◇護衛チーム◆
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「はあ……もうすぐホワイトデーか……」
アバッキオは一人アジトのリビングに座り、溜め息をついていた。アバッキオはチームのメンバーであり、彼の想い人である凪子へのホワイトデーのお返しで悩んでいるのである。もちろん、街に行けば洋菓子の店は腐るほどあるし、アジトの近所にも店はある。
しかし、凪子が他のメンバーにもバレンタインにチョコレートを渡しているので他のメンバーとお返しの内容を被らせたくない。
「ジョルノのやつなんかはこういうの慣れてんだろうな……」
アバッキオの脳裏には凪子を手慣れた様子でエスコートするジョルノの姿が過った。しかしまあ、ジョルノのことを考えたって仕方がない。彼のことを考えるのはやめてホワイトデーのお返しを何にするかに集中すべきだ、とアバッキオは頭を切り替える。
そういえば、とソファーの隣の棚に目を向けると予想通り凪子が読んでいた雑誌があった。ぱらぱらとページをめくって行くと、アクセサリーに洋服、コスメにヘアアレンジ、女性の好む様々な記事がそこにはあった。様々な記事を読んでいる内に、彼は何か良さげな物を見つけた。
「ふーん……こういうのも悪くねえ」
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そして迎えたホワイトデー当日。
アバッキオは彼女が一人で庭の草木に水をやっているのを確認すると、彼女に声を掛けた。
「凪子。こないだ植えたの元気に育ってるか? 」
「うん。地植えにしないと可哀想なぐらいに元気よ」
アバッキオはしばし無言のまま、水やりをしている彼女の様子を静に見ていた。
「あなたも手伝ってくれる? 」
「ああ、そうだな。収穫したやつはオレも食べてるわけだし」
しまった……完全にタイミングを失った。お返しのプレゼントを小脇に抱えながら水をやる。一体何をやっているんだ自分は、とアバッキオは焦りを感じていた。
「あっ! それはだめ! 」
「えっ……?」
アバッキオは間違えてナランチャの育てているサボテンに水をやってしまったのだ。小さな植木鉢からは抱えきれなくなった水がじわじわと流れている。そして「ナランチャ」という文字とサボテンの絵が描かれた札がぐずぐずになった土の上でぱたりと力無く倒れてしまっている。
「すまねえ……」
頭の中がお返しを渡すことでいっぱいになっていたとはいえ、少々ぼーっとしすぎていた。あのサボテンもナランチャが毎日「元気か?」などと言って声を掛け、可愛がっている様子を見ていただけに申し訳ない気持ちになる。
「荷物持ってる人に手伝わせちゃったから、手元が狂ったのね。私の方こそごめんなさい」
あとでナランチャには私から説明して、萎れたサボテンはジョルノになんとかしてもらうから大丈夫、と彼女は笑っている。アバッキオは彼女のそういうところが嫌いで、そういうところが愛しくて仕方ないのだ。
良く言えばお人好しで優しく、悪く言えば他人に甘い。凪子にはそういうところがある。
「オレは……アンタのそういうところが嫌いで……」
「アバッキオ? どうしたの? 」
アバッキオの手はぎゅっと握られ、プレゼントの入った袋には皺がよっている。
「そういうところが好き……なんだよ……っ!」
もう知らないといった感じで自暴自棄になったアバッキオは近くに落ちていた小石を蹴った。顔は耳まで真っ赤になっている。凪子は突然の出来事に、どうして良いか分からずただただ立ち尽くすことしか出来ない。
「それから、これ! お返しだ! ホワイトデーの! 」
真っ赤にした顔を手で隠し、凪子から顔を背けながらぶっきらぼうにプレゼントを差し出した。
「わあっ……! ありがとう。開けて……」
「開けるのはダメだ! 後で一人で開けろ。……恥ずかしいからな」
わかったよ、と嬉しそうに微笑んだ凪子を見て、アバッキオは安堵の溜め息をついた。
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あれから数日が経った。
「凪子。髪につけているそれ、良く似合っているな」
「ありがとうブチャラティ。こないだ彼氏にもらったのよ」
「彼氏!????」
その場にいたアバッキオ以外のチームのメンバーが大きな驚きの声を上げる。アバッキオは飲んでいたお茶を口から吹き出した。
「アバッキオ! お茶吹きやがった!ばっちぃ~~~! 」
「うるせぇナランチャ! てめーらが大きな声だすからだろうが」
「それよりも、凪子? 彼氏とは一体どういうことなんですか? 」
ジョルノに引き続いてフーゴとミスタも食い入るように詰め寄ってくる。特にフーゴなんかは動揺が隠しきれず、手をぷるぷると震わせて眉間に皺がよっている。
「えっと……その、こないだのホワイトデーの時に、ね?」
予想外の反応に恐怖を感じながらも、詳しい事情の説明を要求されたので凪子は恐る恐る事情を説明した。ホワイトデーの日にアバッキオに告白されたこと、凪子も彼の事が気になって居たため告白を受け入れたこと。
「なるほど、良くわかったぜ。でもよ? なぁ~~んか抜け駆け感が否めないんだよな」
「ミスタの言うとおりだ。アバッキオ、抜け駆けは良くないんじゃあないか? 」
ミスタはアバッキオに額が触れそうなくらいに詰めより、周りではピストルズが野次を飛ばしている。
「ミスタ、そういうのは止しましょう。アバッキオに先を越されたなら仕方がない。彼だって覚悟の上での行動でしょうから」
「ああ? 何言ってんだテメーは?」
ミスタに洋服を掴まれ、アバッキオはミスタと揉み合いになっていたがジョルノの静止により、二人は冷静さを取り戻した。
「あなた、覚悟して来ているんですよね? 可愛い可愛い凪子を独り占めするなんて……皆が許すと思いますか? 」
「ジョルノ! おい! 待て、やめろ! 」
アバッキオがソファーの後ろに隠れるよりも早く、ジョルノはアバッキオの身体を捕らえた。
「さあ、皆。これでアバッキオへのお仕置きの準備が出来ましたよ。凪子を独り占めしようなんて良い度胸だ」
「ええっ! みんな……! ちょっと待ってよ! 」
アバッキオを取り囲むジョルノ達の目は輝いていた。そして、もう凪子の制止の声は彼らには届くことはなかった。