本編
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それから後、僕達はつい長話をしてしまって、帰ってから園長先生にこっぴどく叱られた。いつもなら、叱られてもいつものぶりっこでうまく躱すところなんだけど、先程の笑顔から一転、ぼろぼろと涙を流して謝る麻子が何だか面白くて、しばらく園長先生のお説教に付き合うことにしたのだった。ようやく終わった後に、麻子がものすごい顔で「ご、ごわがっだよおおお〜」と泣きついてきたものだから、さらに大笑いしてしまった。
それから僕と麻子は仲良くなって、いつも一緒に行動するようになった。「らむだくん、まって〜」とどこにでもついてくるのが可笑しかったけど、不思議とうざいとか鬱陶しいとか思うようなことはなかった。むしろ、彼女といる時にだけ、安らぎや多幸感を感じている自分に驚いていた。僕は、彼女以外に特定の誰かを特別に好きだとか、愛しいと思ったことはなかったから、これが恋なのか、とだんだんと自覚し始める頃に──僕達は保育園を卒業し、同じ小学校に入ることとなった。人が増えて、やることが増えて、保育園とはかけ離れた生活に変わったけれど、僕達の関係はそこまで変わらなかった。たまたまクラスが一緒だった低学年では、ほとんど一緒に行動したし、クラスが離れた高学年でもあまり関係性は変わらなかった。変わったのは、僕が麻子のことを好きだとはっきり自覚して動くようになったことだけ。どうすれば麻子が少しでもこちらを向いてくれるか。どうすれば麻子が、より僕のことを好きになってくれるか。それを考えることと、麻子と実際に会うことだけが、僕の楽しみだった。しかし、僕達が同じ中学校に入学して少し経った頃、麻子の態度が急に変わったのだ。
それは、いつも学校帰りに寄る公園のベンチに座っているときのことだった。
「ねえ、乱数……前から思ってたんだけどさ……もう、やめようよ、こういうの」
「え?何?こういうのって」
僕は、残り少ない棒付きキャンディーを口から出して聞き返した。麻子はばつが悪そうに両手をもじもじさせて、それから絞り出すように口を開いた。
「だから……こうやって乱数と一緒に学校行って、乱数と一緒に帰って、乱数の家に行くの……やめようって言ってるの」
僕の表情は、あくまで冷静だった。それは、おそらく誰の目から見ても明らかだったと思う。しかし内心は、まるで心臓が止まってしまったんじゃないか、というほどの衝撃を受けていた。
僕は、ふつふつと湧き上がってくる焦燥と怒りを誤魔化すように、口に咥えていた飴をバリ、と噛み砕いた。落ち着け。考えろ自分。きっと説得の糸口はあるはずだ。
「……何で?元はと言えば、麻子が言い出したことでしょ。面倒臭い母親と少しでも一緒にいたくないからって」
「……っ、それは…………」
麻子が目を泳がせ始めたのを見計らって、さらに追い討ちをかけていく。
「また、あの頃みたいに戻りたいの?人格否定されて、塞ぎ込んでひとりぼっちになって。僕がいなかったら麻子、今頃死んじゃってるかもしれないのに」
何か言おうとする麻子を無視してまくし立てる。麻子も何か言い返そうとしているみたいだが、言葉が出てこない。そりゃあ、ぐうの音も出ないよね。母からの言葉の暴力で傷ついた麻子を慰めていたのは、いつも僕だったんだから。
これは勝ったな、と僕は涼しい顔で、また優しく彼女に話しかけようと思った。しかし、彼女は歯を食いしばって立ち上がり、涙目で僕をキッと睨みつけてきた。
「……今の乱数は、もう昔の優しい乱数くんじゃない!!」
僕は目を見開いた。麻子はその濡れた瞳に紛れもない怒りの色を宿して、僕のことをじっと見つめている。だんだんと、心臓の鼓動がドクン、ドクン、と壊れそうに速くなっていく。
「他の子と友達になろうとすると、必ず間に割って入ってくるし!!みんなに付き合ってるって勘違いされてるから、好きな人にも全然相手にされないし!!やめてって言っても、いつの間にか丸め込まれてて、結局私、クラスの中で乱数以外とほとんど話したことないんだよ……!?もうやだよ……!!もう、私の邪魔しないでよ……っ!!お願い、乱数……っ!!」
