02.少女は無意識に人を魅了する
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「こんにちは」
「おー、んじゃ行くか」
エニスさんに見送られて家を出る。ラックさんは早くに起きてお仕事に行ってしまった。
「フィーロさん、ロニーさんって怖い人?」
「なんだよ、昨日会ったじゃないか」
「だって‥ちょっとだけだったから」
フィーロさんはハットをかぶり直しながら、そうだなぁ‥と街を見回す。
「仕事に関しては鬼っつーか悪魔っつーか‥とにかく厳しいけど、普段はそんなでもねぇよ」
「そっか‥」
‥やっぱり少し不安。
だって、勢いで頼んじゃったけど考えてみれば突然お兄ちゃんができる訳で。
昨日初めて会った人と家族になるんだから。
「大丈夫だって!悪い人じゃねぇから!それは俺が保証する!」
ばしばしと背中を叩かれて、私は小さく頷いた。
アルヴェアーレについてフィーロさんの後ろに続いて行くと、ドアをノックして一つの部屋に入る。
「ロニーさん、失礼します」
「ああ」
私も頭を下げると、フィーロさんがハットをかぶり直して。
「じゃ、俺はこれで――」
「え‥フィーロさんっ」
反射的にフィーロさんの服を掴む。
もう行っちゃうの?、目で訴えれば、苦笑と一緒にあやすように頭を叩かれた。
「だって俺仕事あるし‥悪ィな」
ドアが閉められて訪れた静寂。
恐る恐る振り返ると、机の上で組んだ手に顎を乗せてじっと私を見ているロニーさん。
「あ、あのっ」
「なんだ」
「どうしてですか?」
質問の意図を図りかねてか、ロニーさんが無表情のまま続きを待っている。
「‥どうして、私を妹にって思ってくれたんですか?どうして、私を気に入ってくれたんですか?」
‥どうして、
「そんなに楽しそうな目で私を見るんですか‥?」
ロニーさんは初めて会った時から、まるで見たことのないおもちゃを見る子供みたいな目で私を見る。
その意味が分からなくて‥少し怖い。
「ほう‥いい洞察力だ」
ロニーさんはふっと笑うと、私に座るように促してくれる。
「俺はお前に興味がある」
「興味‥?」
「お前はこの世界の人間ではない」
違うか?、そう問うロニーさんに私は言葉を失った。
どうして、知ってるの‥?
「それは俺が悪魔だからだ」
「えっ!?」
「いや、俺は悪魔と呼ばれることは納得していないが‥‥周りは俺をそう呼ぶ」
よく分からない。
困惑する私に、ロニーさんは鋭い視線を向けたまま続ける。
「お前は世界を渡ってきた。悪魔を信じるのは簡単ではないのか?」
突然そんなこと言われて簡単に受け入れられるわけない。
ぐるぐると単語が頭を回って抜け殻みたいになっている私を見て、ロニーさんが楽しげに笑った。
「困ったことがあるのなら俺が助けてやろう。変わりに異質な存在であるお前を観察したい」
だから妹にと言った、分かったか?
続けられる言葉に、私はとりあえずこくりと頷く。
悪魔‥目の前にいるロニーさんはどこも人間と変わらないのに
フィーロさんたちは知ってるのかな‥?
「いや、知らない」
「ひぁっ‥‥こ、心読めるんですか?」
「‥さあな」
むぅ‥ロニーさんと話すの難しい‥
恨めしげに見ていると、机から紙を一枚取り出して見せるロニーさん。
差し出されたそれを恐る恐る受け取って英文を追った。
「こ‥せき、ユウ・スキアート‥これっ」
「俺は悪魔だが‥ユウ、お前のことは気に入っている。甘えたいのなら可愛がってやるが」
無表情で手を広げるロニーさんに、顔に熱が集まる。
家族としての甘え方なんて忘れてしまった。私には兄弟なんていなかったし。
だけど。奥にしまい込んだ家族の温かさを思い出して、私は素直にロニーさんに抱きついた。
「‥よろしくお願いします、お兄ちゃん」
へらりと笑うとお兄ちゃんは驚いたように目を丸くしていたけど。
「‥‥フッ‥まあいい」
くしゃりと撫でられた頭に、私は弛む頬を抑えられなかった。
***
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