04.それでも少女は嬉しそうに笑う
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***
「買うものはこれで終わりですか?」
私はカゴを覗き込んでメモと照らし合わせる。
「あとは‥ミルクと小麦粉かな?」
「ならユウは小麦粉を。そこで待っててください」
「ん、」
さり気なく今いる場所から遠い方を選ぶラックさんはやっぱり優しい。
数日分の食料が入ったカゴは私の方が近いからと、渋るラックさんから預かった。
小麦粉を棚の上に見つけて、カゴを足元に置いて背伸びをする。
「‥‥届かない」
あと少しなのに。
どうして一番上の棚に置くのかとかどうして棚がこんなに高いのかとか理不尽な文句を思い浮かべていれば、後ろから陰が降る。
それは私の目的とした小麦粉を掴んで目の前に掲げられた。
「こんにちは、ユウちゃん」
「あ‥‥ライトさんっ」
私がびっくりしながらそれを受け取るとライトさんは襟足を撫でながら嬉しそうに笑う。
「一生懸命背伸びしてる子がいると思ったら‥こんなところでユウちゃんに会えるとは思わなかったよ。ひとりで買い物?」
カゴを覗き込んで首を傾げるライトさんに、私は首を振って答える。
「そっか‥‥残念」
「え?」
「一人だったら、荷物持ちとして送っていける口実ができたのに」
ストレートなそれに私は思わず頬を染める。
そんな私に笑って、ライトさんは慌てて時計を見た。
「うわ、早く戻んなきゃ。実は姉さんの使いでさ」
苦笑しながらカゴをあげて見せたライトさんは、またお店で、と背を向けたあと。
「‥でも」
「?」
「こうして偶然ユウちゃんに会えるなら使いっぱしりも悪くないかな」
男の人の顔だ――今までこんな経験のなかった私は困惑して、後ろ姿を見送りながら熱の集まった頬を押さえた。
「ユウ?」
後ろから呼ばれて思わずびくりと肩を竦める。
「どうしたんです?小麦粉は‥取れたんですね」
さっきの見られてなかったかな?
もし見られていたとしたらもの凄く恥ずかしいけど、このラックさんの様子だと見られてはいないみたいだ。
「あの、えと、‥‥うん」
動揺して口ごもる私にきょとんとしたラックさんは。
慌ててなんでもないと首を振る私を見て可笑しそうに笑った。
「‥‥冬の匂いがする」
「冬の匂い?」
お店を出て呟いた私の言葉をラックさんが拾う。
ラックさんは嗅ぐ仕草を見せたものの分からなかったのか私に視線を戻した。
「、どんなって言われても説明できないけど‥‥するの」
日本ではもっとはっきり匂いがした気がする‥
思っていると石に躓いて、転びそうになったところをラックさんに腕を掴まれた。
「‥匂いもいいですけど、前は見て歩いてください」
「ごめんなさい‥」
羞恥やら反省やらで俯いた私に、ラックさんが何か言いかけたと思ったら。
突然その腕を強く引かれて、私たちのいた場所にキラリと光る何かが見えた。
「‥‥街で獲物を振り回すのは感心しませんね、フレデリックさん」
抱きしめられるように庇われていた私を背中に隠して、荷物を預けられる。
恐る恐る覗くと、フレデリックと呼ばれた男の人の手にはナイフが握られていた。
「う‥うるせぇ!殺してやる‥あんたらガンドールのせいでオレァ‥っ」
「ハァ‥‥私たちのせいだとおっしゃいますか。散々金を借りて高飛びした貴方が?」
刺さるような冷たい声。
背中しか見えない私にはラックさんがどんな表情をしているかは分からないけど。
「借りたら返すのが常識です。私の前に現れたということは何かアテでも?‥‥この状態を見ればないことは十分に分かりますが」
「ッ‥へ、へへへ!ガンドールのボス一人でも、買ってくれる組織はあるだろ?そのネェちゃんは高くつきそうだしなァ!」
「‥‥‥‥」
ラックさんから発せられる空気が痛い。
これが‥ラックさんの仕事。
ラックさんが私に見せたがらないもうひとつの顔。
身を竦めた私は、恐怖で買い物袋をぎゅっと抱きしめる。
「知ってますか?」
「あン?知らねぇ‥よッ!」
振りかぶった男の人にラックさんは右に避けて、すかさずその腕を掴むと反対の腕を背中に捻り上げた。
「話は最後まで聞くものですよフレデリックさん」
私の場所からは帽子の被ってるラックさんの目は見れなかったけど、くっと口角が上がっている。
そのまま何かを耳元で囁いたと思うと、途端に青くなった男の人の後頭部を肘で殴って気絶させた。
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