麻子は、まるであの日のようにぼろぼろと涙をこぼして、僕に訴えかけた。彼女の嗚咽が、彼女の声にならない言葉が、遠くなる。ギリギリの状態で保ってきた理性が、今にも決壊してしまいそうだった。麻子が、僕のことを、邪魔だって……?僕は、こんなにも君を──愛しているのに。
「……っ、ごめん……ちょっと、言い過ぎた、って、ひゃっ!?」
気がついたら、僕は彼女を押し倒していた。鈍い音とともに、痛みに顔を歪ませる麻子の上にのしかかって、両手首を押さえつける。彼女はただ目をまん丸にして、何をされているのかもよく分かっていない様子だった。馬鹿みたい。中学生にもなったら、この状況が危ないってことくらい、分かるだろうに。
「……あはっ、麻子、僕が怖い?怖いなら、抵抗しなよ。僕のこと無理矢理にでも蹴飛ばしてさ、一目散に逃げてみなよ、ねえ」
煽るように冷たく言葉を吐き捨てる僕に、彼女は小さく悲鳴を上げ、恐怖を露わにした。罪悪感でわずかに胸が痛むものの、僕は彼女にのしかかるのをやめない。だって、何としてでも確かめたかったのだ。結局のところ、彼女が僕のことをどう思っているのか。
「……そ、そんなの、できない……」
「……それは、どうして?」
いつもよりもワントーン低い声に、麻子の肩がびくりと跳ねた。ぶるぶると震える体ごと両足で押さえつけて、僕はもう一度麻子に問いかける。
「どうしてなの、麻子」
有無を言わせぬ口調で彼女の目を見つめると、麻子は気まずそうに顔を逸らして答えた。目に溜まった涙が、目の端から一筋こぼれ落ちる。
「……だって、乱数くん、離れないでって……置いていかないでって顔、してる、から……」
僕の中で、何かが崩れ落ちる音がした。
ああ、彼女は。麻子は、どこまで真っ直ぐなんだろう。真っ直ぐに人の心を見抜いて、ただ純粋に深いところをノックして、こちらの意思など関係なく、丸ごと包み込んでしまう。どんなに穢れた心でさえ、受け入れようとして、傷ついて泣いて。馬鹿で無垢で純粋で、美しい。僕の麻子。なんて愛おしいんだろう。もう、限界だった。ギリギリまで溜まっていた愛情というダムは、その重みに耐えきれずに決壊してしまった。一度溢れてしまったものは、もう、二度と元には戻らない。
「……もう、友達ごっこはおしまいにしようか」
「えっ……?」
怪訝そうな顔で聞き返してくる麻子にぐっと鼻先まで近づいて、甘い吐息の混じった声で囁く。
「……ねえ麻子、この前さぁ、あそこのベンチで、人目もはばからずにベロチューしてるカップルいたじゃん?あれ──やってみようか」
「……っ!?」
そこで麻子は、ようやく自分がされそうになっていることに気がついたようだった。今度は本当の拒絶の意味で、ぶんぶんと首を振って、懇願するように僕の目を見つめる。でも、もう全てが遅い。そんな表情は、僕を煽る要素にしかならない。
「麻子、かーわい。残念、もうやめてあげないよ。僕のことを拒絶したんだもの」
「……っ!、ちがっ、乱数っ、んんっ……」
脚をばたつかせ始めた麻子を無視して、ピンク色の薄い唇に自分のものを重ねた。初めて味わった彼女の唇は、今まで味わったどんなものよりも柔らかくて、温かくて、そして魅惑的だった。もっともっとと、強請るように唇を合わせると、彼女から鼻にかかった吐息が漏れる。頬を指でなぞり上げ、耳たぶを弄り回すと、まるで小動物のように体を震わせる彼女が愛おしい。下唇をじっくり味わうように食んで、その先を求めるように境目をちろりとなぞってから、ようやく解放してやると、泣き腫らした彼女の目がとろりと蕩けているのが分かった。彼女も感じてくれていたのか。そう思うと嬉しくて、幸せで、余計に止まらなくなってしまう。
「麻子、鼻で息しなよ」と注意をしてから、有無を言わせずもう一度口付ける。頭から首筋にかけてを指でなぞりながら、唇の合わせ目をつんつんと舌でノックして、彼女が油断した隙に舌を滑り込ませた。舌先がわずかに触れ合うと、背筋にぞくりとした快感が走る。もっと欲しい。彼女が欲しい。その一心で、夢中になって舌を絡ませる。彼女の舌も、唾液も、全部甘くて愛おしい。舌と舌とを擦り合わせて、上顎をなぞって、まるで彼女の全てを食べ尽くすみたいに。流されやすい彼女は、いつの間にか抵抗するのも忘れて、僕の制服のシャツをぎゅっと握って初めての感覚に耐えていた。そういうところだ。麻子がそんなだから、僕は止まらなくなってしまうんだ。
