君の神様になりたい
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灰色の空が窓から見える。新学期の始まりとしては最悪な色だけど、私には心地がいい。だって、こんなにどんよりと暗い気分なのに、空だけ青かったら余計に周りとの差を感じて落ち込んでしまう。
私は1年間教室に友達がいない。狭い田舎から急に都会に来たからか、自分から話しかけることができず、タイミングを逃してしまった。幼い頃に両親を事故で亡くして、身寄りもない。小さな児童養護施設で、小さい子の面倒を見て育ってきた。この高校に進学したのも、移転になった施設に一番近い公立高校だったからだ。人間関係だっていつもうまくいかない。前の学校でも、施設の中でもそうだ。周りに人はいるのに、気がつくと取り残されている。憧れの世界はいつも私の手の届かないところにある。
そんなとき、いつも頭の中だけで夢見るのだ。キラキラと明るく輝く、太陽みたいな誰かが、いつか私を闇の底から救い出してくれる。そんな夢物語を。
(……そんなこと、あるわけないのに)
そう思っても、夢を見てしまう。期待を捨てきれない自分がいる。そんな自分を誤魔化すために、今日も教室の隅で本を開く。
物語は、私がこの世で一番好きなもののひとつだ。特に本はいい。物語に没頭すれば、何でも好きなことができる。願いを叶えることだってできる。
紙の上の文字を追っていると、自然と集中してきて、嫌な気分も気にならなくなっていく。いつの間にか時間が過ぎ来た時には静かだった教室も賑やかになっていた。内容に一区切りついてふと目線を落とすと、金髪の頭ときらきらした目がひょっこりと顔を出していることに気がつき、度肝を抜かれる。思わず後ろにひっくり返りそうになる私に、その人はあははっとおかしそうに笑った。
「俺っちずっとこっから覗いてたのにな!全っ然気がつかないんだもん!ウケる〜」
男の子はそう言って、前の椅子をこちらに引き寄せて座る。けっこう失礼なことを言っているのに、あまり悪い気分にならないのが不思議だ。なぜ私なんかに話しかけてきたのだろう。興味津々という感じの瞳が、しっぽを振る犬みたいにキラキラと光る。
「ねえ!君ってさ、田荘由佳ちゃんだよね?」
「……え?」
思わず呆気に取られる。私は、この男の子のことを全く知らないのに、なぜ知っているのだろう。男の子が返答を心待ちにしているようなので、しどろもどろに「そう……ですけど」と答えると、さらに男の子の顔がぱぁっと明るくなる。
「だよね!?やっばー俺っち超ラッキーじゃん!!学年一可愛い由佳ちゃんの前の席でさ、しかもお喋りできるなんて!!」
「……え……?」
「やっばいマジ嬉しいんですけど!!こんな絶好のチャンスめったにねーよなー!ねえねえ、せっかくだから今日一緒に帰んね?」
「いや……あの……人違いでは……?」
「うわああああすみませんすみません!!!おい一二三!!!初対面で急にそんなこと言ったら失礼だろうが!!!」
ものすごい勢いで横から人がやってきて、ひふみと呼ばれたその子の襟首を掴んで頭を下げさせる。今度は赤髪の男の子だった。ずいぶん隈が酷いけれど、徹夜でもしたのだろうか。
「なんだよ独歩ちん~俺っちは仲良くなりたいから話しかけただけなのに~」
「だからって誰彼構わず話しかけるなって!初対面の男子にあんなテンションで来られたら引くだろ普通⁉」
赤髪の男の子はどうやら「どっぽ」というらしい。すごく焦っている様子でまくしたてるどっぽくんに、ひふみくんはぷうっと頬を膨らませる。なんだかすごく仲がよさそうで、少しうらやましく思った。
「それに……よりにもよって田荘さんに話しかけるとか……」
「お?さては独歩ちん、由佳ちゃんとお喋りできる俺っちがうらやましいんだな!?だよなー!独歩ちんだって由佳ちゃんのこと可愛いって言ってたもんなー!」
「は……!?ちょ、お前……!! やめ……」
「モーマンタイモーマンタイ!独歩ちんも一緒に帰ろうぜー!!」
どっぽくんの顔がユデダコみたいに真っ赤になって、言葉にならない声を発する。言っていることは訳が分からないし、人違いなんじゃないかという疑問はぬぐえないが、二人のやり取りがおかしくて思わず吹き出してしまった。途端に二人が言い合いをやめ、目を丸くしてこちらを見る。
「笑ったー!!由佳ちゃんが笑ってるとこ初めて見たー!!」
「え……?」
「やっぱ女の子は笑った方がいいなー!これからはもっと笑お、由佳ちん!!あ、由佳ちんって呼んでいい?」
きらきらと輝くひふみくんの瞳に、みるみるうちに心がぽかぽかと温まっていく。
「……うん」
「やったー!!あ、そういや名前言ってなかったよな。俺、伊弉冉一二三っていうんだ。こいつは幼馴染の観音坂独歩。ちょっと暗いけどいいやつだから、仲良くしてやってよ!」
「う、うん、よろしく、伊弉冉くん……観音坂くん……」
「ひふみでいいって!独歩も独歩でいいよ!な、独歩!」
「お前……マジでいい加減に……」
「あっやべ!そろそろ先生来るぞ独歩、席戻んねーと」
そう言われると、独歩くんは言い足りなさそうにしながらも、自分の席に急いで戻っていく。ほぼ同時に女性の担任が教室に入ってきて、「もー伊弉冉くんったら。席戻しなさいよー」と注意した。
「じゃ、また後でな」
一二三くんはにっと歯を見せて笑うと、「あっ、いっけねー!めんごめんごー!」と大きな声で言って席を戻す。私は一二三くんの顔が見えなくなったあとも、放課後のことを想像して、胸が高鳴るのを抑えられそうになかった。
