04.それでも少女は嬉しそうに笑う
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「‥っ‥‥?」
ズキズキとした頭痛で意識がぼんやりと覚醒する。
やんわりとした意識の中、何度かフィーロさんとラックさんの声が聞こえた気がした。
ギシ、と軋む音と背中が柔らかさに包まれる。
私は解かれた腕で離れようとしたそれをきゅっと掴んだ。
目を開けたいのに開けられない。
意識はふわふわとしていて、もしかしたらこれは夢なのかもしれない。
「ユウ、」
ラックさんが何か言ってるような気がするけど、よく聞こえない。
私は駄々っ子みたいにイヤイヤと首を振って小さく唸った。
「置いて‥行かないで‥」
溜まった涙がこめかみを伝う。
どうしてその言葉を言ったのかは分からない。
だけどたぶん、両親との別れが今の状況と似てたから。
熱を出して朦朧とする私に、二人が何か言って行った。
そして母親はそのまま、父親も私にひとこと残して追うように逝ってしまったから。
「も‥‥ひとり‥は‥‥いやだよ‥」
再び伝った涙が何かに拭われて、優しく頭が撫でられた。
「大丈夫ですよ」
さっきまでぼんやりしていたラックさんの声は、やけにはっきり私の意識に入り込んでくる。
「置いていきません。貴女が望む限り、ずっと傍にいます」
どうして、ラックさんの声はこんなにも私を落ち着かせるんだろう?
安心したからか意識がだんだんと薄れていく。
「‥私が‥貴女より早く――とはありま――から」
何‥?今、何て言ったの?
私の思いとは関係なく意識は遠退いていく。
だけど深く沈んだ意識は、何故か温かくてすごく安心した。
***
目を開けたら、真っ暗だった。
まだ夜?
ぼうっとした頭でそう思ったけど、だんだんと覚醒していくそれに合わせて視界が広がっていく。
――違う、夜なんかじゃない。
ゆっくり上下する胸が私の鼻に当たる。
恐る恐る顔を上げると、目の前にラックさんの顔があった。
それに、私が頭を乗せているのはいつもの枕じゃなくて‥ラックさんの腕だ。
「っ‥!?」
何が、どうなってるのか全く分からない。というより思い出せない。
昨日お兄ちゃんが煙草を吸いに行ってペッチョさんたちに飲み物を貰ったところまでは覚えてるんだけど‥
「‥ん‥‥」
寝返りを打とうとしたラックさんが小さく唸って眉を寄せる。
私が頭を乗せているから動けなかったらしく、そのまままたこっちに体を向けて前髪を掻き上げた。
開いた目が私を捕らえる。
「‥‥おはよう‥ございます」
「‥‥‥‥おはようございます」
もそもそとラックさんの腕から降りるように下に下がる私に。
肩を震わせて笑っていたラックさんは、ふいに笑うのを止めた。
「腕が‥痺れました」
「! ご、ごめんなさいっ」
慌てた私にまた笑って、体を起こしながら首を鳴らす。
同じように体を起こして状況が理解できずにいる私に、一通り説明してくれた。
酔っぱらったまま寝ぼけた私はラックさんを離さず、結果こうして眠ったらしい。
よく見れば上着とネクタイは外しているものの、ラックさんはスーツ姿のままだ。
「ぅー‥スーツしわしわ‥ごめんなさい‥」
お酒を飲んで記憶を飛ばすなんて恥ずかしいし‥たくさん迷惑かけて、もう泣きたい。
あまりの不甲斐なさに自分が嫌になりそうだ。
「まだ他にもありますし、クリーニングに出しておけば大丈夫。それに、」
見上げると、ラックさんは思い出したように悪戯っぽく笑った。
「酔ったユウ、可愛かったですしね」
「!!」
その後会ったフィーロさんとベルガさんにもからかわれて、私はもう二度とお酒は飲まないと自分に誓った。
***
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