02.少女は無意識に人を魅了する
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「あの人はデイリー・デイズ新聞社のニコラスさんと言って、所謂情報屋なんです」
シャワーを浴びて髪を拭いていると、ラックさんがさっきのことを教えてくれた。
「情報屋?」
「ええ。表向きは新聞社ですが、マフィアや要人を相手に情報を売り買いしています」
小さく頷いたあと、私は話の真意が掴めず首を傾げる。
「もちろん、私たちのことも情報として仕入れて敵対するマフィアに売っています。ですから、ユウがガンドールと関係があると分かればユウのことも調べられてしまう」
「! 私が‥戸籍作ったって‥」
「それはロニーさんに任せておけば大丈夫だと思いますが‥」
前のめりになる私に苦笑して、ラックさんの手がくしゃりと頭を撫でる。
「私はユウを巻き込んでしまうのが怖い」
「巻き込む‥?」
そっか‥ラックさんたちと一緒にいたら、私が重荷になっちゃうかもしれないんだ。
「よく考えてください、ユウ。私たちはそういう世界の人間です。血の流れるような‥汚い世界です。あなたがそんな場所に足を踏み入れる必要はない」
まっすぐ逸らされない瞳。
「あなたはただ、スキアート家の養子。それだけでいい。この世界でその名はあなたを守ってくれます。私といては‥それが無駄になる」
ラックさんは汚い世界だと、自分は汚れた人間だと言う。
だけど‥私が会った人たちはみんな生き生きしてた。
誇りを持ってこの世界にいるんだって、よく分かるから。
「、ラックさんたちは汚い人間じゃないし、無駄になんてならないよ」
「え?」
確かに、私が住んでいた環境とは間逆な危険な世界かもしれない。
私がいたって迷惑になるだけかもしれない。
―――だけど。
「ラックさんの手‥すごく優しいから」
「‥‥‥、」
「私が今まで会った人みんな、まっすぐで温かかった」
差し出された手は温かく、向けられた笑顔が優しくて。
「他の人が何て言っても、私はラックさんたちが汚い人間だなんて絶対思わないよ?」
‥それにね。
私は一度死んで、ラックさんたちに救われた。
他の人が悪だと言っても、暗い世界だとしても。
「私は、ここがいいんです」
ラックさんのそばが。
へらりと笑った私に、ラックさんは驚いた表情のまま固まっていて。
「‥‥ラックさ、んっ」
覗き込んだ途端に腕を引かれて、思いっきり鼻をぶつけた。
顔を上げようとしたら背中からぎゅっと力がかけられて‥抱きしめられてるんだと知った。
「あなたって人は‥」
「?」
「喜ばせてどうするんです」
私‥喜ばせるようなこと言ったかな?
ドキドキとうるさくなる心音を感じながら、そっと胸に顔を埋める。
あったかい‥
ずっとこのままでいられたらいいのに――
そう思ったのもつかの間、
「すみません、紅茶でも入れましょうか」
ポンポンと背中を叩かれて、あっという間に体が離れてしまった。
「‥‥ユウ、」
なくなった温かさに少し落ち込んでいた私は、慌てて顔を上げてその背中を見る。
「ありがとうございます」
顔は見えなかったけど‥どうしてだろう?
なんとなく、ラックさんが優しく微笑んでいるような気がした。
***
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