第一章
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シーカーキャンプから離れれば離れる程に濃くなる闇。鬱蒼と繁る逆さ森が力場からの光を阻む所為であろうか、二層の奥地ともなると光は殆ど通らない。二人は探窟帽に付いた石灯の青白い光を頼りに慎重に歩みを進めてゆく。
何が起こるか解らぬ奈落。ジルオはこの手を離すまいとしっかりルトの手を握っていたつもりだったのだが……「あ、」という声と共にするりと解けてしまった小さな手のひら。
「待て、ルト!」
何かを見つけたのか、突然小走りしだしたルトをジルオは追いかける。その視線の先をジルオが辿れば暗闇の中でキラリと光る小さな紅い点が二つ。
「わ、これ……ネリタンタン?」
立ち止まりしゃがみこんだルトの足元に居たのは愛らしい姿の小さな原生生物。
それは確かにルトが口にした名の大人しく無害な原生生物の姿に良く似ていた。
だが――本来ならネリタンタンは三層にのみ生息する原生生物だ。
桃色の毛並みに黒点を散らしたような斑模様をした小動物にルトは手をそっと伸ばそうとしているが……ネリタンタンにはそのような斑点模様はない。似ているようで異なる原生生物の正体に気づいたジルオは青ざめながら制止の声を張り上げる。
「ルト!それに触れるな!!」
「え、?!、!!」
鬼気迫るジルオの声にルトの肩がビクリと跳ね上がり、毛並みに触れようとした小さな手がすんでの所で止まる。同時にルトの身体を浮遊感が襲い――ジルオに抱き上げられた、とルトが認識した時には小動物は二人を〝敵〟とみなしたのだろう、キキッと小さく鳴き尻尾を振り上げて威嚇行動を取り始めた。
(――――不味い!!)
この原生生物の名は〝 タオラート〟――無害なネリタンタンとは違い、肛門腺から毒ガスを噴出する原生生物だ。
ジルオはルトを抱えながら素早く風上に向かって駆け距離を取ったが……タオラートは既に二人を標的に定め攻撃の意思を持ち肛門を此方側へと向けている――最早ガスの噴出は免れないと苦々しい表情でジルオは悟った。
首筋を伝い落ちる一筋の冷や汗。ジルオは努めて冷静に「息を止めていろ、ルト」と腕の中に居るルトへと告げ、右手で一本のナイフを取り出して静かにそれを構えた。
只事じゃない雰囲気をジルオから感じ取ったルトはその身を強ばらせながらもこくりと一度だけ頷く。それを確認したジルオはガスの影響を少しでも受けないようにとルトの顔を自身の胸元に密着させるようにして後頭部をがっしり押さえこみ、眼光鋭くタオラートを睨みつけた。
(絶対に――――外しはしないッ!!)
