短編
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シーカーキャンプ玄関口。
いつもならジルオへと真っ先に飛びつくルトは「え……?」と小さな声を漏らしたきり、すっかり固まってしまっていた。
微動だにせずにすっかり驚いているルトの姿を眺めるジルオは、まぁ……無理もないか……と息を吐く。
そんなジルオの傍らには、ルトにとって思いもよらぬサプライズとも言うべき少女の姿。
「……………………………リコ?」
「ルトー!久しぶりーー!!」
驚きの余りに喉を詰まらせていたルトはやっとの思いで片割れの名を呼ぶ。
すると、それが合図と言わんばかりに満面の笑みを浮かべたリコが「2年ぶりだね!!会いたかったよーーー!!!」と弾丸のように飛びつき、その衝撃でルトは「ぶゅむぐぅ?!!」と悲鳴を上げて尻もちをついた。
リコは片割れとの再会が余程嬉しかったようで、ルトの頬にむぎゅむぎゅとほっぺたを押し付けている。ルトが困惑しようとお構いなしだ。
ルトはリコから熱烈な抱擁を受けながらも必死にジルオへと視線を向ける。……何でここにリコが?と言わんばかりのその目線に、ルトの気持ちを察したジルオは「驚かせてすまないな、ルト」と苦笑しながら口を開いた。
「……リコがどうしても君とやりたい事があるとゴネまくってな。俺が組合に申し出て特例措置を得て何とかここへ連れてきたんだ」
ジルオの言葉にルトは無言のままパチパチと瞬きを繰り返した。
特例というモノはそんなに簡単に下りるモノなのだろうか……と、ルトは頭に疑問符を浮かべているようだが、現に目の前にリコがいるのだ。
ジルオが言っている事は事実なのだろうと受け止めた様子でルトは漸くまともに口を開く。
「えと……、リコ。会えたのは嬉しいんだけど……いったい、何しにここに来たの?」
「リーダーにホットケーキ作るんだよルト!」
「……ほっとけぇき?」
ホットケーキって何だろう?とルトが首をコテンと傾げればリコが「これだよ!」とレシピをビシィ!と眼前に突きつけた。
「ラフィーおばさまに教わったの!」というそれはどうやら〝焼き菓子〟に相当するモノらしい。
「でも、リコ……何で突然?私……お菓子なんて作ったこと、ないよ?」
「あのね、ルト!今日ってリーダーの誕生日なんだよ!」
「ジルオさんの、たんじょうび……」
「そうそう!このホットケーキっていうのなら私たちでも作れるんじゃないかなーって!」
リコは「誕生日と言えば、やっぱりケーキでお祝いでしょ!」と得意気に言い放つ。
ルトはイマイチ状況を理解出来ていないのか、リコの剣幕に押されるようにして「けぇき……」と小さく呟いた。
だが、ルトにもジルオの誕生日を祝いたいという気持ちは有るらしく。
ルトは眉を寄せて真剣な顔でレシピを読み込むと「ぷむ……まずは、練習……だね」と大きく頷いた。
「……で。俺の為のホットケーキ作りだと言うのに……なぜ俺が監督役に借り出されているんだ?」
「だって。子どもだけで火を使うなって言ったのは他ならぬジルオさんじゃないですか」
「そうですよ!本当ならルトと私の2人だけでホットケーキを作るつもりだったんですからね、リーダー!」
いや、俺は確かにそうは言ったが……シーカーキャンプに他の大人は居なかったのか?と呆れつつジルオが嘆息を漏らせば、どうやら都合悪く自分以外の大人は今現在此処には存在しなかったらしい。
おかげで、ジルオはキャッキャッとはしゃぐルトとリコの2人から手を引かれ、半ば強引にシーカーキャンプのキッチンへと通されてしまった。
「……あ。でもジルオさんは見てるだけですよ?作るのは、リコと私ですからね!」
「ルトの言う通りですよ、リーダー!手出しは無用です!」
揃いのエプロンを身につけたルトとリコの2人はジルオの事をズビシィ!と指で差して宣言する。
