03.情報屋は少女の影に惑わされる
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「‥消えた」
シャツを脱ぎかけて、痣が完全に消えていることに気がついた。
「ラックさんラックさんっ」
勢いよくドアを開けた私は、キッチンにいるラックさんに飛びつく。
「! 危な‥急にどうし」
「痣消えたよ!」
「ちょ、ユウ!?なんて格好してるんですか!」
振り返ったラックさんは目を丸くして、私の下がっていたシャツを上げた。
キャミソール着てるよ?
私が首を傾げると、そういう問題じゃありません!と怒られた。
この間はラックさん平気だったのに‥
「はあ‥‥でもよかったですね。傷として残らなくて」
「うんっ」
頷くと、ほんの少し冷たい手が頬を撫でて髪に指が滑り込む。
「‥‥ユウ、約束してください」
見上げると真剣な眼差しが私に向いていて。
「もう二度と無理はしないと」
「ラックさん‥」
無理をしたつもりはなかった。ただ気がついたら体が動いてたから。
だけどこんな顔をさせてしまうなら‥
「、ごめんなさい」
「何かあったら必ず私に言うこと」
頷くとくしゃりと頭を撫でられて、着替えてきなさいと部屋に戻される。
着替えて戻るとラックさんが準備してくれた昼食を食べた。
「ごちそうさまでした。おいしかったです!」
「それはよかった」
「片付けは私がやるね。コーヒー入れる?」
お願いします、声を背に食器を片付けてポットを火にかける。
そして。
ふと視線を移した先にいたそれに私は全身の毛が逆立った。
「い‥‥っやー!」
「、ユウ!?」
バタバタとキッチンからソファーに走る。ソファーから立ち上がろうとしたラックさんになだれ込むように抱きついた。
「っ‥‥どうしたんです、ユウ」
「いた‥」
「いた?何がですか?」
「‥‥‥‥‥‥‥‥クモ‥」
ぎゅうっと力を強める。私はとにかく虫が嫌いで、なのにキッチンの角にあいつがいた。
やっと落ち着いてきた頃、ラックさんの体が小刻みに揺れていることに気がついて。
見上げると口元に手の甲を当てて肩を震わせ笑っている。
「すみませ‥そんなに怖がってるから何かと、」
「だ、だって」
「本当に、ユウは可愛いですね」
‥‥ラックさんはずるい。
そんなことさらっと言ったりして、私ばっかりドキドキするんだから。
「ところで、そのクモは捕まえなくていいんですか?」
「だめ!」
「ならユウに降りてもらわないと‥」
言われて今の体勢を見る。ラックさんの膝に向かい合わせに座っている状態で。
思わず後退りした私は、後ろにひっくり返りそうになって笑いながらラックさんに助けられた。
こうして誰かとゆっくり過ごすのは両親が死んでから始めてかもしれない。
なんでもない休日をこんなに笑って過ごせるなんて。
「退治しましたよ。‥ユウ?」
隣に腰を降ろしたラックさんがのぞき込んでくる。
「‥2年」
「?」
「休日がこんなに幸せなの、2年ぶりだなーって思ったらなんか嬉しくて」
弛む頬を抑えられずにいると、体が後ろに引かれた。
「、ラックさん?」
触れている右側が温かい。回された手が私の頭を撫でて、安心感が私を包み込んだ。
「私も幸せですよ。ユウとこうして一緒にいられることが」
「私と‥?」
「ええ。あなたは自分の価値を分かっていない。もっと我が儘になってもいいんですよ?」
私の価値なんて分からない。だけどラックさんがそう言ってくれたことがただ嬉しくて。
「‥‥じゃあ、今ひとつお願いしてもいい‥?」
「なんですか?」
「‥‥もう少し、このままでいたいです」
返事の変わりに、ラックさんの手が私の髪を梳く。
私はその安心感と温かさに包まれて、次第に意識がふわふわと落ちていくのを感じた。
***
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