long time no see!
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「おい花道ー!オネーサンとはどうなわけ?最近。」
昼休み。
購買でおかずパンを大量に買ってきた高宮が、訪ねる。
「どうっつっても…特には…。
いつも一緒に飯食ってー。
休みの日はそのへんブラブラしたりしてー。
たまにバスケの練習してー。」
「いやそんなんじゃなくて、お前らのアッチがどうなってんのかが知りたいんだよ!」
こういう話をいの一番でしたがるのは、大楠だ。
洋平もチュウも、きかせろと言わんばかりに期待の目を寄せてくる。
「そんなんお前らに話すわけないだろ!」
「あ、赤くなった。」
「こりゃ進展なしだな。
キスすらしてるか危うい反応だ。」
「なんだよ、つまらん。」
「…お前らなあ、俺をまたひまつぶしの標的にしやがって…。」
そういうお前らは何かないのかよ!と吠えてみるも、俺へのイジりは中学からの流れなので、逆らえそうにもない。
「本当のとこどうなの?
オネーサンは多分、花道より経験豊富だろ?」
ニヒルな笑みを浮かべながら、洋平が訪ねる。
こいつは俺らが知らないだけで、多分一番モテる。
この手の話は、一番できる相手だろう。
「ソレが問題なんだよなあ…」
「つまり、自信なくて手が出せねー…、と?」
「んな…!バッ…!!
俺はどんな事でも常に、じ、自信満々だっ!」
強がってみるも、
「…これは自信ないな。」
「強がってるな…。」
全員がコソコソと、声を潜める。
「うるせーなさっきから!!
…つーか、お前らなら俺の恋愛遍歴、知ってんだろ…。」
先ほどの勢いもむなしく、声がしぼむ。
「見た目の割に恋愛初心者だからな。」
図星を食らったので、急に気分が落ちてきた。
ムスッとしてそっぽを向く。
「…それに、1ヶ月は何もすんなっておあずけ食らってんだよ。」
「んでも、もうすぐ1ヶ月経つじゃねーか。」
「…。」
そうだ。
もうすぐ、美奈子と付き合って1ヶ月が経つ。
たしかに自分の気持ちを抑えてきた部分もあったが、いざ美奈子とそういう雰囲気になると考えると、緊張してしまって自信がない。
美奈子は人並みに恋愛経験もありそうだし、それで何か粗相があって嫌われたりしたら…
逆に、1ヶ月過ぎても何もなかったら、ビビってると思われるんじゃないか…。
ここ最近は、こんな事ばかり考えてしまう。
考えてもモヤモヤは晴れず、短く切った頭をわしゃわしゃと掻いた。
「まあ、とりあえずがんばれよ、花道!」
俺の不安な気持ちとは対照的に、洋平は楽しそうにガッツポーズをした。
今日は久々に、試合も練習もない完全な休日だ。
美奈子のバイトが午前中で終わるので、俺はそれにあわせて街に出た。
海の見える海岸線沿いを自転車で進む。
風は気持ちいいが、もう7月。止まると暑さにやられそうになる。
美奈子の働くスポーツ用品店は、商店街の中にある。
同じ商店街の本屋で立ち読みをしていると、気になる見出しの雑誌をみつけた。
【―女性の求める 大人の男 特集―】
男性向けのファッション雑誌のようだが、ページをめくると、
具体的にどんな男がモテるのかとか、女から実際きいた体験談とか、思ったよりも参考になる内容が載っていた。
「…なに?デートの時にカレが、ホテルに入りたいのが見え見えな態度で冷めちゃいました…
理想はおうちデートの時に自然な流れ!…か、な、なるほど…。」
すっかり熟読していると、ぽんぽんと優しく肩を叩く手があった。
考えるまでもなく、それはただ1人。
美奈子だ。
「やっほ、花おまたせ。」
「ぬぉお!お、お疲れサマ。」
「何読んでんの?」
「いや、別にふつーの雑誌!!行こうぜ!!」
「え?う、うん。」
さっと背中に雑誌を隠し、後ろも見ずに適当に棚に戻す。
そのまま、美奈子の背中を強引に押して本屋を出た。
「花、こっちとこっちならどっちがいい?」
雑貨屋をみている美奈子の手には、陶器製で大きめのマグカップと、ステンレス製のマグカップが2つ握られている。
「そーだなあ。俺はコッチがスキ。」
「ステンレス製だね。了解!これ、花がウチに来た時用のコップにするよ。」
「えっ、買ってくれんのか?!」
「うん、バイト代出たしね!」
こんなやりとりをしていると、一緒に住んでいるようで心がじわりと温かくなる。
実際にそうではないにしても、美奈子の家に自分の物が置かれるというのは、なんだか独占欲が満たされるようでうれしい。
「じゃあ、俺んち来たとき用のコップも、美奈子が選んでくれよ。」
「え?いいの?花いっつも100円玉くらいしか持ってないじゃん。」
「昨日パチンコで勝った。」
自慢げに笑って見せると、もう…と困り笑いを浮かべながらも、
「じゃーお言葉に甘えて、」
と、桜の描かれたピンク色のマグカップをひとつ選んだ。
あっという間に窓の外はオレンジに染まっている。
海に映る夕日は、はじめてこの街に越してきた時の記憶を想起させる。
俺の自転車のうしろに美奈子を乗せて、俺たちの住む街へとペダルを漕ぐ。
「今日、暑いからそうめん食べよう。この後ウチおいでよ。」
「おう、行く!まだどっか寄るとこあるか?」
「ううん、材料あるからそのまま帰ろっか。」
いつもの自然な流れて、美奈子の家に行くことになった。
…が、これはもしかしてチャンスなのではないか?
美奈子との関係を進展させるための…。
半日街でデートして、お互いのためのマグカップを買って、2ケツして帰る…。
かなりいい雰囲気のデートだったはずだ。
(桜木花道、男を見せるときが来た…かも)
小さくガッツポーズをすると、ペダルに込める力も強くなった。