本編
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私は、彼のことが好きなのだろうか?
何度も何度も、自分に問いかけたその問い。その答えは分からないまま、今日も私は彼に身体を明け渡す。
最初の頃は、本当に、なんの間違いもなく、彼のことが好きだと言えた。こんな私に声をかけてくれて、一緒にいてくれて、話を聞いてくれて。乱数は昔から皆の人気者だったのに、いつも私に一番多くの時間を割いてくれていた。お母さんに酷いことを言われたときも、乱数のところへ駆け込めば、ただ抱きしめて「麻子は悪くないよ、大丈夫」と繰り返し言ってくれた。
彼は私のヒーローだった。お人形のように可愛くて、少しずるいところもあるけれど、誰よりもかっこいい一面を持っている。私はそんな彼のことが大好きだった。その気持ちは、確かに恋だったのだろうと思う。だけど、いつからだろう。その気持ちに陰りが見えてきてしまったのは。小学校高学年でクラス替えをして、思い切って話しかけようとした女の子との間に、割って入ってこられたときからだろうか。その女の子が、乱数のことを好きになってしまって、私を遠ざけるようになったときからだろうか。私は、いつの間にか乱数への気持ちが薄れ、他の男の子にも目が行くようになっていった。スポーツが得意な、背の高い男の子。あるいは、少し寡黙だけど、顔が整っていて、頭がいい男の子。そういった、乱数とは違う雰囲気の男の子の方に。でも乱数は、私が乱数以外の男の子の話をすることをよしとしなかった。他の男の子の名前を出そうとすると、途端に雰囲気が鋭くなるのだ。そして、一緒にいるときにたまに感じる、絡みつくような欲を孕んだ彼の視線。そんな乱数の態度に、私はだんだん、彼のことを重たく感じるようになっていった。だけど、私にとって乱数が恩人だというのは変わらない事実。だから、弱い私には突っぱねることなんてできなくて、何も変わらないまま、私たちは中学生になった。
まるで当然だというように、乱数は私と同じ中学校に入学してきた。そして、違うクラスなのにもかかわらず、ことある事に私の教室にやってきた。それからまた、小学校と同じように、私たちが付き合っているという噂が学校中を流れ、いつの間にかそれは皆の中での真実へと変わっていった。私の気持ちなどおかまいなしに。そして、その噂を乱数が肯定したという話も流れてきて、さすがに私は彼を問いただした。人通りの少ない、美術室前の廊下で。
「……ねえ、乱数、ちょっと、聞いていい?」
「なぁに?麻子から誘ってくれるなんて嬉しいなぁ〜、デートのお誘い?」
本当に嬉しそうに、ちょっとだけ上目遣いで言われると、やはり少し罪悪感が芽生えてきてしまう。でも、言わなければいけないことは、言わなきゃ、と私は勇気を振り絞った。
「……乱数が、私を好きでいてくれるのは嬉しいんだけど……でも、付き合ってるっていうのはちょっと、ちがうんじゃ……」
「……何言ってんの?麻子」
その声に、私はそれ以上言葉を発することができなかった。乱数の顔はさっきとは打って変わって無表情で、感情の読み取れない硝子玉のような瞳が、とても恐ろしかった。
「僕は麻子のこと好きだよ。好きじゃなかったら、こんなに一緒に居ないし、助けてあげたりもしない。なんか周りで騒いでる奴に聞かれたから、そう答えただけだよ。麻子は、僕のこと好きじゃないの?」
私は首を振った。もちろん、乱数のことは好きだ。でも、それは、人間としてであって、恋愛とか、付き合うとか、そういう意味じゃないってこと──乱数は分かっているんだろうか。
「なら、それでいいじゃん!僕は麻子が好き。麻子も僕のことが好き。それなら、好き同士ってことでしょ?付き合ってるっていうのも色々あるんだから、僕たちは今までと変わらない、そういう感じでいいじゃん!難しいこと考えずに、ね?」
乱数は途端にいつもの可愛らしい笑顔に戻って、「……だからほら、元気だして、麻子?」と小首を傾げた。こんな風に言われると、私は結局何も言えなくなってしまう。それに、あんなにきゃぴきゃぴしていても乱数はかなり頭がよくて、私よりもずっと色々なことを分かっていることを知っているから。自分に自信の無い私は、本当は乱数の言ってることが正しいのかも、と思ってしまうのだ。また丸め込まれてしまったような感じがしながらも、「そうだ!麻子、この前話した美味しいスイーツのお店行こうよ!」と言う乱数の誘いを断れず、結局この話はなかったことになった。そして、何も状況は変わらないまま、それから1年ほどの月日が流れた。
私は正直うんざりしていた。だって、乱数の行動は中学二年生になっても全く変わらなかったのだ。学校の行き帰りの道や、教室移動の途中でも、いつでも乱数は私の前に現れる。そして、まるで自分のものだとアピールするように、人前で腕を組んだり、抱きついてきたりするのだ。当然、そんなことをしているカップルに近づこうとする者はいないから、中二でも私はクラスで一人きり。
だけど、中一でのあの一件から、私は乱数に反抗するのが怖くなってしまったから、もう状況を打開できる可能性はゼロに近かった。そんな私に差した、一筋の光明。それは、唐突に私の前に現れて、私の運命を大きく変えることとなったのだ。
