投げられた賽
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
俺は、あまり特定の女と身体の関係を持つのは好きではなかった。なぜなら、そこから相手に勘違いされたりして、面倒な事態になる火種になるからだ。しかし、この前は負けが続いて路上でぶっ倒れ、介抱してくれた花咲紫という女に、予想外にもどうしようもなく欲情してしまった。絶世の美女というわけでも、際立って魅力的な体つきというわけでもない、ただ酒癖が悪いだけの会社勤めの女に。どうして惹かれてしまうのだろう。どうしてまた、会って話したい、触れたい、と思ってしまうのだろう。
俺は、シブヤの路上のフェンスに腰掛けながら、手の中で賽子をころころと転がす。
「……なあ、俺は、どうするべきなんだ?」
まるで、賽の目に何かを問いかけるように、何かを期待するように。空に向かって、その賽子を投げる。果たして紫という存在は、俺にとって吉と出るか、それとも凶と出るか。俺は落下するそれを目で追いながら、神に向かってその問いを投げかけた。
***
私は現在、シブヤではけっこう名の知れた企業の社長秘書を務めている。給料もいいし、福利厚生もしっかりしているので辞める気はないが、なかなかこの仕事はハードできつい。朝から晩まで働き、社長の残業に付き合い、社長のウザ絡みに付き合い……なぜかあの外面だけいい社長にかなり気に入られているので、同僚の女子たちからくだらない妬みを受け、未だに社内で友達は一人もいない。そして、仕事が出来ることが唯一の取り柄である私は当然男にモテることもなく、ただ淡々と仕事をこなす日々を過ごしてきた。別に私はトータルではそれでもいいと思っているのだけれど、27にもなるとどうしても、結婚のことは問題に上がってくる。どうやら私は駄目な男にはまるタイプのようで、今まで付き合ってきた男にはことごとく、碌でもない目に合わされてきた。振られるたびに酒に逃げ、居酒屋で泣き出して他人に迷惑をかけることを繰り返しているうちに、自然と恋愛事には縁遠くなっていった。それが現状の私。
しかしながら、そんな私に訪れた、少し色気のある出来事。マンション前の路上で倒れていた男を介抱したら、まさかの私好みの顔の20歳のイケメンで、話も合って一緒に酒を酌み交わした。ここまでならいいのだが、この先が問題だった。なんとそいつは若いのに博打だけで生活をしているギャンブラーで、無一文になっては知り合いに土下座し、金をたかるようなクズだったのだ。しかし、あろうことか私はそんな奴と一夜を共にし、手料理まで振舞ってしまった。そして、今でもふとした瞬間に顔を思い出しては、お礼をすると言った彼の約束に期待してしまっている自分がいるのだ。
本当、馬鹿みたい。あいつはきっと、一夜限りの女との約束なんて守らないに決まっている。そもそも、約束だとすら思っていないに違いない。彼は三度の飯よりもギャンブルが好きな男だから、賭場もないのにわざわざ出向くだなんて面倒な真似はしないだろう。そう、思っていたのだけれど。
「……え……?帝統……?」
「おー!やっと来たか!!お前遅くまで仕事しすぎじゃねえの?とりあえずさみーから中入れてくれよ!」
吐く息も白い、冬の夜10時。残業でヘトヘトになった私を待っていたのは、ぴんと尻尾を立てた一匹の野良猫──ではなく、あの一夜を共にした有栖川帝統だった。私の部屋の扉の横に座り、鼻の頭を真っ赤にさせながら膝を抱えている。そんな彼の隣に置いてあるのは、私の行きつけの酒屋さんの紙袋。私はそれが目に入った途端に、仕事の疲れも相まって、鼻の奥がツンと痛むのが分かった。こみ上げてくる熱いものを誤魔化すように、慌てて彼の元へ駆け寄る。急に走ってきた私を見てきょとんとした顔をする帝統に、巻いていたマフラーを半ば無理やりぐるぐると巻き付けてやった。
