03.情報屋は少女の影に惑わされる
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DD新聞社、社長室。
そこにいるのは山積みになった資料に埋もれ姿の見えない社長と、ニコラス、そしてレイチェル。
「ではニコラスくん、君の集めた情報を報告してくれ」
「はい。えー、ルバニエ・ファミリーですがガンドール・ファミリーのシマを狙っているようです。先日カジノが襲撃を受けてますね」
「死者は?」
「怪我人が数名‥死者は出なかったようで、ガンドールも大事にはしないつもりのようです」
「そうか、死者が出ないのは何よりだ」
会話の最中もひっきりなしに電話が鳴り続け、いくつあるのか重なり合った音は途切れることはない。
「ですが‥それをいいことにルバニエ・ファミリーの方は何か企んでいるとか‥」
「ふむ‥この件については引き続き頼むよニコラスくん」
「はい」
「次にレイチェルくん」
言葉につられるようにしてニコラスがレイチェルを見る。
彼にとってはこちらが本題なのだろう。
「“彼女”について君が知っていることは?」
「私が知っていることはほとんどありません。あの男から自身を盾にして親子を庇った‥そこに居合わせただけですから」
「しかしレイチェルくん。君は傍観者ではなく自ら関わりを持った。それはどうしてだい?」
「それは‥」
俯くレイチェル。ニコラスは珍しく黙って話を聞く側に徹している。
「‥分かりません。不思議と体が動いてしまって‥気がついたら‥」
「‥なるほど。彼女には不思議な魅力があるようだね」
不思議な魅力――言葉では表せないがレイチェルもそれは感じていた。
「彼女に聞いたんです。どうして庇ったのかと‥そしたら」
「そしたら?」
「『子供に母親が蹴られるところなんて見せたくなかった』と‥」
「ほう‥」
「そんな理由で自ら怪我を?とんだお人好しですねぇ」
「ニコラスくん」
威圧感を含んだ声色にニコラスが口を噤む。
「彼女の名はユウ・スキアート。マルティージョ・ファミリーのロニー・スキアートの義妹だよ」
「で、ですが社長!彼女が住んでいるのはラック・ガンドールの家では‥」
「うん、そうだね」
「ええっと‥」
ニコラスは混乱した。彼らは個人としてこそ仲はいいが、必要以上の馴れ合いはしない。
それにラック・ガンドールとロニー・スキアートはそこまで仲がよかったという情報は入ってきていない。
義妹を他のファミリーの人間の元に置くなど考えられない。
「‥‥‥、」
「彼らはまだ恋人ではないよ」
思考を先回りされ、ニコラスは肩を竦める。
それまで黙って聞いていたレイチェルは、社長の漏らしたそれに反応した。
「“まだ”?」
「!」
「彼女は彼に絶対の信頼を置いている。年齢的にも関係的にも、変化する恐れは充分にあるだろう?だからそう表現したまでだよ」
社長は何をどこまで知っているのだろう‥?
毎度思うことだが、二人は廻る疑問に眉を寄せた。
「しかし彼女については疑問が多い」
入り込んできた社長の声に二人が頷く。
「我々は長年マフィアの情報を扱ってきましたが‥ユウ・スキアートの存在は最近まで誰一人知りませんでした」
「そう‥ユウ・スキアートという少女の登場があまりに突然すぎるんだよ」
マフィアの中に突然現れた存在。
彼女が何者なのか‥それを知るのはほんの数名。
「それにしても‥彼女はおもしろい」
「おもしろい?」
「私は彼女に質問をした。今幸せかとね。そしたら彼女はなんて答えたと思う?」
社長は心底楽しそうに、小さく優しげな笑いを漏らした。
「何の迷いもなく、はいと言われてしまったよ」
ニコラスとレイチェルは目を丸くする。
マフィアの中心にいて幸せ?
この時ばかりは二人も同じことを思った。
「とにかくニコラスくん。彼女を傷つけないようにだけ気をつけて、今まで通り観察を続けてくれ」
“今まで通り”その言葉にニコラスは更に目を見開く。
彼女の観察は報告せずに秘密裏にしていたはずなのに‥
社長の情報に関する深さに感嘆しながら、ニコラスは頭を下げた。
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