短編
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それは、或る日の夕餉の時間だった。
献立はシーカーキャンプでの定番メニュー。シンプルに蒸かしただけのマゴイモに、塩漬けにして燻したオットバスのハムステーキ、そしてナキカバネのテールスープ。
ルトとオーゼンは食事を前にして普段通りにいただきます、と手を合わせた。
オーゼンは黙々と好物のハムステーキを平らげる。そして……4枚目のハムステーキを口に運ぼうとして漸くそれに気がついた。
「……おやぁ?ルト。珍しいねぇ、全然食が進んでいないじゃないか」
見ればルトはナイフとフォークを握り締めたまま、じぃっと皿を見つめるばかりで。
「食べないのなら私が食べてもいいって事かなぁ?」とオーゼンが意地悪くルトのハムステーキへと手を伸ばそうとすれば「あ!お師さま!私の分まで食べちゃいやです!!」とルトは必死でお皿を持ち上げて自分の食事を庇った。
「じゃぁ、なんで食べようとしないんだい?」
「少し……考え事を、していたんです」
言いながらルトはハムステーキを一口サイズに切り分けて、はむっと口へと運ぶ。……少し時間が経ってしまって若干冷めてしまったが、弾力のあるその身は噛めば噛む程に肉汁が溢れだし、口内にじんわりと旨味が広がっていった。
咀嚼し、唾液と混じりあったそれを飲み込んでルトは再び考え込む。
―― 自分も、これと何ら変わりない只の『肉』であったのだと。
「……お師さま。私とリコは一度死んだと言っていましたよね?」
「あぁ、確かに言ったねぇ」
「それなら……私とリコは、母よりもずっと先に奈落の底へ、一度辿り着いていたんでしょうか」
思いもよらぬルトの言葉にオーゼンの口から「は?」と素っ頓狂な声が漏れた。
時々―― 本当に稀にだが、この弟子は妙に子どもらしからぬ聡明さを見せる時がある。
「……だって。死んだら『魂は奈落の底へ還り巡る』んですよね?」
ルトが口にしたのはアビスに寄り添い生きる人々が信ずる話であり、遺された者が心を慰める為にある信奉の一つ。―― だが。それは、あくまで『信仰』の話だ。
真っ直ぐにこちらを見据えてくる弟子の眼差しに、オーゼンはふむ、と僅かに考え込む。
「私はまだ死んだ事がないからね。実際に辿り着けるかどうかまでは知らないなぁ」
オーゼンは口元に付いたソースをナフキンで拭いながらニタリと笑う。
スープを口に運んでいたルトはそれを見てコクリと小さく喉を鳴らした。
「私も残念ながら『底』の事は何一つ覚えてないんですけどね」
少しの間を空けて、ルトは「お師さまは、もし私が底の事を覚えていたら、それがどんな所なのか知りたかったですか?」と問いかけてきたのだが。
オーゼンは「……私は底が見たくなったら自分のこの目で直接確かめに行くさ」と言うに留めた。
献立はシーカーキャンプでの定番メニュー。シンプルに蒸かしただけのマゴイモに、塩漬けにして燻したオットバスのハムステーキ、そしてナキカバネのテールスープ。
ルトとオーゼンは食事を前にして普段通りにいただきます、と手を合わせた。
オーゼンは黙々と好物のハムステーキを平らげる。そして……4枚目のハムステーキを口に運ぼうとして漸くそれに気がついた。
「……おやぁ?ルト。珍しいねぇ、全然食が進んでいないじゃないか」
見ればルトはナイフとフォークを握り締めたまま、じぃっと皿を見つめるばかりで。
「食べないのなら私が食べてもいいって事かなぁ?」とオーゼンが意地悪くルトのハムステーキへと手を伸ばそうとすれば「あ!お師さま!私の分まで食べちゃいやです!!」とルトは必死でお皿を持ち上げて自分の食事を庇った。
「じゃぁ、なんで食べようとしないんだい?」
「少し……考え事を、していたんです」
言いながらルトはハムステーキを一口サイズに切り分けて、はむっと口へと運ぶ。……少し時間が経ってしまって若干冷めてしまったが、弾力のあるその身は噛めば噛む程に肉汁が溢れだし、口内にじんわりと旨味が広がっていった。
咀嚼し、唾液と混じりあったそれを飲み込んでルトは再び考え込む。
―― 自分も、これと何ら変わりない只の『肉』であったのだと。
「……お師さま。私とリコは一度死んだと言っていましたよね?」
「あぁ、確かに言ったねぇ」
「それなら……私とリコは、母よりもずっと先に奈落の底へ、一度辿り着いていたんでしょうか」
思いもよらぬルトの言葉にオーゼンの口から「は?」と素っ頓狂な声が漏れた。
時々―― 本当に稀にだが、この弟子は妙に子どもらしからぬ聡明さを見せる時がある。
「……だって。死んだら『魂は奈落の底へ還り巡る』んですよね?」
ルトが口にしたのはアビスに寄り添い生きる人々が信ずる話であり、遺された者が心を慰める為にある信奉の一つ。―― だが。それは、あくまで『信仰』の話だ。
真っ直ぐにこちらを見据えてくる弟子の眼差しに、オーゼンはふむ、と僅かに考え込む。
「私はまだ死んだ事がないからね。実際に辿り着けるかどうかまでは知らないなぁ」
オーゼンは口元に付いたソースをナフキンで拭いながらニタリと笑う。
スープを口に運んでいたルトはそれを見てコクリと小さく喉を鳴らした。
「私も残念ながら『底』の事は何一つ覚えてないんですけどね」
少しの間を空けて、ルトは「お師さまは、もし私が底の事を覚えていたら、それがどんな所なのか知りたかったですか?」と問いかけてきたのだが。
オーゼンは「……私は底が見たくなったら自分のこの目で直接確かめに行くさ」と言うに留めた。
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