投げられた賽
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貴重な休みの日に、まさかこんな事件が起こるとは露ほども思っていなかった。昨日の夜までは。
「ってーな!いきなり何すんだよ!!」
「何すんだはこっちの台詞よ!!!もう、何してくれちゃってんのよ!!色々と!!!」
上半身を起こし、殴られた頭頂部を押さえる彼を、私は思いっきり指さす。今も、散々押し叩かれた腰の奥が鈍く痛みを訴えている。なのにこいつはなぜこんなにもすっきりとした顔をしているのか。若さの違いか。
拳を震わせながら怒りを訴える私に、彼は「あー……」とばつの悪そうな顔をして目を逸らす。
「その……何回も中に出しちまったのは、悪かった……一応、風呂場で掻き出したんだけどよ」
「はぁ!?あの後まだ動き続けてたわけ!?……だ、出したって、どれくらい……?」
「たぶん、3、4回くらいか……?」
「えぇ……?ちょっとそれ、シャレにならなくない……?」
私の言葉に、意外にも彼はしゅんと萎れて「……悪かった」と言った。その様子が、昨日見たときの彼の振る舞いからは想像できないほど深刻だったので、少し驚いてしまう。彼の顔つきから漏れだしてくる後悔と、自殺でもしかねない不穏なオーラに、さすがにいたたまれなくなって口を開いた。
「……ごめん、反省してもらおうと思って言ってなかったんだけど、私、ピル飲んでるから……一応、妊娠することはないはずよ……」
「……えっ、まっ、マジか!!よかったーーー!!!」
彼は途端にぱっと顔を明るくして、「そういうことは早く言えってー!!」と私の肩をバシバシ叩く。前言撤回。こいつ、全然反省してない。
「だから、そういうの分からないうちに中に出したりしちゃ駄目でしょうが!!それを分かってもらおうと思って黙ってたのに!!」
「だけどよ、あん時俺コンドーム持ってなかったし、お前も用意できる状態じゃなかっただろ?まさかヤるだなんて思ってもいなかったし」
「そっ、それはそうだけど……」
「まあ、過ぎたことをどうこう言っても仕方ねーだろ。結局大丈夫だったんだし、このことは忘れようぜ」
布団から起き上がりながらそう言う彼に、私は言葉を詰まらせる。確かに彼の言うことは正論……ではないけれど、酔っ払って流されてしまった自分も相当悪い。いつもは、あんな酔っ払い方はしないのに。どうして昨日に限って、あんなことになってしまったのだろうか。思い出して溜め息をつく私をよそに、彼はズボンとTシャツを着てポケットから煙草を取り出すと、「そういえば、腹減ってねえ?」と言ってきた。
「俺、一服するついでに、なんか飯になるもの買ってくるわ。お前、その間に風呂でも入ってこいよ」
「無一文のくせに何言ってんのよ……ひとつも信用できないわよ……」
「あっバレたか?本当は賭場でスパッと勝って調達しようと思ってたわ」
「全くあんたって奴は……さっさとお風呂入ってくるから、ちょっと待って。私も行く」
私も彼と話している間にこっそり服を着て、ベッドから起き上がる。本当は腰が痛いし、このまま寝ていたいが、ギャンブル狂に易々と財布を持たせられるほど私は馬鹿ではない。勝手に賭け事にお金を使われたら、いくら帝統が相手でもさすがに警察に通報する。
帝統は私の考えを知ってか知らずか、「えー、」と言って不満そうに唇を尖らせる。
「俺朝は吸わねえと気分悪ぃんだけど。早く出ろよー」
「ベランダで吸っていいから。善処するけど、あんまり文句言ったらご飯奢ってあげないからね」
「大丈夫だ、ゆっくり入ってこい!じゃあ、ちょっと行ってくるわ」
ご飯の言葉を出した途端に、キリッとした笑顔になって親指を立てる帝統。本当に現金な奴だなあと思いながらも、さっさとベランダに歩いていく帝統を見送る。
カーテンの隙間から見える紫煙と、それと同じ動きで風に流れる髪の毛を見て、私はふと、なぜか後ろ髪を引かれるような気分になった。まるで当然のように、一緒にご飯を食べることになってしまっているけれど、それは彼が自分の懐を痛めずに、食べ物にありつきたいだけ。つまりは金目当てだ。私の今の仕事の給料がなければ、彼は迷わずここを出ていくだろう。そして、この関係もきっと一日で終わりを迎えることだろう。そんなの、分かりきっていることだ。だけど。
私は彼と話していて楽しい。自分を偽らずに、あの酒を飲むと出る悪癖さえさらけ出して、話をすることができる。こんなの、初めてだ。だからせめて、彼がいる間は、都合の悪いことなんて全て忘れて、彼と同じ空間にいたい。彼と一緒にいたい理由なんて、それだけで十分だ。
