君の神様になりたい
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「それじゃ、俺っちと由佳ちんの新しい門出を祝って、かんぱ〜い!」
満面の笑顔を浮かべた一二三がグラスを高く掲げて、乾杯の音頭を取る。目の前には、リビングテーブルいっぱいに置かれたたくさんのご馳走。私たちはそれを囲みながら、一二三はいつものように勢いよく、私と前に座った独歩は控えめに、カチン、と軽くグラスを合わせあう。
「っかぁ〜〜〜!やっぱり一仕事終えた後の一杯は格別だな〜!!ほら、独歩も由佳ちんも、どんどん飲んでいいんだぞ!?今日はお祝いだかんな〜!!」
一二三はいつにも増して明るい笑顔を浮かべながら、私たちに料理を取り分けていく。嬉しくて仕方がないという顔の一二三を見ていると、こっちまで気分が弾んでくる。独歩も同じのようで、口には出さないけれどいつもより心なしか雰囲気が柔らかい。二人とも、それだけ私たちが前に進むことを喜んでくれているんだな、と思うと、ますます嬉しくなる。
私は一二三が取り分けた料理を独歩に「はい、どうぞ」と渡した。すると彼は「ああ、ありがとう……」とそれを受け取る。
「それにしても、意外に大変だったな〜引越しの作業。俺っちは隣だからまだいいけど、由佳ちんは距離あるから時間かかったな!」
「だよね〜まだ段ボールいっぱい残ってるし、運んでない荷物もあるし」
「だな!ほら独歩、お前の好きなもんもいっぱい作ったからいっぱい食べろよ〜!」
「あ、ありがとう……」
私と一二三が他愛もないやりとりをしている間、独歩は熱に浮かされたような顔をして、どこか上の空なように見えた。それにいち早く気がついた一二三が、不満そうにぷくっと頬を膨らませる。
「なんだよ独歩、俺らがようやく同棲できるようになったお祝いなんだからさ、もうちょっとテンション上げてくれてもよくね?」
「あ、その、すまない、喜んでないわけじゃないんだ……でも、なんか……」
独歩が少しだけ口ごもる。私が首を傾げると、一二三が「あっ!もしかして独歩〜俺っちがいなくなって寂しいのか〜?」とニヤニヤしながら独歩をからかい始めた。
「ちっ!?違う!!部屋隣なんだし、俺は関係ないだろ!?」
「独歩ちんまじで生活力ゼロだもんな〜?モーマンタイモーマンタイっ、俺っちがヒマなとき、たまに片付けに来てやっから!」
「おっ、お前な……!せっかく心配してやってるってのに……!!」
「あははっ、一二三、そこまでにしてあげて。独歩も何か話があるみたいだし」
ね?独歩?と私が目配せすると、独歩は睨みつけるのをやめてこちらを向き、グラスを片手に持ちながらぽつりと言う。
「なんというか、準備が終わった後にこんなこと言うのもあれだけど……本当に、大丈夫なのかと思ってさ……」
「大丈夫なのかって、何がだよ?」
一二三が目を真ん丸にして、独歩に問いかける。すると独歩は少し顔を赤くしてもごもごと口を開いた。
「部外者の俺が言うのもなんだけど……その、スーツなしで由佳と話せるようになったとはいえ……手とかは、繋げないんだろ……?着替えとか風呂とか、事故が起きないとも限らないんじゃないかと思って……」
顔を赤らめながら話す独歩に、一二三と顔を見合わせて思わずぷっと吹き出してしまうと、独歩はさらに真っ赤になって「笑うなっ!!」と反論した。
「いや、だって独歩が中学生みたいなこと言うから……」
「由佳までそんなことを言うのか……俺けっこうマジだったのに……」
「あはははっ!!独歩ちんマジうける〜大丈夫だって!そこんとこはちゃんと二人で話し合って、寝室も別にしたしな!」
「そうそう。かなり話し合ったうえで決めたことだから大丈夫。心配してくれてありがとうね、独歩」