「おわっ!?何だよいきなり」
「それはこっちの台詞よ!!こんなに寒いのに……とにかく早く入って!!」
何を怒られているのか分かっていない様子の帝統の手を掴み、急いで部屋の中に引っ張り込む。握った帝統の手は凍るように冷たくて、彼がかなり長い間外にいたことが予想できた。もしかして、ずっと部屋の前で待っていてくれたんだろうか。いつ仕事から帰ってくるかも分からない、私なんかのために。もしそうだったら、と想像すると、不謹慎にも胸がきゅんと締め付けられてしまう。
「……もしかして、心配してくれてんのか?別に大丈夫だぜ、こういうの慣れっこだし」
「だからって……こんなに薄着で、こんなに冷たくなるまで外にいるだなんて……もう!死んだらどうするのよ!」
「こんくらいじゃ死なねえけど……まいっか。つうかこのマフラー、あったけえし、いい匂いすんな。お前とおんなじ匂いだ」
私のマフラーに顔を埋め、へらりと頬を緩ませて笑う、彼の表情の破壊力は抜群だった。思わず説教する気が失せて、ぷいっとそっぽを向いて悪態をつく。
「……バカ!早くお風呂入って、体あっためてきて!焼酎はそれから開けるから」
「風呂貸してくれんのか!?やったぜ!すぐ入ってくるから待ってろ!!」
お風呂という言葉が出た途端に、ぱああと目を輝かせてお風呂のある方向へ走っていく帝統。彼の現金さは相変わらずだ。私はそんな彼に呆れと同時に安心感を覚えながら、お気に入りの銘柄の焼酎を買ってきてくれたお礼にと、少し手の込んだつまみの準備に取り掛かったのであった。
***
そして、帝統が久しぶりにギャンブルで大勝ちして買ったという焼酎を煽りながら、遅めの夜ご飯を食べて小さな宴を催す。彼と話しているとどんどんとお酒が進んでしまい、私の悪癖が発動して、場の空気は一気にカオスなことになった。えぐえぐと子供のように泣きじゃくる私に、呆れた顔をしながらも、幼児をあやすみたいに私を腕の中に収め、ぽんぽんと頭を撫でてくれている帝統の手は、いつになく優しい。その腕の中が心地よくて、彼から私と同じシャンプーの匂いがすることが嬉しくて、いつの間にかそのまま寝落ちしてしまった。
ピピピピッ、と鳴り響く忌まわしきアラームの音が、仕事の支度をする時間を告げる。私はいつものようにそれを片手で操作して止めると、なんとすぐそこに彼の顔があることに気がついた。それに、私の後頭部には彼の腕があり、所謂腕枕をされている状態。もしかして、私が知らない間に一発やってしまったのだろうか。いや、衣服は乱れていないし、私はお酒を飲んで記憶を失うタイプではないから違う。ということは、彼がわざわざベッドに私を運んでくれて、変な気を起こすこともなく一緒に寝たということなのか。あの大雑把でスケベ野郎の帝統が。
そんな失礼なことを考えているうちに、アラームの音がもう一度鳴り響く。ああ、仕事行きたくないな。そう思いつつも、帝統を起こさないように気をつけながら布団から抜け出し、仕事に行くための身支度を始める。顔を洗って、歯磨きをして、鏡と睨めっこしながら自分の顔にメイクを施す。すると、布団の丸く膨らんだ部分がもぞもぞと動いて、「うー……」と長めの唸り声が上がった。鏡から目を離さないまま「帝統、おはよー」と適当に声をかけると、「おー……」という寝ぼけた声が返ってきた。この前は、目覚めてすぐに鉄拳制裁を食らわせてやったから分からなかったが、帝統はあまり朝に強くないらしい。新しい発見だ。
「……なー、紫、今日も仕事行くのか」
