本編
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
そして現在。私は黒い服を着た女性に脇を固められ、黒塗りの車の真ん中の席に押し込められ、そのまま知らない道路を走っていた。助手席にいるのはあの勘解由小路無花果。そして、後ろの席にいるのは、とても不機嫌そうな顔で飴玉を口に咥えている乱数。私は、だらだらと嫌な汗が流れるのを感じながらも、大人しく連れていかれることしかできない。どうして。どうしてだ。どうしてこうなった。あまりにも唐突すぎて、状況が飲み込めない。
私は、先程マンションの通路で勘解由小路無花果に言われた言葉を、頭の中でぐるぐると思い巡らす。
『お前には、神宮寺寂雷と飴村乱数の人質──そして、これから飴村乱数とともに作るチームの、マネージャーになってもらう』
人質?チーム?よく分からない。人質はまだ理解できるとしても、なぜ私がそのチームとやらのマネージャーになるという話になるのだ。確かに今、男性たちは領土を獲得するために、ラップバトルを盛んに行っているらしいが、ラップのラの字も、マネージャーのマの字も知らないただの女に、そんなの務まるわけないだろう。そもそも、ラップのチームにマネージャーなんか必要なのか?私は必要ないと思う。なったとしてもやることがないと思うし、とりあえず車の中の空気が最悪なので早く帰りたいです。……といっても、政府関係者に周りを固められているこの状況で、そんなことを口にできるわけはないのだが。
私たちが向かっているのは、政府が秘密裏に所有している建物。そこに厳重なセキュリティの置かれた会議室があるというので、そこに向かっているらしい。詳細はそこで話す、と言われたが、善良な一般人を、半ば無理やり車に押し込む人の言うことなんて信用できない。車で走っているから、逃げる方法も皆無に等しい。乱数がいるから、殺されるということはとりあえずないだろうけど。だって、私が殺されそうになったら、確実に乱数はその相手を本気で殺しにかかる。そんなことになれば、せっかく秘密裏に行っているこの誘拐は、成り立たなくなってしまうからだ。まあ、殺されないにしても、監禁されるとかは普通に有り得そうなので、ヤバい状況なのには何ら変わりないが。
本当に、どうしてこうなったんだ。さっきから何回も繰り返し思い出していることを、もう一度追想してみる。
それは、わずか数十分前の出来事だった。
「最近、コソコソと何か嗅ぎ回っていると思ったら……なるほど。節操のないお前が、まさか1人の女にこれほど固執していたとはな」
鋭い眼差しに、豊満な体つき──現政権のNo.2である勘解由小路無花果が、腕を組んで乱数を厳しい目付きで見下ろしている。私は暫く呆然と2人を見ていることしかできなかったが、乱数の背後に浮かぶ目玉のスピーカーがズオオ、と蠢くのが目に入り、我に返って空いた胸元を手で隠す。乱数はNo.2の圧力にも少しも動じることのないまま、顔を逸らしてふてぶてしく口を開いた。
「……無花果オネーサンには関係なーいっ。ていうか、僕をこんな卑怯な手口で襲って、ただで済むと思ってるのー?」
「ふん、お前こそ、こんな愚行をしてただで済むと思っているのか。従わないのなら、そのヒプノシスマイクを取り上げてやってもいいんだぞ」
勘解由小路無花果の言葉に、乱数の瞳がすっと鋭くなる。イライラしているときの、乱数の表情だ。二人は暫く口を閉ざし、互いの思惑を探るようにじっと睨み合う。もしここで誰かが通りがかりでもしたら、竦み上がって動けなくなってしまうんじゃないだろうか。実際、私もこの空気に当てられて、指一本動かすことができない。それくらい、二人の放つ殺気は凄まじかった。
永遠にも思える殺伐とした沈黙の後、乱数がはぁ、と諦めたようにため息をついて、その場の空気がふっと弛緩する。思わず息を吐いてしまう私をよそに、乱数はどこからか取り出した棒付きキャンディーの包装を解き、口に咥えて暫く味わってから、吐き捨てるようにこう言い放った。