「んむ…………はぁ、麻子、かわいい」
「んふ、はぁ、はぁ、はぁ……らむだく……なんで…………」
「好きだよ、好き……愛してるんだ、麻子……ねえお願い、僕を拒まないで」
麻子を拘束していた両手を解き、彼女にしか聞こえないくらいのか細い声で呟く。そんな風に言われてしまえば、きっと麻子は断れない。そのことを、僕は一番よく知っていた。だけど、この彼女への狂おしいほどの気持ちは、紛れもなく本物だ。だから、彼女を手に入れるためなら、どんな嘘だってつくし、どんな手だって使う。僕はそういう男だ。だけど、こんな穢れた僕でも、君なら受け入れてくれるんじゃないかって──君は、そう思えた初めての女の子なんだ。
啜り泣くふりをしながら、彼女の首にすがりつくように抱きつく。彼女は少しだけ口を開きかけたが、最後には言葉を飲み込んで、黙って僕の頭を優しく撫でた。慈しむような掌の温かさが心地よくて、僕は目を閉じる。もう、後には戻れない。彼女のことは大事にしようと思っていたけれど、このまま何もしなければ、麻子は僕から離れていってしまうだろう。それならばいっそ、今、無理やりにでも、手に入れてしまおう。
その夜僕は、彼女を家に連れて戻って、そのまま僕の部屋で処女を奪った。嫌だと喚き、ぐずる麻子の身体に快感を教え込むのは、なかなかに時間がかかったけれど、麻子が他の男のところに行ってしまうくらいなら、少しくらい傷つけたって構わないと思った。たっぷり時間をかけて、根気よく甘やかし続けて、今は隣で寝息を立てている。
実は僕も、まだ中学生だし、身体を重ねるのは今日が初めてだった。でも、結果的に彼女は痛がる様子も見せなかったし、本やら何やらで勉強した甲斐があったというものだ。僕は彼女の髪の毛をさら、と指の間に通しながら、愛しい彼女の名前を呼んだ。
「好きだよ、麻子」
瞼にひとつキスを落とすと、ぴくり、と一瞬睫毛が動いた。その反応が愛おしくて、彼女に素肌で触れられることが幸せで、指と指を絡めながらもう一度唇にキスを落とし、僕も目を閉じた。
可哀想な麻子。ひしひしと感じる。きっと、僕に出会ったことが、麻子にとっての最大の不幸であり、運の尽きだったんだろうと。だけど、残念ながら、きっと僕はこの先も、君を離してやることはできない。なぜかって、僕にとっての最大の幸福は、君と出会えたことなんだからね。
それから僕と麻子は仲良くなって、いつも一緒に行動するようになった。「らむだくん、まって〜」とどこにでもついてくるのが可笑しかったけど、不思議とうざいとか鬱陶しいとか思うようなことはなかった。むしろ、彼女といる時にだけ、安らぎや多幸感を感じている自分に驚いていた。僕は、彼女以外に特定の誰かを特別に好きだとか、愛しいと思ったことはなかったから、これが恋なのか、とだんだんと自覚し始める頃に──僕達は保育園を卒業し、同じ小学校に入ることとなった。人が増えて、やることが増えて、保育園とはかけ離れた生活に変わったけれど、僕達の関係はそこまで変わらなかった。たまたまクラスが一緒だった低学年では、ほとんど一緒に行動したし、クラスが離れた高学年でもあまり関係性は変わらなかった。変わったのは、僕が麻子のことを好きだとはっきり自覚して動くようになったことだけ。どうすれば麻子が少しでもこちらを向いてくれるか。どうすれば麻子が、より僕のことを好きになってくれるか。それを考えることと、麻子と実際に会うことだけが、僕の楽しみだった。しかし、僕達が同じ中学校に入学して少し経った頃、麻子の態度が急に変わったのだ。
それは、いつも学校帰りに寄る公園のベンチに座っているときのことだった。
「ねえ、乱数……前から思ってたんだけどさ……もう、やめようよ、こういうの」
「え?何?こういうのって」
僕は、残り少ない棒付きキャンディーを口から出して聞き返した。麻子はばつが悪そうに両手をもじもじさせて、それから絞り出すように口を開いた。
「だから……こうやって乱数と一緒に学校行って、乱数と一緒に帰って、乱数の家に行くの……やめようって言ってるの」
僕の表情は、あくまで冷静だった。それは、おそらく誰の目から見ても明らかだったと思う。しかし内心は、まるで心臓が止まってしまったんじゃないか、というほどの衝撃を受けていた。