しばらくもぞもぞと、別の生き物のように動いていた布団から、帝統が顔を出してそんなことを聞いてくる。まだ寝ぼけ眼ではあるけれど、一応意識は覚醒したらしい。私はメイクをする手は止めないまま、軽く返事をする。
「もちろん。私は誰かさんと違って暇じゃないんだからね〜」
「んだよ、別に俺だって暇人なわけじゃねえし」
「じゃあ、」
何でまた来たの、と口に出してしまったところで、棘のある言い方をしてしまったかもしれない、と気づいて、すぐに謝ろうと思った。しかし意外にも帝統はあまり気にしている様子はなく、「はぁ?」と不思議そうに顔を顰めて聞き返してきた。
「昨日も言っただろ、この前飯とか奢ってくれた礼だっつの。もう忘れたのか?」
「……いや、そういうわけじゃないけど、この辺りには賭場とかないし、もう来ないんじゃないかと思って」
「確かにそうだけどよ、受けた借りを返さねえほど、俺は薄情者じゃねえぞー?」
「そっ、か」
そんな風に話して、この話題は終了になり、帝統も起き始めてベランダに煙草を吸いに行った。私は、メイクを完成させて朝ご飯の用意をしながら、さっき帝統と話したことについて考えていた。借りを返すという名目だったけれど、帝統がもう一度私に会いに来てくれたということは、私は「面倒臭い女」認定はされなかったということでいいのだろうか。もしくは、帝統が思ったよりもきちんとした奴だっただけなのか。どちらにせよ、彼にとって私が、セックスをする以外で会いに来る価値のある女だと思われている事実が、嬉しかった。誰かの些細な一挙一動で、こんなに嬉しくなったり悲しくなったりするのは、いつぶりだろう。一度気がついてしまえば、もう戻れない。私はきっと、帝統のことを好きになってしまったのだ。7歳も年下の、とんでもないギャンブル好きの男のことを。
きっとこの恋に、幸せな終わり方がないことは分かっている。だけど、帝統のおかげで得られた、こんなに人のことを愛しく思う気持ち──せめて、今日だけは大事にしたい。
「帝統ー、朝ご飯できたけどー?」
「うおっ、朝飯まで作ってくれるのか!?すぐ戻る!!」
この穏やかで幸せな時間が、ずっと続けばいいのに。そんなことを思った、少し切ない仕事前の朝だった。
俺は、シブヤの路上のフェンスに腰掛けながら、手の中で賽子をころころと転がす。
「……なあ、俺は、どうするべきなんだ?」
まるで、賽の目に何かを問いかけるように、何かを期待するように。空に向かって、その賽子を投げる。果たして紫という存在は、俺にとって吉と出るか、それとも凶と出るか。俺は落下するそれを目で追いながら、神に向かってその問いを投げかけた。
***
私は現在、シブヤではけっこう名の知れた企業の社長秘書を務めている。給料もいいし、福利厚生もしっかりしているので辞める気はないが、なかなかこの仕事はハードできつい。朝から晩まで働き、社長の残業に付き合い、社長のウザ絡みに付き合い……なぜかあの外面だけいい社長にかなり気に入られているので、同僚の女子たちからくだらない妬みを受け、未だに社内で友達は一人もいない。そして、仕事が出来ることが唯一の取り柄である私は当然男にモテることもなく、ただ淡々と仕事をこなす日々を過ごしてきた。別に私はトータルではそれでもいいと思っているのだけれど、27にもなるとどうしても、結婚のことは問題に上がってくる。どうやら私は駄目な男にはまるタイプのようで、今まで付き合ってきた男にはことごとく、碌でもない目に合わされてきた。振られるたびに酒に逃げ、居酒屋で泣き出して他人に迷惑をかけることを繰り返しているうちに、自然と恋愛事には縁遠くなっていった。それが現状の私。
