本編
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「麻子……っ会いたかった……麻子……」
乱数の匂い、耳元で聞こえるすすり泣きの声と、力強い腕の感触に、恐怖で体がすくみ上がる。やろうと思えば抵抗だってできるはずなのに、まるで蛇に睨まれたみたいに体がぴくりとも動かない。忘れたつもりでいたのに。克服したつもりでいたのに。こんなにも唐突に現れるなんて。
そんな私をよそに、しばらくすると乱数はハッとしたように私の両肩に手を置いて離れ、にこりと口角を上げて余所行きの笑顔を作った。しかし、その目はまるで氷のような冷たい怒りが渦巻いていて、背筋が凍る。
「……ねえ……麻子。僕がどれだけ心配したか、分かるよね……?」
「……な、なんで、乱数が、ここに……」
「……それは、麻子が僕のお願いをちゃんと聞いてくれたら教えてあげる。ほら見て、これ、苦労して手に入れたんだ……麻子に会いに行くために」
乱数は、私の肩をギリギリと強く握ったまま、胸元のポケットから小さい紙を取り出して、ひらひらと私の目の前に掲げて見せた。
「……っそれって……!!」
「中王区への通行証。これを見たら、さすがの麻子も僕の言いたいこと……理解できるよね?」
中王区への通行証。それは、政府関係者の中でも非常に厳正な審査を受け、余程のことがない限り信頼できると判断された者しか手に入れられない代物だという。SNSで都市伝説的に噂が立ったことはあったが、本当にそんなものがあるだなんて知らなかったし、乱数がそれを持ったうえでここにいるだなんて驚いたなんてもんじゃない。でも、確かに中王区の公式のマークがついているし、その紙は本物の通行証で間違いないのだろう。ということは、乱数は中王区の政府関係者だということだ。
それならば──今度私が乱数に逆らったら、何があるか分からない。あの恐ろしいマイクで、友達や香織さん、先生に危害を加えられるかもしれない。私が殺されるのはいいとしても、もしそんなことがあったら──想像するだけで、恐ろしい。吐き気が込み上げてきそうになる。
「……理解したなら、僕の質問に答えて。あんな医者風情の、どこがよかったの?あんなの、ただ金持ってるだけのジジイじゃん。僕の方が……僕の方が絶対に麻子のことを幸せに出来るのに……」
「……ち……ちがう……寂雷先生とは……乱数が思ってるような関係じゃ……」
「じゃあ、何だっていうわけ?」
乱数が、無表情で私の後頭部を片手で掴みあげる。乱数が本当に怒っているときの顔だ。怖い。怖い。それでも、寂雷先生とは本当に何もないのだから、勝手に嫉妬されたって困るしどうしようもない。
「寂雷先生は……家族みたいに……大事な人……」
「……あははっ、麻子ったら、本っ当に馬鹿だよね。そういうのを、『恋人』っていうんじゃないの?」
「そうじゃないっ……乱数は……私のことなんてなんにも分かってないくせに……っ」
私の言葉に、乱数がわずかにぴくりと眉をひそめた。ヤバい。これは、乱数の何かのスイッチが入った微細な合図なのだ。自分の発言を後悔したのもつかの間、ダンッと背中を壁に押し付けられ、冷たい怒りの篭った眼差しで真正面から見据えられる。
「分かってない?毎日毎日麻子のことばっかり考えてたこの僕が、分かってないって?ふふっ、麻子は僕の知らない間に、嘘ばっかりつくような悪い子になったんだねえ」
悪い子には、お仕置きしなくちゃ、そう言った乱数を止める暇もなく、ブラウスの前をガッと強い力で掴まれ、引き裂かれた。ブチブチッとボタンの糸が切れる音とともに、四方にブラウスのボタンが飛んでいく。私は反射的に「やめて!」と叫んで暴れたが、強く壁に押し付けるが乱数の体が離れることを許してくれない。薄い肌着も破られ、露出した胸の間に顔を埋められる。生暖かくてざらざらとした感触が胸の辺りを這い、ぞわぞわとした感覚がおぞましくて夢中で乱数の頭を向こうに押した。
「やだ……!!やめて!!乱数!!離してっ……!!」