僕は、ふつふつと湧き上がってくる焦燥と怒りを誤魔化すように、口に咥えていた飴をバリ、と噛み砕いた。落ち着け。考えろ自分。きっと説得の糸口はあるはずだ。
「……何で?元はと言えば、麻子が言い出したことでしょ。面倒臭い母親と少しでも一緒にいたくないからって」
「……っ、それは…………」
麻子が目を泳がせ始めたのを見計らって、さらに追い討ちをかけていく。
「また、あの頃みたいに戻りたいの?人格否定されて、塞ぎ込んでひとりぼっちになって。僕がいなかったら麻子、今頃死んじゃってるかもしれないのに」
何か言おうとする麻子を無視してまくし立てる。麻子も何か言い返そうとしているみたいだが、言葉が出てこない。そりゃあ、ぐうの音も出ないよね。母からの言葉の暴力で傷ついた麻子を慰めていたのは、いつも僕だったんだから。
これは勝ったな、と僕は涼しい顔で、また優しく彼女に話しかけようと思った。しかし、彼女は歯を食いしばって立ち上がり、涙目で僕をキッと睨みつけてきた。
「……今の乱数は、もう昔の優しい乱数くんじゃない!!」
僕は目を見開いた。麻子はその濡れた瞳に紛れもない怒りの色を宿して、僕のことをじっと見つめている。だんだんと、心臓の鼓動がドクン、ドクン、と壊れそうに速くなっていく。
「他の子と友達になろうとすると、必ず間に割って入ってくるし!!みんなに付き合ってるって勘違いされてるから、好きな人にも全然相手にされないし!!やめてって言っても、いつの間にか丸め込まれてて、結局私、クラスの中で乱数以外とほとんど話したことないんだよ……!?もうやだよ……!!もう、私の邪魔しないでよ……っ!!お願い、乱数……っ!!」
麻子は、まるであの日のようにぼろぼろと涙をこぼして、僕に訴えかけた。彼女の嗚咽が、彼女の声にならない言葉が、遠くなる。ギリギリの状態で保ってきた理性が、今にも決壊してしまいそうだった。麻子が、僕のことを、邪魔だって……?僕は、こんなにも君を──愛しているのに。
「……っ、ごめん……ちょっと、言い過ぎた、って、ひゃっ!?」
気がついたら、僕は彼女を押し倒していた。鈍い音とともに、痛みに顔を歪ませる麻子の上にのしかかって、両手首を押さえつける。彼女はただ目をまん丸にして、何をされているのかもよく分かっていない様子だった。馬鹿みたい。中学生にもなったら、この状況が危ないってことくらい、分かるだろうに。
「……あはっ、麻子、僕が怖い?怖いなら、抵抗しなよ。僕のこと無理矢理にでも蹴飛ばしてさ、一目散に逃げてみなよ、ねえ」
煽るように冷たく言葉を吐き捨てる僕に、彼女は小さく悲鳴を上げ、恐怖を露わにした。罪悪感でわずかに胸が痛むものの、僕は彼女にのしかかるのをやめない。だって、何としてでも確かめたかったのだ。結局のところ、彼女が僕のことをどう思っているのか。
「……そ、そんなの、できない……」
「……それは、どうして?」
いつもよりもワントーン低い声に、麻子の肩がびくりと跳ねた。ぶるぶると震える体ごと両足で押さえつけて、僕はもう一度麻子に問いかける。
「どうしてなの、麻子」
有無を言わせぬ口調で彼女の目を見つめると、麻子は気まずそうに顔を逸らして答えた。目に溜まった涙が、目の端から一筋こぼれ落ちる。
「……だって、乱数くん、離れないでって……置いていかないでって顔、してる、から……」
僕の中で、何かが崩れ落ちる音がした。
ああ、彼女は。麻子は、どこまで真っ直ぐなんだろう。真っ直ぐに人の心を見抜いて、ただ純粋に深いところをノックして、こちらの意思など関係なく、丸ごと包み込んでしまう。どんなに穢れた心でさえ、受け入れようとして、傷ついて泣いて。馬鹿で無垢で純粋で、美しい。僕の麻子。なんて愛おしいんだろう。もう、限界だった。ギリギリまで溜まっていた愛情というダムは、その重みに耐えきれずに決壊してしまった。一度溢れてしまったものは、もう、二度と元には戻らない。
「……もう、友達ごっこはおしまいにしようか」
「えっ……?」
怪訝そうな顔で聞き返してくる麻子にぐっと鼻先まで近づいて、甘い吐息の混じった声で囁く。
「……ねえ麻子、この前さぁ、あそこのベンチで、人目もはばからずにベロチューしてるカップルいたじゃん?あれ──やってみようか」
