03.情報屋は少女の影に惑わされる
名前の設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「おかわりはいかがかな?」
「いただきます」
ありがとう。言う私に、マスターが小さく微笑む。
隣ではサンドイッチを食べ終えたらしいユウが、カップに口を付けている。
「ユウちゃん、これサービス」
店員のシェリルさんがユウの前にカットしたオレンジを置いた。
シェリルさんはユウを妹のように可愛がってくれているようで、ユウもよく懐いている。
私がよく来る馴染みの喫茶店。朝食をここでとることもしばしばあった。
ユウを初めて連れてきた日から、何度ここへ足を運んだろう。
「‥ユウちゃん、よく笑うようになったね」
マスターが私に呟く。
私はカップを口に付け、肯定するように小さく笑った。
この二人も、今やユウを見守ってくれている人たちだ。
「ラックさん、今日は帰るの遅い日?」
「ああ‥そうですね」
「そっか‥」
しゅんとなるユウに思わず笑って、頭を撫でてやる。
「なるべく早く帰りますから。眠くなったら寝ててくださいね」
言えばぱっと顔を上げて笑うユウ。
ユウ自身は気付いていないようだが、本当によく笑うようになった。
「シェリル、これ貼っておいてくれるかい?」
「マスター‥私たちは今のままでもいいのよ?」
マスターが手渡したのは、アルバイト募集と書かれた紙。
「そういえば‥最近、もう一人の方見ませんね」
「ええ‥実は1ヵ月ほど前にやめてしまったの」
「元々4人だけの店だ、ただでさえ長時間入ってもらってるのに申し訳ないだろう?」
「なるほど‥」
視線を落とすと、ユウはじっと紙を見つめている。
「そうだ!ユウちゃんやらない?」
「えっ?」
「ウチの店はラックさんの家から近いし、6時で終わりだから遅くもならないし!どうかしら、マスター」
「私としては助かるが‥シェリル、そんなに突然言ってもユウちゃんが困るだろう」
ユウは数回目を瞬くと口を開いて、言葉を飲み込むように俯いた。
「わた、し‥」
やりたい。彼女の表情がそう言っている。
だがそう言わないのは、彼女が私に我が儘を言うまいとしているからだろう。
この程度の事、我が儘とは言わないのに‥
「やってみたらどうです?」
「、いいの‥?」
返事代わりに頭を撫でると、ユウは嬉しそうにマスターたちに頭を下げた。
「そろそろ行きます。ユウはどうしますか?」
「今日はお兄ちゃんのとこに行く日だから‥もうちょっとここにいる」
「気をつけてくださいね」
「うん、いってらっしゃい」
行ってきます、とマスターたちに頭を下げながら店を出る。
ユウはロニーさんと週に2、3回会う約束をしているらしい。
フィーロによれば、ロニーさんもユウを可愛がっているようで本物の兄弟のようだと。
しかし‥マルティージョファミリーの幹部の妹と、恋人でもないガンドールのボスである私が一緒に住んでいる、というのは‥
誰から見ても不可思議だろう。
それでも彼女をロニーさんの元に、と思わないのは‥
「何故でしょうね‥」
小さく息を吐き出す。その問いは誰に聞かれるでもなく雑踏にかき消され、私は再び歩みを進めた。
***
.