渾身の力で投げつけられたナイフがヒュッと空を裂き、ジルオの思惑通りに刃は的を貫いた。ギィッ!と断末魔を上げタオラートは絶命したのだが――体内に有るガス袋まで破けたのか、辺りに桃色のガスがボフン!と拡がってゆく。
「く……ッ!」
石灯に照らされてガスがモワモワと近づいてくるのがわかる。
ジルオは更に距離を取るべくルトを抱えたまま後方へと大きく飛び退くも……仄かに甘い芳香がジルオの鼻腔を僅かに擽った。
ルトは何がどうなったのだろう、と思いながらジルオの腕の中で身じろぎする。あの小動物の命が絶たれた事は感じ取れたが……いつまでこのままの状態なのか。
未だ己の後頭部は大きな手のひらでしっかりと押さえ込まれたまま。汗ばんでいる気配がする逞しい胸からルトは顔を離して貰えず、辺りを伺う事は出来ない。
ジルオの動きから察するにどうやらあの場所から離れるべく抱き抱えられたまま歩いている、というのは分かるのだが……。
「……っ、……っ、」
止めていろ、と言われた息もそろそろ限界に近い。
ルトが無言でジルオの服を引けばそれを察したジルオに「あぁ……すまん。呼吸は少しならしても構わない。だが、念の為まだこの状態で、喋らずに居てくれ」と小声で告げられた。
ルトは素直に頷いて一呼吸分だけ息を吸う。
(…………ジルオさんのにおいが、濃い……)
やっと呼吸が出来たというのに、余計に息苦しくなってしまった気がするのはこの状況に高鳴ってしまった鼓動の所為か。
木々を揺らす風の音。ジルオが地面を踏みしめて歩く足音。他にも此処には様々な音が存在している筈なのに。それら全てを掻き消す程に自身の心音がルトの中で大きく響く。
「――――っ、」
胸が、痛い。切なくて、苦しい。でも、出来るなら――もっと、ずっと、こうして居たい。
声に出せない感情を、気持ちを、どうにかしてジルオへと伝えたくてルトはジルオの服をぎゅっと握りしめる。
「ん?……もう少しの辛抱だ、ルト。息苦しいだろうが……我慢してくれ」
宥めるように優しく響くジルオの声。
だが、ジルオの返したそれはルトが欲していた言葉や反応では無くて。
声にしなければ、言葉にしなければ、伝わる訳がないとわかってはいたけれども。
(違う……違うんです……今、私が苦しいのは、息苦しいからじゃなくて……貴方の所為なんです、ジルオさん……)
言えない言葉を飲み込んでルトはジルオの手が押さえつける力よりも強く、自らジルオの胸元へとぐりぐり額を押し付ける――せめて、離れたくないという気持ちだけでも伝わればいいのに、と。
タオラートを仕留めてから時間にして五分程歩いただろうか。
ここまで来れば問題ないだろう、そう判断したジルオは「ルト、もう大丈夫だ。普通にしていいぞ」とそっとルトの身体を降ろしてやった。
ジルオとしては優しく声をかけたつもりだったのだが――彼女の表情が曇って見えるのは先程の顛末の所為で俺にキツく叱られると思っているからか……?とジルオは首を傾げる。
(いや、その前に俺はルトがタオラートに触れようとした際、結構な剣幕でルトを止めたな……?)
よほど俺の顔が怖かったのか……とジルオは一人納得する。だが、それはこちらも必死だったのだから仕方がない事だ。
そして、そんな事よりも今はルトの身体にガスの影響が出てないかを確認する方が先決だと思い直したジルオは片膝をついてしゃがみこみ、ルトと目線を合わせて口を開く。
「ところでルト。……君は身体の何処かに異変や異常はないか?」
「い、異変、ですか……?そ、その………ちょっと、心臓がドキドキ、してます……けど、」
「動悸??他に異常は無いか?例えば……そうだな……身体が火照るような、熱感を感じたりなどはしてないか?」
「熱……?熱っぽさは特に無いかと……」
ルトの言葉にジルオは「そうか……ならば安心した」と胸を撫で下ろした。火照りや熱感が無いなら恐らくガスの影響は受けていない。
動悸はガスの所為ではなく酸欠の所為だろう、とジルオは結論づける。
(それにしても……俺が吸ってしまったガスは微量だったというのに、この有様か……)