「あーあ、オネーサンにばれないように動いてたつもりだったんだけどなー?やっぱり、無花果オネーサンには適わないや」
おどけるようにぴょんと跳んで腕を後ろで組み、ヒプノシスマイクの電源を切る乱数。カラフルな目玉のスピーカーがパッと消えるのを見届けて、勘解由小路無花果も自分のヒプノシスマイクの電源を切った。どうやら、ここでラップバトルをする気はないようだ。そう思うと一気に力が抜けて、私はその場にずりずりとへたりこんでしまう。
勘解由小路無花果がちらりと私の方を見た。私はその鋭い眼差しにドキッとして、思わず背筋が伸びてしまう。すると勘解由小路無花果は、ふんと鼻を鳴らして後ろを向き、誰かに軽くジェスチャーをした。すると、後ろから黒い服を着た女性が数人なだれ込んできて、驚く暇もなく、胸元に無地のショールをきっちりと巻かれる。
目を見開いて勘解由小路無花果の方を見上げると、彼女は目を逸らして「そのままだと見苦しいからな、それを着ておけ」と呟いた。私は一瞬目をぱちくりさせたが、もしかして、この人なりの優しさなのだろうか、と思い当たり、同時にまだ助けてもらったお礼を言っていないことに気がつく。
私は慌てて立ち上がり、彼女の方に向かって大きく頭を下げた。彼女は突然頭を下げた私を見て、怪訝そうに眉を顰める。
「あのっ……!助けていただいて、ありがとうございました……」
勇気を振り絞って伝えると、彼女は腕を組んだまま目を伏せて「……ああいうことをする輩が、私は一番嫌いなんだ。それだけだ」とぽそりと言った。雰囲気は怖いけれど、あと男性には厳しいけれど、もしかしてこの人は、そこまで悪い人ではないのかもしれない。そんなことを思いながら、再び頭を下げようか迷っていると、どんっ!と横から乱数がいきなりぶつかってきて、「ひっ!?」と情けない声が漏れる。
そんな私をよそに、乱数はぎゅうぎゅうと私の腕に抱きつきながら、牽制するようにジト目で彼女のことを見上げた。
「ひっどーい!無花果オネーサン、僕のこと嫌いなのー?」
「嫌いに決まっているだろう。野蛮なうえに口うるさいお前のことなど」
「うえ〜ん!僕悲しい〜〜麻子ちゃん、慰めて〜?」
「ひ……!?は、離して……!乱数……!」
先ほどの剣幕との大きすぎるギャップと、抱きつかれた感触に鳥肌が立って、振り払おうと腕をじたばたさせる。しかし、乱数はしつこく私の腕に絡みついてきて離れず、必死にもう片方の手で押しのけようとしていると、カツカツと音を立てて、勘解由小路無花果が少し後ろに下がった。
突然何なのだろうと思い、頭にハテナマークを浮かべると、乱数が「まさか……!?」と呟いて、私を庇うようにして後ずさった。しかし、時はもう既に遅く、数人の女性が私を羽交い締めにし、違う数名の女性がヒプノシスマイクのスイッチをオンにする。脳を揺さぶるような激しい振動。まるで何かに殴られているかのような衝撃が私を襲う。
堪らず力が抜け、女性たちに拘束されるがままになってしまう私に、乱数は「麻子……っ!!」と叫んで素早くマイクを取り出したが、大人数が奏でる爆音のリリックによって膝をつく。乱数は顔を歪ませ、全身を震わせながら、「テメェ……!」と鋭い殺気の篭った目で勘解由小路無花果を見上げた。その視線にも臆することはなく、彼女は残酷な笑みを浮かべた。
「お前と、神宮寺寂雷……言の葉党が目をつけた中でも、特に扱いの難しい2人を手玉に取ったという謎の女を、こちらが利用しない手はない。改めて訪問する手間が省けたな」