如何にもやる気充分な様子の2人の姿。
本音を言えば火を使うような作業を幼い2人のみに任せたくは無かったのだが……そんな双子の姿を目にすればジルオも根負けして了承せざるを得なかった。
「わかったわかった。俺は手出しをしないから……2人だけでまずはやってみろ」
キラキラと輝く新緑の瞳から溢れんばかりに伝わってくる双子の熱意。
やれやれ……とジルオは眉を下げ、首をゆっくり横に振ると小さく両手を挙げた。
すると、早速ルトがレシピを凝視しながら卵をむんずと引っ掴む。
「えっと。……それじゃ、まずは卵を割る!」
卵を割るくらいなら問題なかろう、リコだって孤児院での手伝いで良くしている事だ、とジルオはルトの姿をのんびりと眺めていたのだが。
……ルトはジルオが予想していた遥か斜め上を行くやり方でグシャアァァ!と卵を割った。
「?!待てルト!それは卵を割るとは言わないぞ?!寧ろそれは潰していると言わないか?!」
柑橘類を絞るが如く両手を使って卵を潰したルトの姿に、ジルオの手は出ずとも口から勢い良く突っ込みの言葉は飛び出した。
リコもルトのこの行動は予想していなかったのだろう、「はぉ……?!」と目を丸くしてすっかり固まってしまっている。
だが。ルトは困惑しきった2人をものともせずに真顔のままあっけらかんと言ってのけた。
「……お師さまはいつもこうしてますよ?あ、そっか。そういえばお師さまは片手で潰してましたっけ」
「両手か片手かの問題ではないな!?」
「そ、そうだよルト!それだと殻も入っちゃうよ?!」
「殻……?お師さまは『カルシウムも摂れてよかろ?』って言ってたけど……?」
「カルシウムって問題じゃないよ?!正しい卵の割りかたは、こう!」
見かねたリコがルトの手から2個目の卵を奪いとり、コンコン、パカーと正しい卵の割り方を見せればルトは「ぷおぉ……?!これが、正解……!?」と目を見開いて感嘆の声を上げる。
……そして。殻が混入しない正しい卵の割り方を知ったルトは何かに気づいたかのようにリコとジルオの顔を交互に見やった。
「あれ?じゃぁ……もしかして。オムレツって本当はしゃりしゃりした食べ物じゃない……??」
「しないよ?!オムレツはしゃりしゃりじゃなくてふわふわした食べ物だよ?!」
「それよりもだ!そのオムレツは最早しゃりしゃりではなくじゃりじゃりとした食感ではないのか?!ルト……君は普段ここでどんな食生活を送っているんだ!?」
リコとジルオから盛大な勢いで突っ込まれたルトは戸惑い気味に眉根を寄せる。
「むぐゅ……どんな、と言われましても……。お師さまの手料理を食べて頂ければお分かりになるかと……」
「…………。」
思わず無言になるリコとジルオの2人。
すっかり引いてしまった2人に対してこれは何か勘違いされたかもしれない……と察したのか、ルトは「……あ、でもお師さまの手料理、基本的に美味しいと思いますよ?ステーキとか……スープとか」と師であるオーゼンをフォローするかのように小さく呟いた。
決して手際が良いとは言えない幼い双子のホットケーキ作り。シーカーキャンプ内のキッチンは既にしっちゃかめっちゃかの酷い有り様である。
ルトがやらかした殻の混入以外にも、リコがすっ転んで派手に粉をぶちまけたり、いざ焼くとなった時にも黒焦げ、生焼け、生地をひっくり返す時に勢い余ってホットケーキが床へとラストダイブ等々トラブルは有ったが……それでも2人は何度も失敗を繰り返しながら無事にホットケーキを完成させた。――させたのだが。
今、ジルオの目の前ではふっくらと美味しそうに焼きあがったホットケーキを双子がニコニコと頬張っていて。
「ルト……リコ……それは俺の為に焼いてくれたホットケーキではないのか?」
「はおぉ……!美味しい……!」と綺麗にハモった双子の声にジルオは呆れつつも口角を上げる。
すると、ルトとリコの2人は慌てて言い訳じみた言葉を返してきた。