「そうか……まあ、由佳がそう言うんなら大丈夫なんだろうな、きっと……」
そう言うと、独歩は不満そうにしながらも納得してくれる。
一二三と私で協力して作った料理をつまみながら、くだらないおしゃべりをして過ごす時間はとても楽しい。一二三が隣で笑っている、独歩も同じテーブルを囲んで笑っている、それだけのことがとても愛おしくて大切で、これ以上の幸せはないんじゃないだろうかと思う。むしろ、このまま時間が止まってしまえばいいのに。こんなこと一二三が聞いたら怒るだろうな、としみじみ考える。
口には出さないけれど、一二三もきっと不安だと思う。まだ私たちは会って話せるようになったというだけで、手を繋ぐことはおろか、肩に手を置くことすらできない。それは、一二三が過去に負った女性にまつわる深い傷に起因している。その出来事があってから、一二三は私も含めた女性とまともに話すことができなくなってしまった。そんな期間が十何年も続いたのだから、こうして話せるようになっただけで奇跡に近いけれど、一二三はまだ私に触れることを諦めていない。むしろ、その思いは私との壁が薄くなるにつれて強まっているという。
『俺……やっぱり悔しいんだ。本当はもっと近づきたいし、手だって繋ぎたいし、キスだって……それ以上のことだってしたい。だからさ、提案があるんだ』
その流れで同棲することを提案された時はびっくりしたけれど、ホストになるという荒療治で一つ壁を乗り越えた彼のことだ。彼にはこういう方法の方が合っているのかもしれない、ということでOKしたのだ。
それから、二人で色々な取り決めをして、頼れる幼なじみの独歩にも協力を頼み、引越しの準備を無事に終えたお祝いということで、この会が開かれた、というわけなのである。
「あっれ〜由佳ちん、どしたの?ボーッとして」
「お前がそんな顔してるの、珍しいな……酔ったのか?」
「あ、ご、ごめん」
そんなことを考えていたら、つい話が上の空になっていたようで、二人が私の顔を不思議そうに覗き込んでくる。私は少しお酒が入っていたこともあって、何だか思い出に浸りたいような、そんな気分になっていて、正直に気持ちを言ってみる。
「なんだかさ……この十数年、色々あったよなあって思って」
すると二人は少しだけ黙って、それから懐かしげに目を細めた。
「そうだよなぁ……色々あったよなぁ、ここまで」
「本当に、色々ありすぎて、また三人で集まれてるのが夢みたいだよな……」
「そっか……みんなも、私と同じこと思ってたんだ」
私はなんだか嬉しくなって頬を緩ませる。一二三も嬉しそうににへへ、と笑みをこぼし、独歩も少しだけ微笑む。
「なっつかしいな〜俺と独歩が初めて会ったのは小学生の頃だけど、由佳ちんは〜確か高校2年の頃だっけ?」
「うん、合ってる」
「俺たちびっくりしたんだぜ?学年でも有名な高嶺の花の美少女が、同じクラスでしかも後ろの席だったんだからさ!」
「もう、その言い方やめてって言ってるのに」
「一二三やめろ、俺ならともかくお前が言うと嫌味にしか聞こえん」
「なんだよー!独歩ちんだってあの頃そーとーモテてたくせにー!!」
「お、おいやめろ、くっつくな 」
独歩にちょっかいを出す一二三を眺めながら、美味しいご飯をつまみつつ、追想に浸る。辛いこともいっぱいあった。むしろ、出来事で言えば辛いことの方が多かったかもしれない。だけど、一二三と独歩に出会うことができた高校時代は、私にとって何事にも代えがたい宝物だ。
「色々、あったなぁ……」
いつの間にか声が出ていた。独り言のつもりだったのだけど、一二三が気がついてこちらを見た。全てを乗り越えた、いつもの太陽みたいな笑顔で。