私は大音量のリリックを受けながらも、ゆっくりと顔を上げて、美しく笑う勘解由小路無花果の方を見る。この人は、いい人なんかじゃなかった。それに、先生が言の葉党に目をつけられているだなんて。そんな、私は殺されてもいいから、先生だけは──。そんなことを、朦朧とする意識の中で考える。乱数も必死にヒプノシスマイクを起動しようとしているようだが、手が震えてスイッチが押せないようだ。乱数が敵わない相手に、私が適うわけない。私は諦めて力を抜き、痺れる手を酷使して両手を挙げ、降参の意を示す。そんな私を見て、「麻子……っ!」と叫んだ乱数だったが、彼ももう抵抗しても意味がないことを悟ったのか、悔しそうに歯噛みしながらも、ゆっくりと両手を挙げた。そんな私たちに勘解由小路無花果は満足そうに笑い、女性たちに「止めろ!」と指示してマイクの音を止めさせる。ようやく止まった暴力的な振動に、がくりと力が抜けて、周りを取り囲む女性たちに全体重を預けることなってしまう。
そして、私は勘解由小路無花果の部下と思われる女性たちに、ほとんど引きずられるようにして外へと運ばれた。そして、黒塗りの大きな車に押し込められ、バタン!とドアを閉められる。乱数が不機嫌そうな顔で後ろに乗り込み、そのまま走り出したかと思うと、勘解由小路無花果が助手席からくるりと振り返り、衝撃の一言を放った。
『お前には、神宮寺寂雷と飴村乱数の人質──そして、これから飴村乱数とともに作るチームの、マネージャーになってもらう』
こうして今に至る、というわけだが。何度思い出しても、全く意味が分からない。そもそも、手玉に取っただなんてとんだ間違いである。乱数には一方的に執着されているだけだし、ましてや先生なんて、恋愛的な気持ちは一切ないというのに。どうして乱数も政府も、そんな勘違いをするのだろうか。男と女が仲良くしていれば、全てがやましい関係に発展するとでも思っているのか。ていうか、寂雷先生と私とでは、かなり歳が離れているんですけど。並んで見比べたら普通に分かると思うんですけど。
そんな意味のない自問自答を繰り返しているうちに、目的地に到着したようだ。乱数が相変わらず棒付きの飴を口に咥えながら、無表情そして無言で外に出る。これはかなりイライラしている顔だ。怖い。ビクビクしながら私も女性たちに連れられて外に出ると、目の前に建っているのは意外にもどこにでもありそうな事務所のような建物だった。勘解由小路無花果は、車から降りるとコツコツとヒールの音を響かせて、私たちの前まで出る。
「ここだ。行くぞ」
彼女とその部下に連れられるがままに、私たちはその建物の中に入ったのであった。
私は、先程マンションの通路で勘解由小路無花果に言われた言葉を、頭の中でぐるぐると思い巡らす。
『お前には、神宮寺寂雷と飴村乱数の人質──そして、これから飴村乱数とともに作るチームの、マネージャーになってもらう』
人質?チーム?よく分からない。人質はまだ理解できるとしても、なぜ私がそのチームとやらのマネージャーになるという話になるのだ。確かに今、男性たちは領土を獲得するために、ラップバトルを盛んに行っているらしいが、ラップのラの字も、マネージャーのマの字も知らないただの女に、そんなの務まるわけないだろう。そもそも、ラップのチームにマネージャーなんか必要なのか?私は必要ないと思う。なったとしてもやることがないと思うし、とりあえず車の中の空気が最悪なので早く帰りたいです。……といっても、政府関係者に周りを固められているこの状況で、そんなことを口にできるわけはないのだが。
私たちが向かっているのは、政府が秘密裏に所有している建物。そこに厳重なセキュリティの置かれた会議室があるというので、そこに向かっているらしい。詳細はそこで話す、と言われたが、善良な一般人を、半ば無理やり車に押し込む人の言うことなんて信用できない。車で走っているから、逃げる方法も皆無に等しい。乱数がいるから、殺されるということはとりあえずないだろうけど。だって、私が殺されそうになったら、確実に乱数はその相手を本気で殺しにかかる。そんなことになれば、せっかく秘密裏に行っているこの誘拐は、成り立たなくなってしまうからだ。まあ、殺されないにしても、監禁されるとかは普通に有り得そうなので、ヤバい状況なのには何ら変わりないが。