「……っ!?」
そこで麻子は、ようやく自分がされそうになっていることに気がついたようだった。今度は本当の拒絶の意味で、ぶんぶんと首を振って、懇願するように僕の目を見つめる。でも、もう全てが遅い。そんな表情は、僕を煽る要素にしかならない。
「麻子、かーわい。残念、もうやめてあげないよ。僕のことを拒絶したんだもの」
「……っ!、ちがっ、乱数っ、んんっ……」
脚をばたつかせ始めた麻子を無視して、ピンク色の薄い唇に自分のものを重ねた。初めて味わった彼女の唇は、今まで味わったどんなものよりも柔らかくて、温かくて、そして魅惑的だった。もっともっとと、強請るように唇を合わせると、彼女から鼻にかかった吐息が漏れる。頬を指でなぞり上げ、耳たぶを弄り回すと、まるで小動物のように体を震わせる彼女が愛おしい。下唇をじっくり味わうように食んで、その先を求めるように境目をちろりとなぞってから、ようやく解放してやると、泣き腫らした彼女の目がとろりと蕩けているのが分かった。彼女も感じてくれていたのか。そう思うと嬉しくて、幸せで、余計に止まらなくなってしまう。
「麻子、鼻で息しなよ」と注意をしてから、有無を言わせずもう一度口付ける。頭から首筋にかけてを指でなぞりながら、唇の合わせ目をつんつんと舌でノックして、彼女が油断した隙に舌を滑り込ませた。舌先がわずかに触れ合うと、背筋にぞくりとした快感が走る。もっと欲しい。彼女が欲しい。その一心で、夢中になって舌を絡ませる。彼女の舌も、唾液も、全部甘くて愛おしい。舌と舌とを擦り合わせて、上顎をなぞって、まるで彼女の全てを食べ尽くすみたいに。流されやすい彼女は、いつの間にか抵抗するのも忘れて、僕の制服のシャツをぎゅっと握って初めての感覚に耐えていた。そういうところだ。麻子がそんなだから、僕は止まらなくなってしまうんだ。
「んむ…………はぁ、麻子、かわいい」
「んふ、はぁ、はぁ、はぁ……らむだく……なんで…………」
「好きだよ、好き……愛してるんだ、麻子……ねえお願い、僕を拒まないで」
麻子を拘束していた両手を解き、彼女にしか聞こえないくらいのか細い声で呟く。そんな風に言われてしまえば、きっと麻子は断れない。そのことを、僕は一番よく知っていた。だけど、この彼女への狂おしいほどの気持ちは、紛れもなく本物だ。だから、彼女を手に入れるためなら、どんな嘘だってつくし、どんな手だって使う。僕はそういう男だ。だけど、こんな穢れた僕でも、君なら受け入れてくれるんじゃないかって──君は、そう思えた初めての女の子なんだ。
啜り泣くふりをしながら、彼女の首にすがりつくように抱きつく。彼女は少しだけ口を開きかけたが、最後には言葉を飲み込んで、黙って僕の頭を優しく撫でた。慈しむような掌の温かさが心地よくて、僕は目を閉じる。もう、後には戻れない。彼女のことは大事にしようと思っていたけれど、このまま何もしなければ、麻子は僕から離れていってしまうだろう。それならばいっそ、今、無理やりにでも、手に入れてしまおう。
その夜僕は、彼女を家に連れて戻って、そのまま僕の部屋で処女を奪った。嫌だと喚き、ぐずる麻子の身体に快感を教え込むのは、なかなかに時間がかかったけれど、麻子が他の男のところに行ってしまうくらいなら、少しくらい傷つけたって構わないと思った。たっぷり時間をかけて、根気よく甘やかし続けて、今は隣で寝息を立てている。
実は僕も、まだ中学生だし、身体を重ねるのは今日が初めてだった。でも、結果的に彼女は痛がる様子も見せなかったし、本やら何やらで勉強した甲斐があったというものだ。僕は彼女の髪の毛をさら、と指の間に通しながら、愛しい彼女の名前を呼んだ。
「好きだよ、麻子」
瞼にひとつキスを落とすと、ぴくり、と一瞬睫毛が動いた。その反応が愛おしくて、彼女に素肌で触れられることが幸せで、指と指を絡めながらもう一度唇にキスを落とし、僕も目を閉じた。
可哀想な麻子。ひしひしと感じる。きっと、僕に出会ったことが、麻子にとっての最大の不幸であり、運の尽きだったんだろうと。だけど、残念ながら、きっと僕はこの先も、君を離してやることはできない。なぜかって、僕にとっての最大の幸福は、君と出会えたことなんだからね。