ジルオ自身、今まさに己の身体に起きつつある異変を感じ取っていた。
身体の一部に熱が集まり、ある種の『欲求』が高まってゆくのがわかる。
それは『理性』を失うまでには至っていないが――それでも身体は正直というものなのだろうか。むくむくと主張してゆく股間のそれにジルオは深いため息を吐いた。
(これを至近距離でルトが吸ってしまっていたらと思うと……肝が冷えるな……)
あのガスを噴出する前にタオラートを仕留められたのは不幸中の幸いだった。あれを勢い良く噴出されていたら……ガスは二人を容赦なく包み込んでいたかもしれない。
タオラート――その俗称は〝オナタンタン〟若しくは〝ジータンタン〟
この原生生物が噴出するガスの効果――それは主に性欲を亢進させ感覚を鋭敏にする強力な催淫作用であり、平たく言えばそのガスは強烈な『媚薬』である。持続効果は凡そ三十分から一時間。
その毒は一度でも身体が絶頂に至れば即座に抜ける――要するに、すぐに毒を抜きたければタオラートの俗称が示すように自慰行為を行えば良いのだが。
(俺が吸ったガスはほんの僅かだ。ガスの作用で身体は反応してるとはいえ処理の必要は……、)
ジルオが思案を巡らせれば「あの、ジルオさん……、」とおずおずとしたルトの声。
「なんだ?」
「その、勝手な行動をしてごめんなさい……」
「…………。」
しょんぼりと謝罪の言葉を述べるルトの眉はすっかり下がりきり、今にも泣き出しそうになっていて。
湖面に映る新緑のように揺らぎ潤むルトの瞳に見つめられて更に膨らむジルオの中のナニか。
自身に潜む煽情や劣情。煽られ慣れていない雄としての情欲を刺激されてジルオは思わず生唾を飲み込んだ。
「えっと……ジルオさん……?」
「っ、!!」
不安そうに己の名を呼ぶルトの声が耳に届いてジルオはハッと我に返る。
(待て……!俺は今なにを考えていた?!)
バクバクと脈打つ拍動が耳に煩い。
これも……先程食らった毒ガスの所為か。
「あ、あぁ……いや、すまん。先程の原生生物を倒した時に少々ガスを吸ってしまってな。その影響で少しボーッとしていた」
「……ガス?え、えぇ?!大丈夫ですか、ジルオさん!?」
「まぁ……命に関わる程の毒ガスではないのでな……問題はない。アレはネリタンタンではなくタオラートという別種でな。とりあえず……三十分程休憩を挟もうか。その間に俺の中に入った毒も抜けるだろう」
今、己が感じ取っているこの度し難い欲求。
その全ては自身の身体に入りこんだ〝毒〟が魅せている幻だ。
食らってしまった毒を言い訳に彼女を穢す訳にはいかない。そう自身にキツく言い聞かせながらジルオは唇を噛み締めた。
何が起こるか解らぬ奈落。ジルオはこの手を離すまいとしっかりルトの手を握っていたつもりだったのだが……「あ、」という声と共にするりと解けてしまった小さな手のひら。
「待て、ルト!」
何かを見つけたのか、突然小走りしだしたルトをジルオは追いかける。その視線の先をジルオが辿れば暗闇の中でキラリと光る小さな紅い点が二つ。
「わ、これ……ネリタンタン?」
立ち止まりしゃがみこんだルトの足元に居たのは愛らしい姿の小さな原生生物。
それは確かにルトが口にした名の大人しく無害な原生生物の姿に良く似ていた。
だが――本来ならネリタンタンは三層にのみ生息する原生生物だ。
桃色の毛並みに黒点を散らしたような斑模様をした小動物にルトは手をそっと伸ばそうとしているが……ネリタンタンにはそのような斑点模様はない。似ているようで異なる原生生物の正体に気づいたジルオは青ざめながら制止の声を張り上げる。
「ルト!それに触れるな!!」
「え、?!、!!」
鬼気迫るジルオの声にルトの肩がビクリと跳ね上がり、毛並みに触れようとした小さな手がすんでの所で止まる。同時にルトの身体を浮遊感が襲い――ジルオに抱き上げられた、とルトが認識した時には小動物は二人を〝敵〟とみなしたのだろう、キキッと小さく鳴き尻尾を振り上げて威嚇行動を取り始めた。
(――――不味い!!)