「ジルオさん、えっと……!こ、これは、まだ……練習、ですから!」
「そうですよリーダー!これは練習で……私たちが今してるのは味見です味見!」
成程……それは味見か、ならば仕方ないな、とジルオはクスッと微かな笑い声を漏らす。
2人共、随分と口が上手くなったものだな……と感心しながら「そうか……では本番を楽しみにしておこう」と告げると同時に、ジルオの視界が白く揺らいで…………、
「………………。」
目を開ければ、そこはシーカーキャンプのキッチンなどではなく、朝の陽光が射し込む自室のベッドの上だった。
小鳥の囀りを聞きながらジルオはそうか……、あれは夢だったのか……、と少しばかり残念な気持ちで身体を起こす。どうせ夢であるのならば、二人が一生懸命に作ったホットケーキを味わってみたかった。
しかし、俺の誕生日はまだずっと先だというのに、何故そんな夢を見たのだろう、とジルオはぼんやりと暦を見やる。
(そうか……そういえばもうじきリコとルトの誕生日だったな……)
成程、とジルオは一人静かに納得してベッドから立ち上がった。
そして、双子の誕生日に二人を会わせる事は不可能だとしても、俺がルトの誕生日にホットケーキを振る舞う事は可能だろうか……とジルオはふむ、と考え込む。
……都合の良い事に今日は非番だ。
(今日はラフィーさんの店に伺ってホットケーキの作り方と……あと、ついでにオムレツの作り方を指南して頂こうか……)
折角の休日。たまにはのんびり過ごそうか、と思っていたジルオだったのだが。
(それから……ルトの誕生日に合わせてシーカーキャンプに行けるように休暇の申請と……そうなると、リコの事は当日に祝ってやれないから……何か別にプレゼントを用意しておいてやらなければならないか……)
何だ、休日だと言うのに結構やることがあるな、と思いつつジルオは身支度を始める。
……だが、夢の中で見たルトの笑顔を、実際にこの目で見れるのなら予定の詰まった休日も悪くはないな、とジルオはシャツに袖を通した。
いつもならジルオへと真っ先に飛びつくルトは「え……?」と小さな声を漏らしたきり、すっかり固まってしまっていた。
微動だにせずにすっかり驚いているルトの姿を眺めるジルオは、まぁ……無理もないか……と息を吐く。
そんなジルオの傍らには、ルトにとって思いもよらぬサプライズとも言うべき少女の姿。
「……………………………リコ?」
「ルトー!久しぶりーー!!」
驚きの余りに喉を詰まらせていたルトはやっとの思いで片割れの名を呼ぶ。
すると、それが合図と言わんばかりに満面の笑みを浮かべたリコが「2年ぶりだね!!会いたかったよーーー!!!」と弾丸のように飛びつき、その衝撃でルトは「ぶゅむぐぅ?!!」と悲鳴を上げて尻もちをついた。
リコは片割れとの再会が余程嬉しかったようで、ルトの頬にむぎゅむぎゅとほっぺたを押し付けている。ルトが困惑しようとお構いなしだ。
ルトはリコから熱烈な抱擁を受けながらも必死にジルオへと視線を向ける。……何でここにリコが?と言わんばかりのその目線に、ルトの気持ちを察したジルオは「驚かせてすまないな、ルト」と苦笑しながら口を開いた。
「……リコがどうしても君とやりたい事があるとゴネまくってな。俺が組合に申し出て特例措置を得て何とかここへ連れてきたんだ」
ジルオの言葉にルトは無言のままパチパチと瞬きを繰り返した。
特例というモノはそんなに簡単に下りるモノなのだろうか……と、ルトは頭に疑問符を浮かべているようだが、現に目の前にリコがいるのだ。
ジルオが言っている事は事実なのだろうと受け止めた様子でルトは漸くまともに口を開く。
「えと……、リコ。会えたのは嬉しいんだけど……いったい、何しにここに来たの?」
「リーダーにホットケーキ作るんだよルト!」
「……ほっとけぇき?」
ホットケーキって何だろう?とルトが首をコテンと傾げればリコが「これだよ!」とレシピをビシィ!と眼前に突きつけた。