本当に、どうしてこうなったんだ。さっきから何回も繰り返し思い出していることを、もう一度追想してみる。
それは、わずか数十分前の出来事だった。
「最近、コソコソと何か嗅ぎ回っていると思ったら……なるほど。節操のないお前が、まさか1人の女にこれほど固執していたとはな」
鋭い眼差しに、豊満な体つき──現政権のNo.2である勘解由小路無花果が、腕を組んで乱数を厳しい目付きで見下ろしている。私は暫く呆然と2人を見ていることしかできなかったが、乱数の背後に浮かぶ目玉のスピーカーがズオオ、と蠢くのが目に入り、我に返って空いた胸元を手で隠す。乱数はNo.2の圧力にも少しも動じることのないまま、顔を逸らしてふてぶてしく口を開いた。
「……無花果オネーサンには関係なーいっ。ていうか、僕をこんな卑怯な手口で襲って、ただで済むと思ってるのー?」
「ふん、お前こそ、こんな愚行をしてただで済むと思っているのか。従わないのなら、そのヒプノシスマイクを取り上げてやってもいいんだぞ」
勘解由小路無花果の言葉に、乱数の瞳がすっと鋭くなる。イライラしているときの、乱数の表情だ。二人は暫く口を閉ざし、互いの思惑を探るようにじっと睨み合う。もしここで誰かが通りがかりでもしたら、竦み上がって動けなくなってしまうんじゃないだろうか。実際、私もこの空気に当てられて、指一本動かすことができない。それくらい、二人の放つ殺気は凄まじかった。
永遠にも思える殺伐とした沈黙の後、乱数がはぁ、と諦めたようにため息をついて、その場の空気がふっと弛緩する。思わず息を吐いてしまう私をよそに、乱数はどこからか取り出した棒付きキャンディーの包装を解き、口に咥えて暫く味わってから、吐き捨てるようにこう言い放った。
「あーあ、オネーサンにばれないように動いてたつもりだったんだけどなー?やっぱり、無花果オネーサンには適わないや」
おどけるようにぴょんと跳んで腕を後ろで組み、ヒプノシスマイクの電源を切る乱数。カラフルな目玉のスピーカーがパッと消えるのを見届けて、勘解由小路無花果も自分のヒプノシスマイクの電源を切った。どうやら、ここでラップバトルをする気はないようだ。そう思うと一気に力が抜けて、私はその場にずりずりとへたりこんでしまう。
勘解由小路無花果がちらりと私の方を見た。私はその鋭い眼差しにドキッとして、思わず背筋が伸びてしまう。すると勘解由小路無花果は、ふんと鼻を鳴らして後ろを向き、誰かに軽くジェスチャーをした。すると、後ろから黒い服を着た女性が数人なだれ込んできて、驚く暇もなく、胸元に無地のショールをきっちりと巻かれる。
目を見開いて勘解由小路無花果の方を見上げると、彼女は目を逸らして「そのままだと見苦しいからな、それを着ておけ」と呟いた。私は一瞬目をぱちくりさせたが、もしかして、この人なりの優しさなのだろうか、と思い当たり、同時にまだ助けてもらったお礼を言っていないことに気がつく。
私は慌てて立ち上がり、彼女の方に向かって大きく頭を下げた。彼女は突然頭を下げた私を見て、怪訝そうに眉を顰める。
「あのっ……!助けていただいて、ありがとうございました……」
勇気を振り絞って伝えると、彼女は腕を組んだまま目を伏せて「……ああいうことをする輩が、私は一番嫌いなんだ。それだけだ」とぽそりと言った。雰囲気は怖いけれど、あと男性には厳しいけれど、もしかしてこの人は、そこまで悪い人ではないのかもしれない。そんなことを思いながら、再び頭を下げようか迷っていると、どんっ!と横から乱数がいきなりぶつかってきて、「ひっ!?」と情けない声が漏れる。
そんな私をよそに、乱数はぎゅうぎゅうと私の腕に抱きつきながら、牽制するようにジト目で彼女のことを見上げた。
「ひっどーい!無花果オネーサン、僕のこと嫌いなのー?」
「嫌いに決まっているだろう。野蛮なうえに口うるさいお前のことなど」
「うえ〜ん!僕悲しい〜〜麻子ちゃん、慰めて〜?」