時間をお金で買うと思えば、ご飯を奢るのだって惜しいとは思わない。だから──私が彼に気があるだなんてことを、自覚する必要はこれっぽっちもないのだ。
「ってーな!いきなり何すんだよ!!」
「何すんだはこっちの台詞よ!!!もう、何してくれちゃってんのよ!!色々と!!!」
上半身を起こし、殴られた頭頂部を押さえる彼を、私は思いっきり指さす。今も、散々押し叩かれた腰の奥が鈍く痛みを訴えている。なのにこいつはなぜこんなにもすっきりとした顔をしているのか。若さの違いか。
拳を震わせながら怒りを訴える私に、彼は「あー……」とばつの悪そうな顔をして目を逸らす。
「その……何回も中に出しちまったのは、悪かった……一応、風呂場で掻き出したんだけどよ」
「はぁ!?あの後まだ動き続けてたわけ!?……だ、出したって、どれくらい……?」
「たぶん、3、4回くらいか……?」
「えぇ……?ちょっとそれ、シャレにならなくない……?」
私の言葉に、意外にも彼はしゅんと萎れて「……悪かった」と言った。その様子が、昨日見たときの彼の振る舞いからは想像できないほど深刻だったので、少し驚いてしまう。彼の顔つきから漏れだしてくる後悔と、自殺でもしかねない不穏なオーラに、さすがにいたたまれなくなって口を開いた。
「……ごめん、反省してもらおうと思って言ってなかったんだけど、私、ピル飲んでるから……一応、妊娠することはないはずよ……」
「……えっ、まっ、マジか!!よかったーーー!!!」
彼は途端にぱっと顔を明るくして、「そういうことは早く言えってー!!」と私の肩をバシバシ叩く。前言撤回。こいつ、全然反省してない。
「だから、そういうの分からないうちに中に出したりしちゃ駄目でしょうが!!それを分かってもらおうと思って黙ってたのに!!」
「だけどよ、あん時俺コンドーム持ってなかったし、お前も用意できる状態じゃなかっただろ?まさかヤるだなんて思ってもいなかったし」
「そっ、それはそうだけど……」
「まあ、過ぎたことをどうこう言っても仕方ねーだろ。結局大丈夫だったんだし、このことは忘れようぜ」
布団から起き上がりながらそう言う彼に、私は言葉を詰まらせる。確かに彼の言うことは正論……ではないけれど、酔っ払って流されてしまった自分も相当悪い。いつもは、あんな酔っ払い方はしないのに。どうして昨日に限って、あんなことになってしまったのだろうか。思い出して溜め息をつく私をよそに、彼はズボンとTシャツを着てポケットから煙草を取り出すと、「そういえば、腹減ってねえ?」と言ってきた。
「俺、一服するついでに、なんか飯になるもの買ってくるわ。お前、その間に風呂でも入ってこいよ」
「無一文のくせに何言ってんのよ……ひとつも信用できないわよ……」
「あっバレたか?本当は賭場でスパッと勝って調達しようと思ってたわ」
「全くあんたって奴は……さっさとお風呂入ってくるから、ちょっと待って。私も行く」
私も彼と話している間にこっそり服を着て、ベッドから起き上がる。本当は腰が痛いし、このまま寝ていたいが、ギャンブル狂に易々と財布を持たせられるほど私は馬鹿ではない。勝手に賭け事にお金を使われたら、いくら帝統が相手でもさすがに警察に通報する。
帝統は私の考えを知ってか知らずか、「えー、」と言って不満そうに唇を尖らせる。
「俺朝は吸わねえと気分悪ぃんだけど。早く出ろよー」
「ベランダで吸っていいから。善処するけど、あんまり文句言ったらご飯奢ってあげないからね」
「大丈夫だ、ゆっくり入ってこい!じゃあ、ちょっと行ってくるわ」
ご飯の言葉を出した途端に、キリッとした笑顔になって親指を立てる帝統。本当に現金な奴だなあと思いながらも、さっさとベランダに歩いていく帝統を見送る。
カーテンの隙間から見える紫煙と、それと同じ動きで風に流れる髪の毛を見て、私はふと、なぜか後ろ髪を引かれるような気分になった。まるで当然のように、一緒にご飯を食べることになってしまっているけれど、それは彼が自分の懐を痛めずに、食べ物にありつきたいだけ。つまりは金目当てだ。私の今の仕事の給料がなければ、彼は迷わずここを出ていくだろう。そして、この関係もきっと一日で終わりを迎えることだろう。そんなの、分かりきっていることだ。だけど。
私は彼と話していて楽しい。自分を偽らずに、あの酒を飲むと出る悪癖さえさらけ出して、話をすることができる。こんなの、初めてだ。だからせめて、彼がいる間は、都合の悪いことなんて全て忘れて、彼と同じ空間にいたい。彼と一緒にいたい理由なんて、それだけで十分だ。
時間をお金で買うと思えば、ご飯を奢るのだって惜しいとは思わない。だから──私が彼に気があるだなんてことを、自覚する必要はこれっぽっちもないのだ。