本編
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side飴村乱数
違法な組織に麻子の捜索を頼むためには、もちろん大量の金、もしくはそれに相当する何かしらの対価が必要だった。ただの中学生では、金もその対価も用意することはできないと感じた僕は、まず裏社会でそれなりの地位を手に入れることに尽力した。とはいえ、簡単に搾取される側に回るような、馬鹿な真似はしない。この持ち前のコミュニケーション能力を使って、年上の「オネーサン」を中心に、様々な人間を手玉に取り、情報を集めていった。
それと並行して、僕は将来のためにデザインを専門に勉強する学校に入り、高校生にして個人ブランドを開設した。たくさんの人脈を手に入れ、表にも裏にも広く通じるようになった僕は、ついに麻子の居場所を特定することに成功し、苦労してその身辺を調べあげた。しかし、それによって判明した事実に、僕は愕然とすることになる。
「誘拐……じゃ、ない……だと……?」
隠し撮りされた写真に写っていたのは、楽しげな顔で看護師の女と話している姿。そして、天才医師と呼ばれる『神宮寺寂雷』に頭を撫でられ、恥ずかしそうに微笑んでいる顔。明らかにそれは、誘拐犯と被害者の間柄で見せるような表情ではなかった。僕が彼女への想いを募らせていくにつれて、見せてもらえなくなった、心から安心した表情。
僕は、手に取った写真をぐしゃり、と握りつぶす。なんで。なんでこんな医者風情なんかに、麻子を取られなきゃいけないんだ。きっと何かの間違いに違いない。そうだ。麻子は人の言葉に騙されやすいから、こいつに何か言われてそれに靡いてしまったんだ。僕が彼女を初めて抱いた時もそうだった。きっとそうに違いない──。僕はバクバクと鳴る心臓を落ち着けながら、同封されていた調査結果の紙の束を手に取って、一枚一枚目を通す。しかしその中には、僕の信じ難い事実ばかりがずらりと並べてあって、麻子が僕のことを綺麗さっぱり忘れていた証拠ばかりが書いてあって、吐きそうになった。これを書いたのは、僕が本当に信用している、裏社会でも名の知れた情報屋だ。間違えるだなんてありえない。結果は明白だった。
彼女は、僕の元から自分の意思で逃げ出し、シンジュクで神宮寺寂雷に保護された。そして、今は新宿中央病院で受付のアルバイトをしながら、篠原香織という看護師とともに寮で暮らしている。これが調査結果。紛れもない事実。
震えが止まらなかった。今にも叫び出してしまいそうだった。目の奥から熱いものが込み上げてきて、ぐしゃぐしゃになった写真にぽつぽつとしみをつける。息ができなくて、腕に力が入らなくて、僕はそのまま机に倒れ伏した。スタンドライトだけついた真っ暗な部屋の中で、机の端に置かれている麻子の寝顔の写真が目に入る。額縁に囲われたそれを見ていると、彼女の笑顔、泣き顔、匂い、肌の感触──様々なことが思い出されて、堪えきれず頬には涙が一筋流れ落ちた。
「麻子……なんで……?」
僕は君がいないと生きていけない。なのに、君は僕がいなくても平気で、むしろ前よりも幸せそうに生活していて。じゃあ、僕が麻子を探して、胸がはちきれそうなほどに心配した今までの日々は、いったい何だったのか。全部、自己満足だったというのか。僕が君のことを好きなだけで、君は全くそんなことは望んでいなくて。勝手に気持ちを押し付けて、君はそれに耐えられなくなって。
──ああ、そうだ。最初から、分かっていたことだ。この僕が、そんなこと、分からないわけなかったじゃないか。
「僕は…………僕は…………俺は…………」
僕は、机に突っ伏したまま、涙を止められないまま、頭がねじ切れそうなほどに考えた。それでも、胸を張って彼女の前に現れられるような言い訳は、もう見つかりそうになかった。
