本編
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side湊川麻子
こうして、私はしばらく寂雷先生の病院に入院し、ある程度動けるようになってからは、特別にアルバイトの事務員として病院で働かせてもらえることとなった。そして、そのバイト代を家賃と生活費に補填し、足りない分は香織さんに養ってもらい、生活を共にした。最初、これでは香織さんに大きな負担がかかってしまうのでは、と心配して聞いてみたのだが、本人はいつもの笑顔でひらひらと手を振って、
「いいのいいの!逆に、あんまりお金かけてあげられなくてごめんね。本当はまだ遊びたいでしょうに。たまにならどこか連れてってあげるから、それで我慢してね」
と言うので私はそんなの申し訳ないと答えたのだが、その日さっそくスイーツの食べ放題に連れていかれて、思わず遠慮してしまう私に、香織さんは痺れを切らしてあのバカップルの代名詞「あーん♡」を強要してきた。仕方なくスイーツを皿に盛り始めると、香織さんは「やっぱり若い子はこうでなくっちゃね〜!」と言ってにこにこしていた。何が楽しいのかよく分からないけど、とりあえず香織さんは本当にいい人である。
そして、病院でまともに働けるようになった頃にはもう、私は中学校を卒業して、晴れて合格した高校に通う歳になっていた。私は通信制の高校に通いながら、病院のアルバイトをして香織さんの負担を減らそうと頑張った。そして、次第に看護師を夢見るようになった私は、奨学金で看護大学に入れるように勉強した。高校とアルバイト、そして受験勉強の三つを両立させるのはかなり大変だったけれど、先生と香織さんのサポートのおかげで何とか大学に合格し、高校も卒業することができた。合格を伝えたときの、香織さんの号泣、先生の嬉しそうな顔。本当に忘れられない。2人には本当に感謝してもしきれないと思いつつ、いつかその恩を返すためにと、大学に入ってからも私は勉強に勤しんだ。真面目にやっていたおかげで難なく大学を卒業でき、看護師資格の試験にも受かり、先生の病院で正式に看護師として採用されて、順風満帆──その間、不思議なことに乱数は一切私の前に姿を現さなかった。乱数との記憶が色濃く残っている私も、たまに似ている男性に怯えてしまうだけで、正直忘れていることの方が多かった。きっと、乱数も昔のことだと思って、忘れているのだろう。そうに違いない。そう思って、すっかり乱数とのことは遠い記憶として収められ始めていた、22歳の誕生日の前日のことだった。
『《言の葉党》がH法の施行を宣言いたします!』
『世界は女性によって新生する!』
けたたましく鳴るサイレン、党首だという女性の手に握られているマイク、断末魔を上げて倒れる、現内閣総理大臣。
この放送によって、世界の全てが変わった。女性が上に立ち、男性を見下ろす社会と成り果てた。そして──あの恐ろしいマイクによって、私の恩人と因縁の相手が、奇妙な縁で結ばれることとなったのだ。
まだ社会の傍観者だった私は、まだその奇妙な縁に気づくはずもなく。運命の歯車は、私と寂雷先生、そして乱数さえ巻き込んで、容赦なく動き始めていた。
こうして、私はしばらく寂雷先生の病院に入院し、ある程度動けるようになってからは、特別にアルバイトの事務員として病院で働かせてもらえることとなった。そして、そのバイト代を家賃と生活費に補填し、足りない分は香織さんに養ってもらい、生活を共にした。最初、これでは香織さんに大きな負担がかかってしまうのでは、と心配して聞いてみたのだが、本人はいつもの笑顔でひらひらと手を振って、
「いいのいいの!逆に、あんまりお金かけてあげられなくてごめんね。本当はまだ遊びたいでしょうに。たまにならどこか連れてってあげるから、それで我慢してね」
と言うので私はそんなの申し訳ないと答えたのだが、その日さっそくスイーツの食べ放題に連れていかれて、思わず遠慮してしまう私に、香織さんは痺れを切らしてあのバカップルの代名詞「あーん♡」を強要してきた。仕方なくスイーツを皿に盛り始めると、香織さんは「やっぱり若い子はこうでなくっちゃね〜!」と言ってにこにこしていた。何が楽しいのかよく分からないけど、とりあえず香織さんは本当にいい人である。
そして、病院でまともに働けるようになった頃にはもう、私は中学校を卒業して、晴れて合格した高校に通う歳になっていた。私は通信制の高校に通いながら、病院のアルバイトをして香織さんの負担を減らそうと頑張った。そして、次第に看護師を夢見るようになった私は、奨学金で看護大学に入れるように勉強した。高校とアルバイト、そして受験勉強の三つを両立させるのはかなり大変だったけれど、先生と香織さんのサポートのおかげで何とか大学に合格し、高校も卒業することができた。合格を伝えたときの、香織さんの号泣、先生の嬉しそうな顔。本当に忘れられない。2人には本当に感謝してもしきれないと思いつつ、いつかその恩を返すためにと、大学に入ってからも私は勉強に勤しんだ。真面目にやっていたおかげで難なく大学を卒業でき、看護師資格の試験にも受かり、先生の病院で正式に看護師として採用されて、順風満帆──その間、不思議なことに乱数は一切私の前に姿を現さなかった。乱数との記憶が色濃く残っている私も、たまに似ている男性に怯えてしまうだけで、正直忘れていることの方が多かった。きっと、乱数も昔のことだと思って、忘れているのだろう。そうに違いない。そう思って、すっかり乱数とのことは遠い記憶として収められ始めていた、22歳の誕生日の前日のことだった。
『《言の葉党》がH法の施行を宣言いたします!』
『世界は女性によって新生する!』
けたたましく鳴るサイレン、党首だという女性の手に握られているマイク、断末魔を上げて倒れる、現内閣総理大臣。
この放送によって、世界の全てが変わった。女性が上に立ち、男性を見下ろす社会と成り果てた。そして──あの恐ろしいマイクによって、私の恩人と因縁の相手が、奇妙な縁で結ばれることとなったのだ。
まだ社会の傍観者だった私は、まだその奇妙な縁に気づくはずもなく。運命の歯車は、私と寂雷先生、そして乱数さえ巻き込んで、容赦なく動き始めていた。