何度も何度も、自分に問いかけたその問い。その答えは分からないまま、今日も私は彼に身体を明け渡す。
最初の頃は、本当に、なんの間違いもなく、彼のことが好きだと言えた。こんな私に声をかけてくれて、一緒にいてくれて、話を聞いてくれて。乱数は昔から皆の人気者だったのに、いつも私に一番多くの時間を割いてくれていた。お母さんに酷いことを言われたときも、乱数のところへ駆け込めば、ただ抱きしめて「麻子は悪くないよ、大丈夫」と繰り返し言ってくれた。
彼は私のヒーローだった。お人形のように可愛くて、少しずるいところもあるけれど、誰よりもかっこいい一面を持っている。私はそんな彼のことが大好きだった。その気持ちは、確かに恋だったのだろうと思う。だけど、いつからだろう。その気持ちに陰りが見えてきてしまったのは。小学校高学年でクラス替えをして、思い切って話しかけようとした女の子との間に、割って入ってこられたときからだろうか。その女の子が、乱数のことを好きになってしまって、私を遠ざけるようになったときからだろうか。私は、いつの間にか乱数への気持ちが薄れ、他の男の子にも目が行くようになっていった。スポーツが得意な、背の高い男の子。あるいは、少し寡黙だけど、顔が整っていて、頭がいい男の子。そういった、乱数とは違う雰囲気の男の子の方に。でも乱数は、私が乱数以外の男の子の話をすることをよしとしなかった。他の男の子の名前を出そうとすると、途端に雰囲気が鋭くなるのだ。そして、一緒にいるときにたまに感じる、絡みつくような欲を孕んだ彼の視線。そんな乱数の態度に、私はだんだん、彼のことを重たく感じるようになっていった。だけど、私にとって乱数が恩人だというのは変わらない事実。だから、弱い私には突っぱねることなんてできなくて、何も変わらないまま、私たちは中学生になった。
まるで当然だというように、乱数は私と同じ中学校に入学してきた。そして、違うクラスなのにもかかわらず、ことある事に私の教室にやってきた。それからまた、小学校と同じように、私たちが付き合っているという噂が学校中を流れ、いつの間にかそれは皆の中での真実へと変わっていった。私の気持ちなどおかまいなしに。そして、その噂を乱数が肯定したという話も流れてきて、さすがに私は彼を問いただした。人通りの少ない、美術室前の廊下で。
「……ねえ、乱数、ちょっと、聞いていい?」
「なぁに?麻子から誘ってくれるなんて嬉しいなぁ〜、デートのお誘い?」
本当に嬉しそうに、ちょっとだけ上目遣いで言われると、やはり少し罪悪感が芽生えてきてしまう。でも、言わなければいけないことは、言わなきゃ、と私は勇気を振り絞った。
「……乱数が、私を好きでいてくれるのは嬉しいんだけど……でも、付き合ってるっていうのはちょっと、ちがうんじゃ……」
「……何言ってんの?麻子」
その声に、私はそれ以上言葉を発することができなかった。乱数の顔はさっきとは打って変わって無表情で、感情の読み取れない硝子玉のような瞳が、とても恐ろしかった。
「僕は麻子のこと好きだよ。好きじゃなかったら、こんなに一緒に居ないし、助けてあげたりもしない。なんか周りで騒いでる奴に聞かれたから、そう答えただけだよ。麻子は、僕のこと好きじゃないの?」
私は首を振った。もちろん、乱数のことは好きだ。でも、それは、人間としてであって、恋愛とか、付き合うとか、そういう意味じゃないってこと──乱数は分かっているんだろうか。
「なら、それでいいじゃん!僕は麻子が好き。麻子も僕のことが好き。それなら、好き同士ってことでしょ?付き合ってるっていうのも色々あるんだから、僕たちは今までと変わらない、そういう感じでいいじゃん!難しいこと考えずに、ね?」
乱数は途端にいつもの可愛らしい笑顔に戻って、「……だからほら、元気だして、麻子?」と小首を傾げた。こんな風に言われると、私は結局何も言えなくなってしまう。それに、あんなにきゃぴきゃぴしていても乱数はかなり頭がよくて、私よりもずっと色々なことを分かっていることを知っているから。自分に自信の無い私は、本当は乱数の言ってることが正しいのかも、と思ってしまうのだ。また丸め込まれてしまったような感じがしながらも、「そうだ!麻子、この前話した美味しいスイーツのお店行こうよ!」と言う乱数の誘いを断れず、結局この話はなかったことになった。そして、何も状況は変わらないまま、それから1年ほどの月日が流れた。
私は正直うんざりしていた。だって、乱数の行動は中学二年生になっても全く変わらなかったのだ。学校の行き帰りの道や、教室移動の途中でも、いつでも乱数は私の前に現れる。そして、まるで自分のものだとアピールするように、人前で腕を組んだり、抱きついてきたりするのだ。当然、そんなことをしているカップルに近づこうとする者はいないから、中二でも私はクラスで一人きり。
だけど、中一でのあの一件から、私は乱数に反抗するのが怖くなってしまったから、もう状況を打開できる可能性はゼロに近かった。そんな私に差した、一筋の光明。それは、唐突に私の前に現れて、私の運命を大きく変えることとなったのだ。