04.それでも少女は嬉しそうに笑う
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「‥‥ハァ‥どうせならベル兄に襲いかかってくれればよかったのに」
男を地面に手放しながら独り言を漏らす。
だがそれはユウの耳に入ってしまったらしく、ぴくりと反応したユウを見ればカタカタと体が震えていた。
「‥‥ユウ」
頭に触れようとして、それを追うようなユウの視線に私は思わず手を引く。
‥拒絶されてしまうのが怖くて、私はユウに触れられなかった。
「すみませんでした。怖い思いをさせ、て‥」
だがそんな恐怖は無意味だったらしい。
包まれたその温かさに、私は思わず目を見開いた。
「ラックさんっ、怪我は‥!?」
ぎゅうっと握られる手からは、微かな震えを感じる。
呆気に取られたまま大丈夫だと首を振ると、ユウは安心したように息を吐いて握る力を強めた。
「‥ユウ、すみません。このまま路地裏を通って事務所に寄りたいので、荷物お願いできますか?」
頷くユウの頭を撫でると、ほっとしたように表情を和らげるユウに。
私は自分の汚れが洗われたような感覚がして、そんな自分に呆れて笑いが漏れた。
「重くないですか?」
右側にいるユウに対して左肩に男を担いだまま、両腕で荷物を抱えるユウに声をかける。
ユウは私というより“私の肩に担がれた男”と距離をとって歩いていたが、きょとんと首を傾げて小さく笑った。
「ラックさんがそれ言うの変だよ?」
「‥確かにそうですね」
路地裏を歩く間、酔いつぶれたのか座り込んでいる男が視界に入って私は被っていた帽子をユウに被せる。
「むっ‥?」
「この辺りで顔を覚えられてもいいことはひとつもありませんから。被っててください」
「‥‥‥、」
反応のないユウを呼びかければ、のぞき込むように私を見上げて。
「えへへ、ラックさんの帽子似合う?」
緊張感のなさすぎる彼女に、私は耐えられず笑いに肩を震わせた。
「?」
「いえ、すみません。ユウは何でも似合いますね」
じっと見るとだんだん恥ずかしくなってきたのか頬を染めるユウ。
「もう見ちゃだめ」
照れたように帽子を被り直すユウを見ながら、さり気なくいつもの癖で周りの気配を探る。
あんなシーンに出くわして、本当の私を見ても尚笑いかけてくれるユウに安心している自分。
なぜだろうか?
呆れながらも、私は彼女の笑顔が消えないのならそれでもいいと思った。
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