この原生生物の名は〝 タオラート〟――無害なネリタンタンとは違い、肛門腺から毒ガスを噴出する原生生物だ。
ジルオはルトを抱えながら素早く風上に向かって駆け距離を取ったが……タオラートは既に二人を標的に定め攻撃の意思を持ち肛門を此方側へと向けている――最早ガスの噴出は免れないと苦々しい表情でジルオは悟った。
首筋を伝い落ちる一筋の冷や汗。ジルオは努めて冷静に「息を止めていろ、ルト」と腕の中に居るルトへと告げ、右手で一本のナイフを取り出して静かにそれを構えた。
只事じゃない雰囲気をジルオから感じ取ったルトはその身を強ばらせながらもこくりと一度だけ頷く。それを確認したジルオはガスの影響を少しでも受けないようにとルトの顔を自身の胸元に密着させるようにして後頭部をがっしり押さえこみ、眼光鋭くタオラートを睨みつけた。
(絶対に――――外しはしないッ!!)
渾身の力で投げつけられたナイフがヒュッと空を裂き、ジルオの思惑通りに刃は的を貫いた。ギィッ!と断末魔を上げタオラートは絶命したのだが――体内に有るガス袋まで破けたのか、辺りに桃色のガスがボフン!と拡がってゆく。
「く……ッ!」
石灯に照らされてガスがモワモワと近づいてくるのがわかる。
ジルオは更に距離を取るべくルトを抱えたまま後方へと大きく飛び退くも……仄かに甘い芳香がジルオの鼻腔を僅かに擽った。
ルトは何がどうなったのだろう、と思いながらジルオの腕の中で身じろぎする。あの小動物の命が絶たれた事は感じ取れたが……いつまでこのままの状態なのか。
未だ己の後頭部は大きな手のひらでしっかりと押さえ込まれたまま。汗ばんでいる気配がする逞しい胸からルトは顔を離して貰えず、辺りを伺う事は出来ない。
ジルオの動きから察するにどうやらあの場所から離れるべく抱き抱えられたまま歩いている、というのは分かるのだが……。
「……っ、……っ、」
止めていろ、と言われた息もそろそろ限界に近い。
ルトが無言でジルオの服を引けばそれを察したジルオに「あぁ……すまん。呼吸は少しならしても構わない。だが、念の為まだこの状態で、喋らずに居てくれ」と小声で告げられた。
ルトは素直に頷いて一呼吸分だけ息を吸う。
(…………ジルオさんのにおいが、濃い……)
やっと呼吸が出来たというのに、余計に息苦しくなってしまった気がするのはこの状況に高鳴ってしまった鼓動の所為か。
木々を揺らす風の音。ジルオが地面を踏みしめて歩く足音。他にも此処には様々な音が存在している筈なのに。それら全てを掻き消す程に自身の心音がルトの中で大きく響く。
「――――っ、」
胸が、痛い。切なくて、苦しい。でも、出来るなら――もっと、ずっと、こうして居たい。
声に出せない感情を、気持ちを、どうにかしてジルオへと伝えたくてルトはジルオの服をぎゅっと握りしめる。
「ん?……もう少しの辛抱だ、ルト。息苦しいだろうが……我慢してくれ」
宥めるように優しく響くジルオの声。
だが、ジルオの返したそれはルトが欲していた言葉や反応では無くて。
声にしなければ、言葉にしなければ、伝わる訳がないとわかってはいたけれども。
(違う……違うんです……今、私が苦しいのは、息苦しいからじゃなくて……貴方の所為なんです、ジルオさん……)
言えない言葉を飲み込んでルトはジルオの手が押さえつける力よりも強く、自らジルオの胸元へとぐりぐり額を押し付ける――せめて、離れたくないという気持ちだけでも伝わればいいのに、と。
タオラートを仕留めてから時間にして五分程歩いただろうか。
ここまで来れば問題ないだろう、そう判断したジルオは「ルト、もう大丈夫だ。普通にしていいぞ」とそっとルトの身体を降ろしてやった。
ジルオとしては優しく声をかけたつもりだったのだが――彼女の表情が曇って見えるのは先程の顛末の所為で俺にキツく叱られると思っているからか……?とジルオは首を傾げる。
(いや、その前に俺はルトがタオラートに触れようとした際、結構な剣幕でルトを止めたな……?)