「……んっ、ちゅ、ははっ、これで、麻子は僕のものだって印、ついちゃったね?ねえねえ、神宮寺寂雷とはどこまでいったの?もうセックスはした?」
「だから……違うって言って……!!」
「嘘ばっかりつく子にはお仕置きだって言ったのに、本当に懲りないね?……まあどっちでもいいや。安心して?あんな奴のことなんか忘れちゃうくらい……とびっきりよくしてあげるから」
「……っ!!やだ……っ!!もうやだ、いやだよ……お願い乱数……やめてよっ……!!」
「大丈夫。大人しくしてれば、すぐに気持ちよくなるから……ね?」
そう言って乱数は私の頬にキスをし、私の背中に手を回して器用にブラのホックを外した。胸の締めつけがなくなり、ブラの隙間から乱数の両手が入り込む。嫌だ。嫌だ。嫌だ。こんなところで、また乱数に犯されるだなんて。また、振り出しに戻るだなんて。寂雷先生の顔と、香織さんの顔が頭の中に思い浮かぶ。助けて……誰か……寂雷先生……香織さん……。
「そこまでだ」
凛と響き渡る誰かの声。そして、鼓膜に反響する大音量のリリック。途端に、目の前の乱数が「うっ……」と呻き声を上げて膝をついた。
私はびっくりした。私には何の影響もないのに、乱数だけが胸を押さえて苦しそうにぜえぜえと息を吐いている。
そして、コツコツとこちらへ近づいてくる足音。近づくにつれ、大きくなるラップのミュージック。大量の汗を流し、懐から何かを取り出そうとする乱数。空いた扉から現れる人影。スレンダーな体つきに、確実に獲物を仕留める鷹のような眼差し。大きく空いた胸元に、髪の毛に結ばれた大きなリボン。
乱数はその人影を目に映すと、チッと舌打ちをし、ゾオオ……と背後に怪しげな目玉のようなものを出現させながら、ゆらりと立ち上がってマイクを構えた。
「盗み聞きなんて……趣味が悪いんじゃないの……?……無花果オネーサン」
「……ふん、これだから野蛮な男共は」
その姿は紛れもない、行政監察局局長及び警視庁警視総監、内閣総理大臣補佐官の、勘解由小路無花果だった。もう国民で知らない者は誰もいない、現政権のNo.2。
目の前でその女性 と乱数が見えない火花を散らすのを、私はただ呆けて見ていることしかできなかった。
乱数の匂い、耳元で聞こえるすすり泣きの声と、力強い腕の感触に、恐怖で体がすくみ上がる。やろうと思えば抵抗だってできるはずなのに、まるで蛇に睨まれたみたいに体がぴくりとも動かない。忘れたつもりでいたのに。克服したつもりでいたのに。こんなにも唐突に現れるなんて。
そんな私をよそに、しばらくすると乱数はハッとしたように私の両肩に手を置いて離れ、にこりと口角を上げて余所行きの笑顔を作った。しかし、その目はまるで氷のような冷たい怒りが渦巻いていて、背筋が凍る。
「……ねえ……麻子。僕がどれだけ心配したか、分かるよね……?」
「……な、なんで、乱数が、ここに……」
「……それは、麻子が僕のお願いをちゃんと聞いてくれたら教えてあげる。ほら見て、これ、苦労して手に入れたんだ……麻子に会いに行くために」
乱数は、私の肩をギリギリと強く握ったまま、胸元のポケットから小さい紙を取り出して、ひらひらと私の目の前に掲げて見せた。
「……っそれって……!!」
「中王区への通行証。これを見たら、さすがの麻子も僕の言いたいこと……理解できるよね?」
中王区への通行証。それは、政府関係者の中でも非常に厳正な審査を受け、余程のことがない限り信頼できると判断された者しか手に入れられない代物だという。SNSで都市伝説的に噂が立ったことはあったが、本当にそんなものがあるだなんて知らなかったし、乱数がそれを持ったうえでここにいるだなんて驚いたなんてもんじゃない。でも、確かに中王区の公式のマークがついているし、その紙は本物の通行証で間違いないのだろう。ということは、乱数は中王区の政府関係者だということだ。
それならば──今度私が乱数に逆らったら、何があるか分からない。あの恐ろしいマイクで、友達や香織さん、先生に危害を加えられるかもしれない。私が殺されるのはいいとしても、もしそんなことがあったら──想像するだけで、恐ろしい。吐き気が込み上げてきそうになる。