「ひ……!?は、離して……!乱数……!」
先ほどの剣幕との大きすぎるギャップと、抱きつかれた感触に鳥肌が立って、振り払おうと腕をじたばたさせる。しかし、乱数はしつこく私の腕に絡みついてきて離れず、必死にもう片方の手で押しのけようとしていると、カツカツと音を立てて、勘解由小路無花果が少し後ろに下がった。
突然何なのだろうと思い、頭にハテナマークを浮かべると、乱数が「まさか……!?」と呟いて、私を庇うようにして後ずさった。しかし、時はもう既に遅く、数人の女性が私を羽交い締めにし、違う数名の女性がヒプノシスマイクのスイッチをオンにする。脳を揺さぶるような激しい振動。まるで何かに殴られているかのような衝撃が私を襲う。
堪らず力が抜け、女性たちに拘束されるがままになってしまう私に、乱数は「麻子……っ!!」と叫んで素早くマイクを取り出したが、大人数が奏でる爆音のリリックによって膝をつく。乱数は顔を歪ませ、全身を震わせながら、「テメェ……!」と鋭い殺気の篭った目で勘解由小路無花果を見上げた。その視線にも臆することはなく、彼女は残酷な笑みを浮かべた。
「お前と、神宮寺寂雷……言の葉党が目をつけた中でも、特に扱いの難しい2人を手玉に取ったという謎の女を、こちらが利用しない手はない。改めて訪問する手間が省けたな」
私は大音量のリリックを受けながらも、ゆっくりと顔を上げて、美しく笑う勘解由小路無花果の方を見る。この人は、いい人なんかじゃなかった。それに、先生が言の葉党に目をつけられているだなんて。そんな、私は殺されてもいいから、先生だけは──。そんなことを、朦朧とする意識の中で考える。乱数も必死にヒプノシスマイクを起動しようとしているようだが、手が震えてスイッチが押せないようだ。乱数が敵わない相手に、私が適うわけない。私は諦めて力を抜き、痺れる手を酷使して両手を挙げ、降参の意を示す。そんな私を見て、「麻子……っ!」と叫んだ乱数だったが、彼ももう抵抗しても意味がないことを悟ったのか、悔しそうに歯噛みしながらも、ゆっくりと両手を挙げた。そんな私たちに勘解由小路無花果は満足そうに笑い、女性たちに「止めろ!」と指示してマイクの音を止めさせる。ようやく止まった暴力的な振動に、がくりと力が抜けて、周りを取り囲む女性たちに全体重を預けることなってしまう。
そして、私は勘解由小路無花果の部下と思われる女性たちに、ほとんど引きずられるようにして外へと運ばれた。そして、黒塗りの大きな車に押し込められ、バタン!とドアを閉められる。乱数が不機嫌そうな顔で後ろに乗り込み、そのまま走り出したかと思うと、勘解由小路無花果が助手席からくるりと振り返り、衝撃の一言を放った。
『お前には、神宮寺寂雷と飴村乱数の人質──そして、これから飴村乱数とともに作るチームの、マネージャーになってもらう』
こうして今に至る、というわけだが。何度思い出しても、全く意味が分からない。そもそも、手玉に取っただなんてとんだ間違いである。乱数には一方的に執着されているだけだし、ましてや先生なんて、恋愛的な気持ちは一切ないというのに。どうして乱数も政府も、そんな勘違いをするのだろうか。男と女が仲良くしていれば、全てがやましい関係に発展するとでも思っているのか。ていうか、寂雷先生と私とでは、かなり歳が離れているんですけど。並んで見比べたら普通に分かると思うんですけど。
そんな意味のない自問自答を繰り返しているうちに、目的地に到着したようだ。乱数が相変わらず棒付きの飴を口に咥えながら、無表情そして無言で外に出る。これはかなりイライラしている顔だ。怖い。ビクビクしながら私も女性たちに連れられて外に出ると、目の前に建っているのは意外にもどこにでもありそうな事務所のような建物だった。勘解由小路無花果は、車から降りるとコツコツとヒールの音を響かせて、私たちの前まで出る。
「ここだ。行くぞ」
彼女とその部下に連れられるがままに、私たちはその建物の中に入ったのであった。