違法な組織に麻子の捜索を頼むためには、もちろん大量の金、もしくはそれに相当する何かしらの対価が必要だった。ただの中学生では、金もその対価も用意することはできないと感じた僕は、まず裏社会でそれなりの地位を手に入れることに尽力した。とはいえ、簡単に搾取される側に回るような、馬鹿な真似はしない。この持ち前のコミュニケーション能力を使って、年上の「オネーサン」を中心に、様々な人間を手玉に取り、情報を集めていった。
それと並行して、僕は将来のためにデザインを専門に勉強する学校に入り、高校生にして個人ブランドを開設した。たくさんの人脈を手に入れ、表にも裏にも広く通じるようになった僕は、ついに麻子の居場所を特定することに成功し、苦労してその身辺を調べあげた。しかし、それによって判明した事実に、僕は愕然とすることになる。
「誘拐……じゃ、ない……だと……?」
隠し撮りされた写真に写っていたのは、楽しげな顔で看護師の女と話している姿。そして、天才医師と呼ばれる『神宮寺寂雷』に頭を撫でられ、恥ずかしそうに微笑んでいる顔。明らかにそれは、誘拐犯と被害者の間柄で見せるような表情ではなかった。僕が彼女への想いを募らせていくにつれて、見せてもらえなくなった、心から安心した表情。
僕は、手に取った写真をぐしゃり、と握りつぶす。なんで。なんでこんな医者風情なんかに、麻子を取られなきゃいけないんだ。きっと何かの間違いに違いない。そうだ。麻子は人の言葉に騙されやすいから、こいつに何か言われてそれに靡いてしまったんだ。僕が彼女を初めて抱いた時もそうだった。きっとそうに違いない──。僕はバクバクと鳴る心臓を落ち着けながら、同封されていた調査結果の紙の束を手に取って、一枚一枚目を通す。しかしその中には、僕の信じ難い事実ばかりがずらりと並べてあって、麻子が僕のことを綺麗さっぱり忘れていた証拠ばかりが書いてあって、吐きそうになった。これを書いたのは、僕が本当に信用している、裏社会でも名の知れた情報屋だ。間違えるだなんてありえない。結果は明白だった。
彼女は、僕の元から自分の意思で逃げ出し、シンジュクで神宮寺寂雷に保護された。そして、今は新宿中央病院で受付のアルバイトをしながら、篠原香織という看護師とともに寮で暮らしている。これが調査結果。紛れもない事実。
震えが止まらなかった。今にも叫び出してしまいそうだった。目の奥から熱いものが込み上げてきて、ぐしゃぐしゃになった写真にぽつぽつとしみをつける。息ができなくて、腕に力が入らなくて、僕はそのまま机に倒れ伏した。スタンドライトだけついた真っ暗な部屋の中で、机の端に置かれている麻子の寝顔の写真が目に入る。額縁に囲われたそれを見ていると、彼女の笑顔、泣き顔、匂い、肌の感触──様々なことが思い出されて、堪えきれず頬には涙が一筋流れ落ちた。
「麻子……なんで……?」
僕は君がいないと生きていけない。なのに、君は僕がいなくても平気で、むしろ前よりも幸せそうに生活していて。じゃあ、僕が麻子を探して、胸がはちきれそうなほどに心配した今までの日々は、いったい何だったのか。全部、自己満足だったというのか。僕が君のことを好きなだけで、君は全くそんなことは望んでいなくて。勝手に気持ちを押し付けて、君はそれに耐えられなくなって。
──ああ、そうだ。最初から、分かっていたことだ。この僕が、そんなこと、分からないわけなかったじゃないか。
「僕は…………僕は…………俺は…………」
僕は、机に突っ伏したまま、涙を止められないまま、頭がねじ切れそうなほどに考えた。それでも、胸を張って彼女の前に現れられるような言い訳は、もう見つかりそうになかった。