「だな!」
話は今から十二年前にまで遡る。
満面の笑顔を浮かべた一二三がグラスを高く掲げて、乾杯の音頭を取る。目の前には、リビングテーブルいっぱいに置かれたたくさんのご馳走。私たちはそれを囲みながら、一二三はいつものように勢いよく、私と前に座った独歩は控えめに、カチン、と軽くグラスを合わせあう。
「っかぁ〜〜〜!やっぱり一仕事終えた後の一杯は格別だな〜!!ほら、独歩も由佳ちんも、どんどん飲んでいいんだぞ!?今日はお祝いだかんな〜!!」
一二三はいつにも増して明るい笑顔を浮かべながら、私たちに料理を取り分けていく。嬉しくて仕方がないという顔の一二三を見ていると、こっちまで気分が弾んでくる。独歩も同じのようで、口には出さないけれどいつもより心なしか雰囲気が柔らかい。二人とも、それだけ私たちが前に進むことを喜んでくれているんだな、と思うと、ますます嬉しくなる。
私は一二三が取り分けた料理を独歩に「はい、どうぞ」と渡した。すると彼は「ああ、ありがとう……」とそれを受け取る。
「それにしても、意外に大変だったな〜引越しの作業。俺っちは隣だからまだいいけど、由佳ちんは距離あるから時間かかったな!」
「だよね〜まだ段ボールいっぱい残ってるし、運んでない荷物もあるし」
「だな!ほら独歩、お前の好きなもんもいっぱい作ったからいっぱい食べろよ〜!」
「あ、ありがとう……」
私と一二三が他愛もないやりとりをしている間、独歩は熱に浮かされたような顔をして、どこか上の空なように見えた。それにいち早く気がついた一二三が、不満そうにぷくっと頬を膨らませる。
「なんだよ独歩、俺らがようやく同棲できるようになったお祝いなんだからさ、もうちょっとテンション上げてくれてもよくね?」
「あ、その、すまない、喜んでないわけじゃないんだ……でも、なんか……」
独歩が少しだけ口ごもる。私が首を傾げると、一二三が「あっ!もしかして独歩〜俺っちがいなくなって寂しいのか〜?」とニヤニヤしながら独歩をからかい始めた。
「ちっ!?違う!!部屋隣なんだし、俺は関係ないだろ!?」
「独歩ちんまじで生活力ゼロだもんな〜?モーマンタイモーマンタイっ、俺っちがヒマなとき、たまに片付けに来てやっから!」
「おっ、お前な……!せっかく心配してやってるってのに……!!」
「あははっ、一二三、そこまでにしてあげて。独歩も何か話があるみたいだし」
ね?独歩?と私が目配せすると、独歩は睨みつけるのをやめてこちらを向き、グラスを片手に持ちながらぽつりと言う。
「なんというか、準備が終わった後にこんなこと言うのもあれだけど……本当に、大丈夫なのかと思ってさ……」
「大丈夫なのかって、何がだよ?」
一二三が目を真ん丸にして、独歩に問いかける。すると独歩は少し顔を赤くしてもごもごと口を開いた。
「部外者の俺が言うのもなんだけど……その、スーツなしで由佳と話せるようになったとはいえ……手とかは、繋げないんだろ……?着替えとか風呂とか、事故が起きないとも限らないんじゃないかと思って……」
顔を赤らめながら話す独歩に、一二三と顔を見合わせて思わずぷっと吹き出してしまうと、独歩はさらに真っ赤になって「笑うなっ!!」と反論した。
「いや、だって独歩が中学生みたいなこと言うから……」
「由佳までそんなことを言うのか……俺けっこうマジだったのに……」
「あはははっ!!独歩ちんマジうける〜大丈夫だって!そこんとこはちゃんと二人で話し合って、寝室も別にしたしな!」
「そうそう。かなり話し合ったうえで決めたことだから大丈夫。心配してくれてありがとうね、独歩」
「そうか……まあ、由佳がそう言うんなら大丈夫なんだろうな、きっと……」
そう言うと、独歩は不満そうにしながらも納得してくれる。