よほど俺の顔が怖かったのか……とジルオは一人納得する。だが、それはこちらも必死だったのだから仕方がない事だ。
そして、そんな事よりも今はルトの身体にガスの影響が出てないかを確認する方が先決だと思い直したジルオは片膝をついてしゃがみこみ、ルトと目線を合わせて口を開く。
「ところでルト。……君は身体の何処かに異変や異常はないか?」
「い、異変、ですか……?そ、その………ちょっと、心臓がドキドキ、してます……けど、」
「動悸??他に異常は無いか?例えば……そうだな……身体が火照るような、熱感を感じたりなどはしてないか?」
「熱……?熱っぽさは特に無いかと……」
ルトの言葉にジルオは「そうか……ならば安心した」と胸を撫で下ろした。火照りや熱感が無いなら恐らくガスの影響は受けていない。
動悸はガスの所為ではなく酸欠の所為だろう、とジルオは結論づける。
(それにしても……俺が吸ってしまったガスは微量だったというのに、この有様か……)
ジルオ自身、今まさに己の身体に起きつつある異変を感じ取っていた。
身体の一部に熱が集まり、ある種の『欲求』が高まってゆくのがわかる。
それは『理性』を失うまでには至っていないが――それでも身体は正直というものなのだろうか。むくむくと主張してゆく股間のそれにジルオは深いため息を吐いた。
(これを至近距離でルトが吸ってしまっていたらと思うと……肝が冷えるな……)
あのガスを噴出する前にタオラートを仕留められたのは不幸中の幸いだった。あれを勢い良く噴出されていたら……ガスは二人を容赦なく包み込んでいたかもしれない。
タオラート――その俗称は〝オナタンタン〟若しくは〝ジータンタン〟
この原生生物が噴出するガスの効果――それは主に性欲を亢進させ感覚を鋭敏にする強力な催淫作用であり、平たく言えばそのガスは強烈な『媚薬』である。持続効果は凡そ三十分から一時間。
その毒は一度でも身体が絶頂に至れば即座に抜ける――要するに、すぐに毒を抜きたければタオラートの俗称が示すように自慰行為を行えば良いのだが。
(俺が吸ったガスはほんの僅かだ。ガスの作用で身体は反応してるとはいえ処理の必要は……、)
ジルオが思案を巡らせれば「あの、ジルオさん……、」とおずおずとしたルトの声。
「なんだ?」
「その、勝手な行動をしてごめんなさい……」
「…………。」
しょんぼりと謝罪の言葉を述べるルトの眉はすっかり下がりきり、今にも泣き出しそうになっていて。
湖面に映る新緑のように揺らぎ潤むルトの瞳に見つめられて更に膨らむジルオの中のナニか。
自身に潜む煽情や劣情。煽られ慣れていない雄としての情欲を刺激されてジルオは思わず生唾を飲み込んだ。
「えっと……ジルオさん……?」
「っ、!!」
不安そうに己の名を呼ぶルトの声が耳に届いてジルオはハッと我に返る。
(待て……!俺は今なにを考えていた?!)
バクバクと脈打つ拍動が耳に煩い。
これも……先程食らった毒ガスの所為か。
「あ、あぁ……いや、すまん。先程の原生生物を倒した時に少々ガスを吸ってしまってな。その影響で少しボーッとしていた」
「……ガス?え、えぇ?!大丈夫ですか、ジルオさん!?」
「まぁ……命に関わる程の毒ガスではないのでな……問題はない。アレはネリタンタンではなくタオラートという別種でな。とりあえず……三十分程休憩を挟もうか。その間に俺の中に入った毒も抜けるだろう」
今、己が感じ取っているこの度し難い欲求。
その全ては自身の身体に入りこんだ〝毒〟が魅せている幻だ。
食らってしまった毒を言い訳に彼女を穢す訳にはいかない。そう自身にキツく言い聞かせながらジルオは唇を噛み締めた。