しかしながら、そんな私に訪れた、少し色気のある出来事。マンション前の路上で倒れていた男を介抱したら、まさかの私好みの顔の20歳のイケメンで、話も合って一緒に酒を酌み交わした。ここまでならいいのだが、この先が問題だった。なんとそいつは若いのに博打だけで生活をしているギャンブラーで、無一文になっては知り合いに土下座し、金をたかるようなクズだったのだ。しかし、あろうことか私はそんな奴と一夜を共にし、手料理まで振舞ってしまった。そして、今でもふとした瞬間に顔を思い出しては、お礼をすると言った彼の約束に期待してしまっている自分がいるのだ。
本当、馬鹿みたい。あいつはきっと、一夜限りの女との約束なんて守らないに決まっている。そもそも、約束だとすら思っていないに違いない。彼は三度の飯よりもギャンブルが好きな男だから、賭場もないのにわざわざ出向くだなんて面倒な真似はしないだろう。そう、思っていたのだけれど。
「……え……?帝統……?」
「おー!やっと来たか!!お前遅くまで仕事しすぎじゃねえの?とりあえずさみーから中入れてくれよ!」
吐く息も白い、冬の夜10時。残業でヘトヘトになった私を待っていたのは、ぴんと尻尾を立てた一匹の野良猫──ではなく、あの一夜を共にした有栖川帝統だった。私の部屋の扉の横に座り、鼻の頭を真っ赤にさせながら膝を抱えている。そんな彼の隣に置いてあるのは、私の行きつけの酒屋さんの紙袋。私はそれが目に入った途端に、仕事の疲れも相まって、鼻の奥がツンと痛むのが分かった。こみ上げてくる熱いものを誤魔化すように、慌てて彼の元へ駆け寄る。急に走ってきた私を見てきょとんとした顔をする帝統に、巻いていたマフラーを半ば無理やりぐるぐると巻き付けてやった。
「おわっ!?何だよいきなり」
「それはこっちの台詞よ!!こんなに寒いのに……とにかく早く入って!!」
何を怒られているのか分かっていない様子の帝統の手を掴み、急いで部屋の中に引っ張り込む。握った帝統の手は凍るように冷たくて、彼がかなり長い間外にいたことが予想できた。もしかして、ずっと部屋の前で待っていてくれたんだろうか。いつ仕事から帰ってくるかも分からない、私なんかのために。もしそうだったら、と想像すると、不謹慎にも胸がきゅんと締め付けられてしまう。
「……もしかして、心配してくれてんのか?別に大丈夫だぜ、こういうの慣れっこだし」
「だからって……こんなに薄着で、こんなに冷たくなるまで外にいるだなんて……もう!死んだらどうするのよ!」
「こんくらいじゃ死なねえけど……まいっか。つうかこのマフラー、あったけえし、いい匂いすんな。お前とおんなじ匂いだ」
私のマフラーに顔を埋め、へらりと頬を緩ませて笑う、彼の表情の破壊力は抜群だった。思わず説教する気が失せて、ぷいっとそっぽを向いて悪態をつく。
「……バカ!早くお風呂入って、体あっためてきて!焼酎はそれから開けるから」
「風呂貸してくれんのか!?やったぜ!すぐ入ってくるから待ってろ!!」
お風呂という言葉が出た途端に、ぱああと目を輝かせてお風呂のある方向へ走っていく帝統。彼の現金さは相変わらずだ。私はそんな彼に呆れと同時に安心感を覚えながら、お気に入りの銘柄の焼酎を買ってきてくれたお礼にと、少し手の込んだつまみの準備に取り掛かったのであった。
***
そして、帝統が久しぶりにギャンブルで大勝ちして買ったという焼酎を煽りながら、遅めの夜ご飯を食べて小さな宴を催す。彼と話しているとどんどんとお酒が進んでしまい、私の悪癖が発動して、場の空気は一気にカオスなことになった。えぐえぐと子供のように泣きじゃくる私に、呆れた顔をしながらも、幼児をあやすみたいに私を腕の中に収め、ぽんぽんと頭を撫でてくれている帝統の手は、いつになく優しい。その腕の中が心地よくて、彼から私と同じシャンプーの匂いがすることが嬉しくて、いつの間にかそのまま寝落ちしてしまった。