一二三と私で協力して作った料理をつまみながら、くだらないおしゃべりをして過ごす時間はとても楽しい。一二三が隣で笑っている、独歩も同じテーブルを囲んで笑っている、それだけのことがとても愛おしくて大切で、これ以上の幸せはないんじゃないだろうかと思う。むしろ、このまま時間が止まってしまえばいいのに。こんなこと一二三が聞いたら怒るだろうな、としみじみ考える。
口には出さないけれど、一二三もきっと不安だと思う。まだ私たちは会って話せるようになったというだけで、手を繋ぐことはおろか、肩に手を置くことすらできない。それは、一二三が過去に負った女性にまつわる深い傷に起因している。その出来事があってから、一二三は私も含めた女性とまともに話すことができなくなってしまった。そんな期間が十何年も続いたのだから、こうして話せるようになっただけで奇跡に近いけれど、一二三はまだ私に触れることを諦めていない。むしろ、その思いは私との壁が薄くなるにつれて強まっているという。
『俺……やっぱり悔しいんだ。本当はもっと近づきたいし、手だって繋ぎたいし、キスだって……それ以上のことだってしたい。だからさ、提案があるんだ』
その流れで同棲することを提案された時はびっくりしたけれど、ホストになるという荒療治で一つ壁を乗り越えた彼のことだ。彼にはこういう方法の方が合っているのかもしれない、ということでOKしたのだ。
それから、二人で色々な取り決めをして、頼れる幼なじみの独歩にも協力を頼み、引越しの準備を無事に終えたお祝いということで、この会が開かれた、というわけなのである。
「あっれ〜由佳ちん、どしたの?ボーッとして」
「お前がそんな顔してるの、珍しいな……酔ったのか?」
「あ、ご、ごめん」
そんなことを考えていたら、つい話が上の空になっていたようで、二人が私の顔を不思議そうに覗き込んでくる。私は少しお酒が入っていたこともあって、何だか思い出に浸りたいような、そんな気分になっていて、正直に気持ちを言ってみる。
「なんだかさ……この十数年、色々あったよなあって思って」
すると二人は少しだけ黙って、それから懐かしげに目を細めた。
「そうだよなぁ……色々あったよなぁ、ここまで」
「本当に、色々ありすぎて、また三人で集まれてるのが夢みたいだよな……」
「そっか……みんなも、私と同じこと思ってたんだ」
私はなんだか嬉しくなって頬を緩ませる。一二三も嬉しそうににへへ、と笑みをこぼし、独歩も少しだけ微笑む。
「なっつかしいな〜俺と独歩が初めて会ったのは小学生の頃だけど、由佳ちんは〜確か高校2年の頃だっけ?」
「うん、合ってる」
「俺たちびっくりしたんだぜ?学年でも有名な高嶺の花の美少女が、同じクラスでしかも後ろの席だったんだからさ!」
「もう、その言い方やめてって言ってるのに」
「一二三やめろ、俺ならともかくお前が言うと嫌味にしか聞こえん」
「なんだよー!独歩ちんだってあの頃そーとーモテてたくせにー!!」
「お、おいやめろ、くっつくな 」
独歩にちょっかいを出す一二三を眺めながら、美味しいご飯をつまみつつ、追想に浸る。辛いこともいっぱいあった。むしろ、出来事で言えば辛いことの方が多かったかもしれない。だけど、一二三と独歩に出会うことができた高校時代は、私にとって何事にも代えがたい宝物だ。
「色々、あったなぁ……」
いつの間にか声が出ていた。独り言のつもりだったのだけど、一二三が気がついてこちらを見た。全てを乗り越えた、いつもの太陽みたいな笑顔で。
「だな!」
話は今から十二年前にまで遡る。
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