long time no see!
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「ちゃんと自分の足で歩けよ姉貴」
肩を貸すと、まるっきり自分の足で歩かずに体重をかけてくる。
重くはないけど、重心が定まらず歩きにくい。
「歩いてるってえ」
「俺が歩きづらいんだよ!オイ、鍵は?」
「鍵…あるよぉ…ポケットん中…」
そう言いながらまったく別のハンドバッグをゴソゴソを探す姉貴にあきれながら、彼女の上着のポケットに手を入れ、鍵を探してやる。
待っていたら一生家には入れそうにない。
「?ねーぞ?こっちか?」
反対側のポケットに手を突っ込むと、姉貴がくすくす笑いながら身体をよじらせる。
「くすぐったいってぇ花~」
「ば、馬鹿動くな。」
倒れそうになるのを支えながら、やっとのことで鍵を見つけると、二度目になる彼女の部屋のドアを開けた。
なんとなく、昔嗅いだ姉貴の実家の匂いを思い出す。
自分自身も実家に帰ってきたような、懐かしい匂いだ。
そこに今、姉貴の使っている香水だかシャンプーだかのいい匂いが混ざって、大人な香りにすこしクラクラする。
シングルベッドの上に姉貴を寝かせると、やはりそのままの体勢で動かなくなってしまった。
完全に眠っている。
「なにがまだ飲むーだよ。ただの酔っ払いじゃねーか。」
(もう帰ろう…。つーかボール、コートに置いたままだったな。)
そんなことを考えながらベッドを離れようとすると、ふと腰のあたりに気配を感じた。
見るとTシャツのすそを、彼女にガッチリつかまれている。
離そうとするも、その手はなかなか開かない。
しびれを切らし、少々大きめの声で言ってやる。
「姉貴、俺もう帰るぞ。オイ…」
「加々見さん…」
寝言のようなつぶやきでいきなり、知らない名前を呼ばれて驚く。
(カガミさん?誰だ?)
そういえば、とリョーちんの言っていた言葉が思い出される。
『そりゃあまあ、大学生なんだし彼氏とかいたりするだろ?』
(ああ、多分カガミってのがコイツの彼氏なんだろう。)
すると姉貴は本当は意識があるのかのように、言葉を続ける。
「いかないで…」
今にも泣き出しそうに言うから、俺は一瞬たじろいだ。
俺の事を完全に、その彼氏かなにかと勘違いしているらしい。
寝言を聞くなんて、あまり気分のいいものではない。盗み聞きをしているみたいだ。
「…姉貴ー。俺、帰るからな!」
再度おなじセリフを耳元で大きめに言うが、まったく手を離す様子がない。
先ほどまで寝言を言っていた姉貴は、今はおだやかな顔ですっかり寝息を立てている。
「…。」
今更になって、こんなに酔っている人間を一人にしておくのも、なんとなく危険な気がしてきた。
玄関先で倒れていた昔のオヤジのことが、脳裏によぎる。
それならもういっそ、起きるまでここにいた方が安全なのではないだろうか、とも思う。
「ぬぅ…。ったく仕方ないな、明日の朝シャワー貸せよ!」
起こすのを諦めて、勢いよく姉貴の隣に横たわる。
その衝撃でスプリングがゆれ、彼女の身体も一瞬跳ねた。
さすがに今日は汗を流して寝たかったのだけれど…と思うも、今の姉貴を起こすのも忍びなくて、ぐっと我慢する。
酒と汗とシャンプーの匂いが混ざって、妙に落ち着かない。
(っていうか、今この状況でその「カガミ」ってやつが入ってきたりしたら…
俺どうなるんだ?!
絶対ゴカイされるし、下手したら…修羅場!!!
高校1年にして、浮気だの何だのってゴタゴタに巻き込まれるのか?!俺!)
喧嘩なら負けるわけないが…姉貴の彼氏に殴り返すわけにもいかないだろう。
姉貴が釈明してくれればいいが、こんなに泥酔していてはそれも厳しそうだ。
(つーかそもそも、なんでこんなに酔ってんだよ。コイツはよ…)
こんなになるまで酔うなんて、なにか嫌なことでもあったのだろうかと、つい邪推してしまう。
そんな日こそ、カガミという奴のところに行けばいいではないか、とも。
もし自分に出くわさなかったら、家までたどり着けず、そこらへんの道ばたで朝まで寝ていたのでは無いかと不安になる。
のんきに寝息を立てる姉貴に視線を移してみる。
長いまつげが時折ぴくりと動く。
毛穴ひとつも見つからないきれいな肌。
濃いめのリップは、俺がさっき運ぶときにこすれたのだろうか、唇よりもはみ出して少しにじんでいた。
すべてがきちんと整った顔の中で、そこだけが崩れていることに違和感を感じ、好奇心ではみ出したところを擦ってみる。
その顔に触れたとき、姉貴の肌の柔らかさに驚いた。
(…っつーか俺、女の顔とか触ったことねーぞ。
こんなに柔らかいのかよ…しかも、こんなに熱くて…)
今まで姉弟か何かだと思って接してきた姉貴が急に女らしく見えてくる。
気づくと衝動的に、その唇に触れていた。
起こさないようにそっと触ると、彼女の息が指にかかり、一瞬で正気に戻される。
酔った姉貴の吐息は、とても熱い。
「!?」
驚いて、手を離す。
姉貴は寝息をたてたまま、すっかり熟睡しているみたいだ。
「これは…かなりやばくねぇか?」
コイツはこのシャツを放す気配もないし、この状況で朝まで過ごすと考えると…
いきなり心臓がバグバグと音を立てだし、うるさく鼓膜に響く。
顔も熱いし、手にはじんわり汗を感じる。
そういえば昔、洋平が貸してくれたエロビデオの中に、こんなシチュエーションのものがあった気がする、といらない記憶までも掘り起こされる。
(っばか、そんなもん今思い出すな!!)
直接触れているわけではないのに、近くにいるだけなのに、姉貴の体温が伝わるようでじりじりと熱い。
(くっそ、洋平のやつ、次会ったらコロス…!!)
うるさいほど鳴り響く心臓の音の中、俺はとにかく考えるのをやめようとした。