っては申し訳ないですが‥」
ラックさんは声を抑えると人差し指を口に当てて小さく笑う。
「アルヴェアーレの方が美味しいです」
内緒ですよ、と続けるラックさんに、私は頷いてつられるように笑った。
私はこうした時間がすごく楽しい。
いろんなことを知れるのは嬉しいし、何より‥ラックさんのことを知れるから。
「ここまで来れば分かりますね?」
「うん、あそこ左に曲がったら大通りだよね?」
「正解です。じゃあ、帰りは店で待っていてください。一杯マスターの入れたコーヒーも飲みたいですし」
頷いて、私はいつものようにラックさんに向き直った。
「行ってきます、と、行ってらっしゃい」
返事の変わりに撫でられた髪に触れながら、私は大通りまで歩く。
振り返るとラックさんがまだ見ていてくれて、私は手を振って角を曲がった。
***
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