「ラフィーおばさまに教わったの!」というそれはどうやら〝焼き菓子〟に相当するモノらしい。
「でも、リコ……何で突然?私……お菓子なんて作ったこと、ないよ?」
「あのね、ルト!今日ってリーダーの誕生日なんだよ!」
「ジルオさんの、たんじょうび……」
「そうそう!このホットケーキっていうのなら私たちでも作れるんじゃないかなーって!」
リコは「誕生日と言えば、やっぱりケーキでお祝いでしょ!」と得意気に言い放つ。
ルトはイマイチ状況を理解出来ていないのか、リコの剣幕に押されるようにして「けぇき……」と小さく呟いた。
だが、ルトにもジルオの誕生日を祝いたいという気持ちは有るらしく。
ルトは眉を寄せて真剣な顔でレシピを読み込むと「ぷむ……まずは、練習……だね」と大きく頷いた。
「……で。俺の為のホットケーキ作りだと言うのに……なぜ俺が監督役に借り出されているんだ?」
「だって。子どもだけで火を使うなって言ったのは他ならぬジルオさんじゃないですか」
「そうですよ!本当ならルトと私の2人だけでホットケーキを作るつもりだったんですからね、リーダー!」
いや、俺は確かにそうは言ったが……シーカーキャンプに他の大人は居なかったのか?と呆れつつジルオが嘆息を漏らせば、どうやら都合悪く自分以外の大人は今現在此処には存在しなかったらしい。
おかげで、ジルオはキャッキャッとはしゃぐルトとリコの2人から手を引かれ、半ば強引にシーカーキャンプのキッチンへと通されてしまった。
「……あ。でもジルオさんは見てるだけですよ?作るのは、リコと私ですからね!」
「ルトの言う通りですよ、リーダー!手出しは無用です!」
揃いのエプロンを身につけたルトとリコの2人はジルオの事をズビシィ!と指で差して宣言する。
如何にもやる気充分な様子の2人の姿。
本音を言えば火を使うような作業を幼い2人のみに任せたくは無かったのだが……そんな双子の姿を目にすればジルオも根負けして了承せざるを得なかった。
「わかったわかった。俺は手出しをしないから……2人だけでまずはやってみろ」
キラキラと輝く新緑の瞳から溢れんばかりに伝わってくる双子の熱意。
やれやれ……とジルオは眉を下げ、首をゆっくり横に振ると小さく両手を挙げた。
すると、早速ルトがレシピを凝視しながら卵をむんずと引っ掴む。
「えっと。……それじゃ、まずは卵を割る!」
卵を割るくらいなら問題なかろう、リコだって孤児院での手伝いで良くしている事だ、とジルオはルトの姿をのんびりと眺めていたのだが。
……ルトはジルオが予想していた遥か斜め上を行くやり方でグシャアァァ!と卵を割った。
「?!待てルト!それは卵を割るとは言わないぞ?!寧ろそれは潰していると言わないか?!」
柑橘類を絞るが如く両手を使って卵を潰したルトの姿に、ジルオの手は出ずとも口から勢い良く突っ込みの言葉は飛び出した。
リコもルトのこの行動は予想していなかったのだろう、「はぉ……?!」と目を丸くしてすっかり固まってしまっている。
だが。ルトは困惑しきった2人をものともせずに真顔のままあっけらかんと言ってのけた。
「……お師さまはいつもこうしてますよ?あ、そっか。そういえばお師さまは片手で潰してましたっけ」
「両手か片手かの問題ではないな!?」
「そ、そうだよルト!それだと殻も入っちゃうよ?!」
「殻……?お師さまは『カルシウムも摂れてよかろ?』って言ってたけど……?」
「カルシウムって問題じゃないよ?!正しい卵の割りかたは、こう!」
見かねたリコがルトの手から2個目の卵を奪いとり、コンコン、パカーと正しい卵の割り方を見せればルトは「ぷおぉ……?!これが、正解……!?」と目を見開いて感嘆の声を上げる。
……そして。殻が混入しない正しい卵の割り方を知ったルトは何かに気づいたかのようにリコとジルオの顔を交互に見やった。
