ガラスの靴を捨てたなら。
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「おいペッシ! そろそろ出掛けねえと遅刻しちまうぞ! 」
「アニキ~~! 待ってくれよお! まだ包み終わってないんだぁ! 」
ある朝のこと、プロシュートとペッシはバタバタと音を立てながら何やら慌ただしくしていた。何をこんなにバタバタしているかというと、今日は彼らの友人である凪子と、その友人であるナランチャと会う予定があるからだ。
「ペリエはいれたか? それからクラッカーとチーズ、あとキッシュは決して傾けるんじゃあねえぞ」
「もちろんだよアニキ! 今日の為に二人で一生懸命焼いたんだ! 」
そうだぜ。良くやったじゃあないか、お前は本当にやれば出来る子だな、とプロシュートはペッシの頭をわしゃわしゃと撫でた。もちろん、プロシュートによって綺麗にセットされた髪を崩さないようにしながら。
「ペッシ、今日の予定を言ってみろ」
「うん? 今日は凪子とその友達とナポリ湾で釣りをしますぜ」
「そうだ、その通りだ……ただ……」
何があってもスタンドだけは出さないこと、自分達がパッショーネというギャングの組織の人間であること暗殺稼業をしていることを凪子達には言わないこと。それだけは絶対に約束だ、守れ。
プロシュートはペッシの肩に両手を置き、しっかりと目を見つめながらそう告げた。
ペッシも、プロシュートの目をしっかりと見つめ頷いた。
―――――――――――――――――――――――
ナポリ湾、イタリア南西部に位置する地中海の湾である。ナポリ湾にはカプリ島、イスキア島、プローチダ島が浮かんでいる。高台からはポンペイの遺跡が見える。青い海には所々にカラフルなヨットや船が停めてあり鮮やかである。
「おはよう二人とも。待ち合わせより早く着いたと思ったんだけど、二人の方が到着が早くてびっくりしちゃった」
「シニョリーナを待たせるわけには行かねえからな」
流石はイタリア男ね、といった様に凪子はくすくすと笑っている。凪子は彼女の隣でそわそわしているナランチャをペッシ達に紹介した。
「えっと……初めまして。オレはナランチャ。凪子の友達……です」
「オレはプロシュート。隣の連れはペッシだ。よろしくな」
ナランチャはいつになく珍しく緊張している様に見える。普段の明るく無邪気な様子とはうって代わり、人見知りをしているようだ。ナランチャとペッシは少し恥ずかしそうにお互いを見つめ合ったあと、歩きながらぽつりぽつりと会話を始めた。
「お前のアニキってすげーかっこいいんだな。なんていうか大人の男って感じでさ」
「そうだろ!? そうなんだよ。プロシュート兄はかっこいいんだ」
一連のやり取りを聞いていたプロシュートは嬉しさとほんの少しの気恥ずかしさの様な物で頬を赤く染めている。
「ほんと、プロシュートは大人の男性って感じよね」
「まあな。良く分かってるじゃあねえか。 オレはそこら辺の奴らとは段違いだからな」
そんな話をしながら、一行は釣り堀に到着した。レジャーシートを敷き、バスケットから持参したお弁当や飲み物を並べる。
「みんなお腹すいたでしょ? まずは腹ごしらえしなくちゃだね」
一同から歓声が上がり、食事が始まる。
シートの上に並んだ食べ物は、凪子の持ってきたお弁当。プロシュート達の持ってきたクラッカーにチーズ、野菜とサーモンのキッシュ、それからペリエとフルーツのシロップ。お弁当の中身はハンバーグに小さく作られたグラタン、玉子焼きなどが入っている。
「わぁ~~~! すっげー上手そう! なんか洒落た飲み物もある!」
「流石プロシュート。食べ物のセンスも良いんだね」
プロシュートはそれぞれのコップにフルーツのシロップを注ぎ、その上からペリエを注いでマドラーでくるくると混ぜる。ペリエから出る炭酸がしゅわしゅわと爽やかな音を立て、コップの中で泡が海岸を照らす太陽でキラキラと輝いている。
「凪子、アイスティー持ってきてたよな? あれも少し入れるとティーソーダが作れるんだ。美味いぜ」
「アイスティーあるよ。それすごく美味しそう。後で頂くわ」
凪子とプロシュートがゆっくりと優雅に過ごしている間、ナランチャとペッシはおおはしゃぎで食事にありついていた。
「この黄色くて甘いやつ! 美味い! 」
「だろ~? 凪子が作ったんだぜ。玉子焼きっていう日本料理なんだ」
最初はぎこちなかった二人も直ぐに打ち解けて楽しそうに会話をしながら食事を楽しんでいる。凪子とプロシュートはついつい食べることを忘れて彼らが楽しそうに食事をする姿に見入ってしまっていた。
ナランチャの、早く食べないとペッシと二人で全部食べてしまうぞという発言でプロシュート達は慌てて手を進める。
「キッシュ……すごく美味しい。誰が作ったの? 」
「口に合って良かったぜ。これはオレとペッシで作った」
アニキはかっこいいだけじゃあなくて料理上手なんだぜ! とペッシは誇らしそうに笑っている。それを見たナランチャも負けじと凪子の料理上手エピソードを語り始める。
そんなこんなで楽しい時間は過ぎ、カプリ湾は夕陽で紅く染まっていた。
「結構釣れたな。流石オレのペッシだ」
「ペッシ! ほんとお前すげえな! 次は負けないぜ~~」
ペッシは皆に褒め称えられ、そんなこと無いよと謙遜するが満更でも無いように見えた。釣った魚を取り分け、帰宅する準備をする。
「ナランチャ、今日は一緒に遊んでくれてありがとう。オレで良かったらまた遊んでほしい」
「おう。もちろんだぜペッシ。次は何して遊ぶか考えないとな」
ナポリ湾に太陽が沈んで行く。余りにも綺麗過ぎる様子に、ナランチャとペッシは興奮して砂浜の方へと走り出した。あまり遠くに行くんじゃあないぞとプロシュートが制止をしたが、きっとその声は届いていないのだろう。
「今日はありがとうな。凪子のお陰でペッシはすごく楽しそうだった」
「私も楽しかったよ。プロシュート達の手料理また食べたいな」
プロシュートはペッシだけでなく自分も物凄く楽しかったことを伝えたかったが、急に二人きりになったことから柄にも無く恥ずかしくなり伝えることが出来なかった。
二人の間には無言の時間が続く。
凪子は落ちていく夕陽に見惚れるプロシュートの、人形の様に整った横顔を眺めていた。
「綺麗な顔……」
「ああ? 何か言ったか? 」
思わず出てしまった凪子の心の声をプロシュートは聞き逃さなかった。彼女は何も言ってないと否定をするがそんな弁解は通じない。
「お前も充分綺麗な顔してるぜ」
彼の意表を突く発言に、凪子は顔を真っ赤にし声にならない声を発している。
その後、浜辺から戻って来たナランチャ達に何を二人で話していたのかと問い詰められたが凪子とプロシュートは決して口を割らなかったのであった。
→ to be continued