私は1年間教室に友達がいない。狭い田舎から急に都会に来たからか、自分から話しかけることができず、タイミングを逃してしまった。幼い頃に両親を事故で亡くして、身寄りもない。小さな児童養護施設で、小さい子の面倒を見て育ってきた。この高校に進学したのも、移転になった施設に一番近い公立高校だったからだ。人間関係だっていつもうまくいかない。前の学校でも、施設の中でもそうだ。周りに人はいるのに、気がつくと取り残されている。憧れの世界はいつも私の手の届かないところにある。
そんなとき、いつも頭の中だけで夢見るのだ。キラキラと明るく輝く、太陽みたいな誰かが、いつか私を闇の底から救い出してくれる。そんな夢物語を。
(……そんなこと、あるわけないのに)
そう思っても、夢を見てしまう。期待を捨てきれない自分がいる。そんな自分を誤魔化すために、今日も教室の隅で本を開く。
物語は、私がこの世で一番好きなもののひとつだ。特に本はいい。物語に没頭すれば、何でも好きなことができる。願いを叶えることだってできる。
紙の上の文字を追っていると、自然と集中してきて、嫌な気分も気にならなくなっていく。いつの間にか時間が過ぎ来た時には静かだった教室も賑やかになっていた。内容に一区切りついてふと目線を落とすと、金髪の頭ときらきらした目がひょっこりと顔を出していることに気がつき、度肝を抜かれる。思わず後ろにひっくり返りそうになる私に、その人はあははっとおかしそうに笑った。
「俺っちずっとこっから覗いてたのにな!全っ然気がつかないんだもん!ウケる〜」
男の子はそう言って、前の椅子をこちらに引き寄せて座る。けっこう失礼なことを言っているのに、あまり悪い気分にならないのが不思議だ。なぜ私なんかに話しかけてきたのだろう。興味津々という感じの瞳が、しっぽを振る犬みたいにキラキラと光る。
「ねえ!君ってさ、田荘由佳ちゃんだよね?」
「……え?」
思わず呆気に取られる。私は、この男の子のことを全く知らないのに、なぜ知っているのだろう。男の子が返答を心待ちにしているようなので、しどろもどろに「そう……ですけど」と答えると、さらに男の子の顔がぱぁっと明るくなる。
「だよね!?やっばー俺っち超ラッキーじゃん!!学年一可愛い由佳ちゃんの前の席でさ、しかもお喋りできるなんて!!」
「……え……?」
「やっばいマジ嬉しいんですけど!!こんな絶好のチャンスめったにねーよなー!ねえねえ、せっかくだから今日一緒に帰んね?」
「いや……あの……人違いでは……?」
「うわああああすみませんすみません!!!おい一二三!!!初対面で急にそんなこと言ったら失礼だろうが!!!」
ものすごい勢いで横から人がやってきて、ひふみと呼ばれたその子の襟首を掴んで頭を下げさせる。今度は赤髪の男の子だった。ずいぶん隈が酷いけれど、徹夜でもしたのだろうか。
「なんだよ独歩ちん~俺っちは仲良くなりたいから話しかけただけなのに~」
「だからって誰彼構わず話しかけるなって!初対面の男子にあんなテンションで来られたら引くだろ普通⁉」
赤髪の男の子はどうやら「どっぽ」というらしい。すごく焦っている様子でまくしたてるどっぽくんに、ひふみくんはぷうっと頬を膨らませる。なんだかすごく仲がよさそうで、少しうらやましく思った。
「それに……よりにもよって田荘さんに話しかけるとか……」
「お?さては独歩ちん、由佳ちゃんとお喋りできる俺っちがうらやましいんだな!?だよなー!独歩ちんだって由佳ちゃんのこと可愛いって言ってたもんなー!」
「は……!?ちょ、お前……!! やめ……」
「モーマンタイモーマンタイ!独歩ちんも一緒に帰ろうぜー!!」
どっぽくんの顔がユデダコみたいに真っ赤になって、言葉にならない声を発する。言っていることは訳が分からないし、人違いなんじゃないかという疑問はぬぐえないが、二人のやり取りがおかしくて思わず吹き出してしまった。途端に二人が言い合いをやめ、目を丸くしてこちらを見る。
「笑ったー!!由佳ちゃんが笑ってるとこ初めて見たー!!」
「え……?」
「やっぱ女の子は笑った方がいいなー!これからはもっと笑お、由佳ちん!!あ、由佳ちんって呼んでいい?」
きらきらと輝くひふみくんの瞳に、みるみるうちに心がぽかぽかと温まっていく。
「……うん」
「やったー!!あ、そういや名前言ってなかったよな。俺、伊弉冉一二三っていうんだ。こいつは幼馴染の観音坂独歩。ちょっと暗いけどいいやつだから、仲良くしてやってよ!」
「う、うん、よろしく、伊弉冉くん……観音坂くん……」
「ひふみでいいって!独歩も独歩でいいよ!な、独歩!」
「お前……マジでいい加減に……」
「あっやべ!そろそろ先生来るぞ独歩、席戻んねーと」
そう言われると、独歩くんは言い足りなさそうにしながらも、自分の席に急いで戻っていく。ほぼ同時に女性の担任が教室に入ってきて、「もー伊弉冉くんったら。席戻しなさいよー」と注意した。
「じゃ、また後でな」
一二三くんはにっと歯を見せて笑うと、「あっ、いっけねー!めんごめんごー!」と大きな声で言って席を戻す。私は一二三くんの顔が見えなくなったあとも、放課後のことを想像して、胸が高鳴るのを抑えられそうになかった。
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