long time no see!
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翔陽との試合の後。
疲れているにも関わらず、なんとなくじっとしていられなくて俺はコートに足を運んでいた。
学校の体育館にいくと、がっちり鍵が閉まっていた。
もう時間も遅かったし、さすがに開けたままということもないよな、と納得し、住宅街の一角にあるいつものコートに向かう。
会場の更衣室で爆睡し、さらには帰りの電車でも爆睡した俺は目が冴えてしまい、あたりが暗くなってもまだまだ運動できそうなコンディションだった。
電車内でも引き続きゴリの肩にもたれて寝ていたら、無意識によだれを垂らしていたらしく駅に降りてめちゃくちゃ怒られた。
当然げんこつも食らった…。
―…今日の試合で、自分の決めたダンクシュート。
そして退場するとき、背中に感じた歓声を、未だに忘れることが出来なかった。
頭で考えるより先に身体が動く、という感覚をはじめて知った。
(…やっぱり俺は天才だな。)
練習などしなくても、このくらいのことはまたすぐに出来てしまうだろうけど、今、あの感覚が残っている内に、もう少し身体に焼き付けておきたいと思ったのだ。
そしてハルコさんにもすごく褒められたのが、何より嬉しかった。
『やっぱり桜木君は天才よ!
リバウンドもすごかったし、あの花形さんを押さえてダンクも決めちゃうし。』
そう言いながら目をキラキラさせて見上げる彼女は可愛くて、つい大きな口をたたいてしまった。
『当たり前ですよハルコさん!俺はハルコさんが見抜いた、真の天才っすから!』
そこまで言ったからには、また同じような状況でゴールできなくては。
「ルカワなんかよりもかっこいいところをみせて、ハルコさんの恋は恋ではなくただの憧れだということに気づかせるのだ。」
夢中で何度もボールを投げる。
今日の相手の動きを思い出しながら、チームの動きを想像しながら。
「ほっ!」
そこにチームメイトがいる、という想定のはずが、つい本当にボールを投げてしまった。
誰もいないコートでは、むなしくボールが転がっていくはずだったのだけれど…
目線の先には、薄暗い中に立ち尽くしたまま、俺の投げたボールを手に持った姉貴がいた。
「うわっ!びっくりした!!」
いるはずのない存在に驚き、途中で姉貴だと気づいてもつい叫んでしまう。
(まったく足音とか気配がしなかったぞ、アサシンかよこの女は…。)
「おい、なんでここに居るんだよ。しかもこんな夜遅くに一人で…」
しかしうつむいたままの姉貴はボールを持ったまま動かない。
いつもと違う様子に、戸惑う。
「おーい。姉貴?姉貴だろ?なんかしゃべれって。」
「…」
「おい、あね…」
「よーーーー!花じゃあん!
何してんのぉ、こんな時間にバスケなんてぇー!!」
うつむいた顔を上げたかと思うといきなり陽気になり、満面の笑みで肩をばしばし叩いてくる。
夜も12時近いというのに、辺り一面に大きな声が響いた。
夜風にふわっと香るのは、酒の匂いだ。
「姉貴酔ってんの?酒くせえぞ。」
「酔ってないー。まだ飲むんだからぁ。」
焦点の合わない目で俺を見つめながら、右手に下げられたビニール袋をみせる。
ほれほれ、と顔の前でゆらす袋の中には、ビールや缶チューハイが何本か入っていた。
(おいおい、この女は…こんだけ酔ってまだ飲むつもりか。)
「じゃーね、花。」
眠たそうに手を振り、千鳥足でフラフラと歩き出す姉貴の後ろ姿をみて、俺は今日の秘密特訓の終わりを悟る。
大きくため息をつき、彼女の後を追った。