03.情報屋は少女の影に惑わされる
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「行きましょうか、ユウさん」
「はい」
ラックさんの家から、事務所とアルヴェアーレとバイト先のカフェ。
私はまだその決まった道しか通ったことがなくて、それ以外一人で外に出たことがない。
街を見て回りたい気持ちはあるけど、迷ってラックさんに迷惑をかけるのも嫌だから。
そんな私を見て、エニスさんがお買い物に誘ってくれた。
ラックさんから好きに使っていいと貰ったお金を鞄に閉まって、エニスさんの後を追いかける。
「どこに行きたいですか?」
「、市場」
「市場‥ですか?」
私の答えに驚いたのか、目を丸くするエニスさん。
「私いっぱいお世話になってるのに何もできないから‥夜ごはん、作ろうかなって」
今の私には、料理ぐらいしか思いつかなかった。
エニスさんは優しく目を細めて、賛同するように笑顔をくれる。
「きっと喜んでくれますよ」
「うんっ」
それから少し歩いて着いた市場は、たくさんの人で溢れかえっていた。
立ち並ぶテントから元気のいい声が響く。
「ユウさん、私ちょっと向こうを見てきたいのでこの辺にいてもらえますか?」
「はい。‥あ、じゃあ、私買い物したらあの時計の下で待ってます」
「すみません、行ってきますね」
私の頭を撫でて人混みに消えていくエニスさん。
私もう子供じゃないし買い物くらい一人でもできるのに‥
みんな過保護すぎるような気がする。慣れない優しさが少しくすぐったい。
「わあ‥」
色とりどりの綺麗な野菜、様々な形をしたパスタ。
「、可愛い」
思わず頬が緩むってこういうことを言うのかもしれない。
「リーシェ、転ぶわよ」
「ママ、早く!」
幼い女の子が私の横を通り過ぎる。と、思ったときにはドンッとぶつかる音がして私の足元に尻餅をついた。
「ッテェな‥」
「リーシェ!ごめんなさい!お怪我は‥」
女の子の母親がそばに屈むと、男の人は二人を睨み付けるように振り返った。
「このクソガキが!」
響いた怒声に思わず肩を竦める。
座り込んだ女の子は震え、怯えた瞳で男の人を見上げていて。
母親がぎゅっと守るように女の子を抱きしめた。
「あーあ、骨が折れたかもしんねぇなぁ‥」
いかにもな言葉を吐き捨てて表情を歪める男の人。
「そんなっ‥」
「おっと、オレはルバニエファミリーの傘下にいるんだ。‥逆らうのか?」
ルバニエファミリー。そう聞いて周りの大人の人たちが申し訳なさそうに視線を落とした。
「オレは今機嫌が悪ィんだ‥一発蹴らせてくれよ」
なんて理不尽なことを言うんだろう‥
信じられない。私の理解の範疇を越えた言動に、思わず固まってしまった。
「くくっ‥いい子は好きだぜぇ?」
振り上げられた脚。私は反射的に二人の前に出て、庇うように抱きしめた。
ガッ‥!
「痛っ‥」
左肩に鈍い痛みが走る。
反動で地面に膝をつきながら、蹴られた肩を押さえた。
「あなた‥!」
「何だァ?テメェは‥‥があっ!?」
すごい音がしたかと思うと一瞬のうちに男の人が地に伏す。
「警察お願いします」
驚いて顔を上げれば、作業着を着た女の人が腕を締め上げていて。
「あなた大丈夫?」
「私たちのせいでごめんなさい、どうしてこんなことを‥」
申し訳なさそうに私を覗き込む母親に私は大丈夫と首を振る。
病院にと勧めてくるのを丁寧に断って、何度も頭を下げる二人を見送った。
「、あの‥ありがとうございました」
「あなた‥本当に大丈夫?」
大丈夫です、慌てて言おうとすると通り過ぎた人と肩がぶつかって、あまりの痛さにしゃがみ込んだ。
「‥‥、私はレイチェル。近くに仕事場があるから、手当てしよう」
「でも、」
「そんなに痛がってるのに放ってはおけない」
まっすぐな瞳。私は少し間を置いて、こくりと頷く。
この人は悪い人じゃない。
「私は‥ユウです。ありがとうございます、レイチェルさん」
時計の下にあるベンチに腰掛けていたおばあさんにエニスさんへの伝言を頼んで、私はレイチェルさんを追いかけた。
***
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