ピピピピッ、と鳴り響く忌まわしきアラームの音が、仕事の支度をする時間を告げる。私はいつものようにそれを片手で操作して止めると、なんとすぐそこに彼の顔があることに気がついた。それに、私の後頭部には彼の腕があり、所謂腕枕をされている状態。もしかして、私が知らない間に一発やってしまったのだろうか。いや、衣服は乱れていないし、私はお酒を飲んで記憶を失うタイプではないから違う。ということは、彼がわざわざベッドに私を運んでくれて、変な気を起こすこともなく一緒に寝たということなのか。あの大雑把でスケベ野郎の帝統が。
そんな失礼なことを考えているうちに、アラームの音がもう一度鳴り響く。ああ、仕事行きたくないな。そう思いつつも、帝統を起こさないように気をつけながら布団から抜け出し、仕事に行くための身支度を始める。顔を洗って、歯磨きをして、鏡と睨めっこしながら自分の顔にメイクを施す。すると、布団の丸く膨らんだ部分がもぞもぞと動いて、「うー……」と長めの唸り声が上がった。鏡から目を離さないまま「帝統、おはよー」と適当に声をかけると、「おー……」という寝ぼけた声が返ってきた。この前は、目覚めてすぐに鉄拳制裁を食らわせてやったから分からなかったが、帝統はあまり朝に強くないらしい。新しい発見だ。
「……なー、紫、今日も仕事行くのか」
しばらくもぞもぞと、別の生き物のように動いていた布団から、帝統が顔を出してそんなことを聞いてくる。まだ寝ぼけ眼ではあるけれど、一応意識は覚醒したらしい。私はメイクをする手は止めないまま、軽く返事をする。
「もちろん。私は誰かさんと違って暇じゃないんだからね〜」
「んだよ、別に俺だって暇人なわけじゃねえし」
「じゃあ、」
何でまた来たの、と口に出してしまったところで、棘のある言い方をしてしまったかもしれない、と気づいて、すぐに謝ろうと思った。しかし意外にも帝統はあまり気にしている様子はなく、「はぁ?」と不思議そうに顔を顰めて聞き返してきた。
「昨日も言っただろ、この前飯とか奢ってくれた礼だっつの。もう忘れたのか?」
「……いや、そういうわけじゃないけど、この辺りには賭場とかないし、もう来ないんじゃないかと思って」
「確かにそうだけどよ、受けた借りを返さねえほど、俺は薄情者じゃねえぞー?」
「そっ、か」
そんな風に話して、この話題は終了になり、帝統も起き始めてベランダに煙草を吸いに行った。私は、メイクを完成させて朝ご飯の用意をしながら、さっき帝統と話したことについて考えていた。借りを返すという名目だったけれど、帝統がもう一度私に会いに来てくれたということは、私は「面倒臭い女」認定はされなかったということでいいのだろうか。もしくは、帝統が思ったよりもきちんとした奴だっただけなのか。どちらにせよ、彼にとって私が、セックスをする以外で会いに来る価値のある女だと思われている事実が、嬉しかった。誰かの些細な一挙一動で、こんなに嬉しくなったり悲しくなったりするのは、いつぶりだろう。一度気がついてしまえば、もう戻れない。私はきっと、帝統のことを好きになってしまったのだ。7歳も年下の、とんでもないギャンブル好きの男のことを。
きっとこの恋に、幸せな終わり方がないことは分かっている。だけど、帝統のおかげで得られた、こんなに人のことを愛しく思う気持ち──せめて、今日だけは大事にしたい。
「帝統ー、朝ご飯できたけどー?」
「うおっ、朝飯まで作ってくれるのか!?すぐ戻る!!」
この穏やかで幸せな時間が、ずっと続けばいいのに。そんなことを思った、少し切ない仕事前の朝だった。