「……理解したなら、僕の質問に答えて。あんな医者風情の、どこがよかったの?あんなの、ただ金持ってるだけのジジイじゃん。僕の方が……僕の方が絶対に麻子のことを幸せに出来るのに……」
「……ち……ちがう……寂雷先生とは……乱数が思ってるような関係じゃ……」
「じゃあ、何だっていうわけ?」
乱数が、無表情で私の後頭部を片手で掴みあげる。乱数が本当に怒っているときの顔だ。怖い。怖い。それでも、寂雷先生とは本当に何もないのだから、勝手に嫉妬されたって困るしどうしようもない。
「寂雷先生は……家族みたいに……大事な人……」
「……あははっ、麻子ったら、本っ当に馬鹿だよね。そういうのを、『恋人』っていうんじゃないの?」
「そうじゃないっ……乱数は……私のことなんてなんにも分かってないくせに……っ」
私の言葉に、乱数がわずかにぴくりと眉をひそめた。ヤバい。これは、乱数の何かのスイッチが入った微細な合図なのだ。自分の発言を後悔したのもつかの間、ダンッと背中を壁に押し付けられ、冷たい怒りの篭った眼差しで真正面から見据えられる。
「分かってない?毎日毎日麻子のことばっかり考えてたこの僕が、分かってないって?ふふっ、麻子は僕の知らない間に、嘘ばっかりつくような悪い子になったんだねえ」
悪い子には、お仕置きしなくちゃ、そう言った乱数を止める暇もなく、ブラウスの前をガッと強い力で掴まれ、引き裂かれた。ブチブチッとボタンの糸が切れる音とともに、四方にブラウスのボタンが飛んでいく。私は反射的に「やめて!」と叫んで暴れたが、強く壁に押し付けるが乱数の体が離れることを許してくれない。薄い肌着も破られ、露出した胸の間に顔を埋められる。生暖かくてざらざらとした感触が胸の辺りを這い、ぞわぞわとした感覚がおぞましくて夢中で乱数の頭を向こうに押した。
「やだ……!!やめて!!乱数!!離してっ……!!」
「……んっ、ちゅ、ははっ、これで、麻子は僕のものだって印、ついちゃったね?ねえねえ、神宮寺寂雷とはどこまでいったの?もうセックスはした?」
「だから……違うって言って……!!」
「嘘ばっかりつく子にはお仕置きだって言ったのに、本当に懲りないね?……まあどっちでもいいや。安心して?あんな奴のことなんか忘れちゃうくらい……とびっきりよくしてあげるから」
「……っ!!やだ……っ!!もうやだ、いやだよ……お願い乱数……やめてよっ……!!」
「大丈夫。大人しくしてれば、すぐに気持ちよくなるから……ね?」
そう言って乱数は私の頬にキスをし、私の背中に手を回して器用にブラのホックを外した。胸の締めつけがなくなり、ブラの隙間から乱数の両手が入り込む。嫌だ。嫌だ。嫌だ。こんなところで、また乱数に犯されるだなんて。また、振り出しに戻るだなんて。寂雷先生の顔と、香織さんの顔が頭の中に思い浮かぶ。助けて……誰か……寂雷先生……香織さん……。
「そこまでだ」
凛と響き渡る誰かの声。そして、鼓膜に反響する大音量のリリック。途端に、目の前の乱数が「うっ……」と呻き声を上げて膝をついた。
私はびっくりした。私には何の影響もないのに、乱数だけが胸を押さえて苦しそうにぜえぜえと息を吐いている。
そして、コツコツとこちらへ近づいてくる足音。近づくにつれ、大きくなるラップのミュージック。大量の汗を流し、懐から何かを取り出そうとする乱数。空いた扉から現れる人影。スレンダーな体つきに、確実に獲物を仕留める鷹のような眼差し。大きく空いた胸元に、髪の毛に結ばれた大きなリボン。
乱数はその人影を目に映すと、チッと舌打ちをし、ゾオオ……と背後に怪しげな目玉のようなものを出現させながら、ゆらりと立ち上がってマイクを構えた。
「盗み聞きなんて……趣味が悪いんじゃないの……?……無花果オネーサン」
「……ふん、これだから野蛮な男共は」
その姿は紛れもない、行政監察局局長及び警視庁警視総監、内閣総理大臣補佐官の、勘解由小路無花果だった。もう国民で知らない者は誰もいない、現政権のNo.2。
目の前でその