「あれ?じゃぁ……もしかして。オムレツって本当はしゃりしゃりした食べ物じゃない……??」
「しないよ?!オムレツはしゃりしゃりじゃなくてふわふわした食べ物だよ?!」
「それよりもだ!そのオムレツは最早しゃりしゃりではなくじゃりじゃりとした食感ではないのか?!ルト……君は普段ここでどんな食生活を送っているんだ!?」
リコとジルオから盛大な勢いで突っ込まれたルトは戸惑い気味に眉根を寄せる。
「むぐゅ……どんな、と言われましても……。お師さまの手料理を食べて頂ければお分かりになるかと……」
「…………。」
思わず無言になるリコとジルオの2人。
すっかり引いてしまった2人に対してこれは何か勘違いされたかもしれない……と察したのか、ルトは「……あ、でもお師さまの手料理、基本的に美味しいと思いますよ?ステーキとか……スープとか」と師であるオーゼンをフォローするかのように小さく呟いた。
決して手際が良いとは言えない幼い双子のホットケーキ作り。シーカーキャンプ内のキッチンは既にしっちゃかめっちゃかの酷い有り様である。
ルトがやらかした殻の混入以外にも、リコがすっ転んで派手に粉をぶちまけたり、いざ焼くとなった時にも黒焦げ、生焼け、生地をひっくり返す時に勢い余ってホットケーキが床へとラストダイブ等々トラブルは有ったが……それでも2人は何度も失敗を繰り返しながら無事にホットケーキを完成させた。――させたのだが。
今、ジルオの目の前ではふっくらと美味しそうに焼きあがったホットケーキを双子がニコニコと頬張っていて。
「ルト……リコ……それは俺の為に焼いてくれたホットケーキではないのか?」
「はおぉ……!美味しい……!」と綺麗にハモった双子の声にジルオは呆れつつも口角を上げる。
すると、ルトとリコの2人は慌てて言い訳じみた言葉を返してきた。
「ジルオさん、えっと……!こ、これは、まだ……練習、ですから!」
「そうですよリーダー!これは練習で……私たちが今してるのは味見です味見!」
成程……それは味見か、ならば仕方ないな、とジルオはクスッと微かな笑い声を漏らす。
2人共、随分と口が上手くなったものだな……と感心しながら「そうか……では本番を楽しみにしておこう」と告げると同時に、ジルオの視界が白く揺らいで…………、
「………………。」
目を開ければ、そこはシーカーキャンプのキッチンなどではなく、朝の陽光が射し込む自室のベッドの上だった。
小鳥の囀りを聞きながらジルオはそうか……、あれは夢だったのか……、と少しばかり残念な気持ちで身体を起こす。どうせ夢であるのならば、二人が一生懸命に作ったホットケーキを味わってみたかった。
しかし、俺の誕生日はまだずっと先だというのに、何故そんな夢を見たのだろう、とジルオはぼんやりと暦を見やる。
(そうか……そういえばもうじきリコとルトの誕生日だったな……)
成程、とジルオは一人静かに納得してベッドから立ち上がった。
そして、双子の誕生日に二人を会わせる事は不可能だとしても、俺がルトの誕生日にホットケーキを振る舞う事は可能だろうか……とジルオはふむ、と考え込む。
……都合の良い事に今日は非番だ。
(今日はラフィーさんの店に伺ってホットケーキの作り方と……あと、ついでにオムレツの作り方を指南して頂こうか……)
折角の休日。たまにはのんびり過ごそうか、と思っていたジルオだったのだが。
(それから……ルトの誕生日に合わせてシーカーキャンプに行けるように休暇の申請と……そうなると、リコの事は当日に祝ってやれないから……何か別にプレゼントを用意しておいてやらなければならないか……)
何だ、休日だと言うのに結構やることがあるな、と思いつつジルオは身支度を始める。
……だが、夢の中で見たルトの笑顔を、実際にこの目で見れるのなら予定の詰まった休日も悪くはないな、とジルオはシャツに袖を通した。