long time no see!
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俺は、2度目のA大に来ていた。
よく考えたら今日は休日だ。
勢いで来てしまったが、カガミは大学にいるのだろうか。
俺はカガミの情報を、ここの教授だということしか知らない。
建物を外からみると、ちらほらと明かりの灯った部屋がある。
休日でも来ているヤツがいるらしい。
(…張るか。)
幸いこの大学は、出口は一つだ。
車で帰るにしても、駐車場に行くためにこの出口を必ず通るはずだ。
出口付近の石段に腰掛けて、ひたすらに待つ。
終電も近いからか、10分に1組くらいのペースで、人が通り過ぎる。
学生のような者もいたし、先生のような者もいた。
その一人一人の顔を確認していると、見覚えのある長身が通り過ぎようとする。
イヤな野郎というのは、暗くてもオーラですぐにわかってしまうものだ。
「…オイ、元気だったか?」
暗闇から赤髪の男が現れ、声を掛ける。
カガミをビビらせるには十分だったようだ。
一瞬たじろぎ、俺を見やる。
「…ああ、あの高校生くんか。
髪型が変わって気づかなかったよ。
にしても、以前とはずいぶん違った態度のような気がするけど?」
「おう、テメーに払う敬意は一切ねぇからな。
要件だけ言うわ。
…これ以上、美奈子には近づくな。」
「…君には関係ないね。
それを決めるのは彼女だよ。」
あくまで淡々としたカガミに、カッとなりそうな衝動を押さえる。
カガミは続ける。
「僕と美奈子は2年も一緒に居たんだ。
美奈子の弱い部分を、僕は理解してやれるし、美奈子も僕を精神的に頼っていた。
彼女は年下の世話をなんかしてるよりも、誰かに守ってもらわないといけないタイプだと思うんだけどね。
精神的に大人な誰かに…。
…あぁ、でも君には荷が重そうだ。」
俺を見る目は軽蔑に満ちていて、口元は薄ら笑いを浮かべている。
「これからは俺が守る。
そのためにテメーに会いに来た。
…アイツはテメーにたぶん、何回も泣かされた。
だからこれ以上アイツを傷つけることは許さねー。」
「それで?僕を殴るか?
あの制服、湘北高校だっけ。
不良の多い学校みたいだね。きみもそのクチでしょ。」
「…殴りてーけどよ、それはしない。
喧嘩はしないって、美奈子との約束だからな。」
…俺は今まで、すぐカッとなって、誰彼かまわず喧嘩を売ってきた。
そんな俺に、仲間は…特に洋平は、いつもこう言った。
『花道、いっつも後先考えず暴れちまう前に、アタマで解決できる事はそうしろよ。』
洋平は、不要な喧嘩はしない男だ。
言葉ひとつで、相手を追い返してしまう事もある。
要は、モノは言いようということらしい。
「カガミ、これ以上
これが今できる、俺の喧嘩だ。」
ポケットに入れた、クシャクシャの手紙を開いて、見せる。
暗闇の中でも、その手紙がカガミの書いたものだと理解するのに、そう時間はかからなかったようだ。
先ほどの余裕は表情とは違い、今はこわばって見える。
「…なるほど、証拠があるって訳か。
けど、その手紙には差出人がない。
僕が書いたというに証拠はならない…」
『今までの会話、全部録音してるっつったら?』
俺でも、カガミでもない、第三者の声がする。
物陰から、手にビデオカメラを持った洋平が出てきた。
「オッサン、アンタが大学生に手を出して、その上浮気してたってこと、今までの会話で分かっちまうぜ。
…あんまし高校生を舐めない方がいいなァ。」
「…。」
カガミが押し黙る。
洋平の顔は、月明かりに怪しげに照らされている。
少し考え込んだあと、カガミは言った。
「…。わかった。もう彼女には、連絡しない…。」
感情を押し殺すように肩をふるわせ、やがて脱力したように目線を地に落とした。
「おう、それがいいぜ。」
「分かったかカガミ!二度と姿見せんじゃねーぞ!コラ!」
いまの流れだと、最終的に洋平がねじ伏せたみたいで、悔しくなって俺も追撃する。
落胆の表情の中、カガミがチラリと俺を見る。
「…姉貴、ってさっきも呼んでたけど。
せいぜい、かわいい弟分から昇格することだね。」
口元だけでふっと笑い、カガミは姿を消した。
何この状況で笑ってやがんだ。と、ふんと鼻を鳴らす。
「にしても洋平、イイトコロ全部かっさらっていきやがって。」
「ハハッ。俺がいてよかったろ?
ったく、こんな休日の夜中に呼び出しやがって。今度飯おごれよー。」
悪態をついたが、正直洋平が証拠を録画してくれていて助かったと思った。
俺一人では、この状況は想定していなかったからだ。
結果的に、美奈子とカガミのことを洋平にバラす形になってしまったが…。
…にしても、最後にカガミが吐いたセリフが妙にひっかかる。
『可愛い弟分』…。
俺はちゃんと、美奈子に男としてみられているのだろうか。
美奈子のためといってカガミを遠ざけたが、本当のところはカガミのような大人の男に、美奈子を取られてしまうことが怖かったのかもしれない。
守るだ何だと言っておきながら、ひどく自己中心的だなと自嘲ぎみに笑った。