long time no see!
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年下の彼氏が出来た。
加々見さんと別れてすぐだったから、花を傷つけそうで怖くて、すごくすごく迷ったけど…
花の真剣でまっすぐな好意は心地がよくて、つい自然にOKしてしまった。
花は不思議だ。
バカ正直で、策略なんて何もありそうにないのに、なぜか最後にはペースを持って行ってしまう。
試合を見ていても、彼はそういう雰囲気をもった人だということがよく分かった。
高校生の彼を本気で好きになるなんて、もし友達に言ったら呆れられてしまうかもしれない。
そう思って、最初はこの気持ちに気づかないでいようと思ったけど、無理だった。
花はもう小学生の花ではなく、どこからどうみてもちゃんと男の子だった。
それも、とても素敵な男の子だ。
小6で離ればなれになった時には、こんな未来は想像もしていなかったなぁ。
本当に、人の縁って不思議なモノだ。
私達を再び結んだものは、やっぱりバスケットだったのかなとも思う。
お付き合いが始まってからも変わらずわたし達は、気軽にお互いの家を行き来したり、花がバイト先に遊びに来てくれたり、試合を見に行ったり。
試合の時に、晴子ちゃんや強面のお友達とも仲良くなった。
みんな、
「花道にカノジョができるとは…」
と最初は悔しがっていたけど、幸せそうな花をみてどことなくうれしそうだった。
で、私達の関係はというと…。
「花、今日はもう帰るね。明日までにやんなきゃいけない課題があるの。」
「え、もー帰んの?」
私のバイトや用事がないとき以外は、一緒にごはんを食べるのが恒例となっている。
片付けを終え、ベッドによりかかってテレビを見ていたのだが、バッグを持って立ち上がる。
その手をぐいっと掴まれて、体制が崩れる。
「ひゃ、」
驚いたのもつかの間、ちゅっと短いキスが落とされる。
「じ、じゃなーな!」
何度もしている触れるだけのキスだが、まだお互いに気恥ずかしい。
それは多分、花が必要以上に照れているからだと思う。
前に洋平君に、
”あいつは見た目の割に内向的だから、オネーサンがリードしてやってよ。”
と言われたことがあった。
たしかに、赤い髪に染めている人らしからぬ純情ぶりで、そのアンバランスさが愛おしい。
(いつもは可愛いんだけど、スイッチ入ったら結構強引な時あるんだよなあ…。)
花はわたしが以前言った「1ヶ月ルール」を、律儀に守っているようだった。
(もうすぐ1ヶ月経つよなあ…。
わたし、なんで1ヶ月なんて言っちゃったんだろう…。
わざわざ期限を切らなくても、曖昧にしておけばいいのに…!
あーほんとにバカだぁ…。)
花とはずっと家族のような関係だったから、一線を越えることがこんなにも気恥ずかしいとは想像もしなかった。
(花は…どう思ってるんだろう。
そろそろとか思ってるのかなあ…。)
そんなことを考えながら夜道を歩くと、気づけば自宅に着いていた。
玄関の靴をそろえた矢先、無機質な電子音が部屋中に響き渡る。
家の固定電話が鳴っていることに気づくまでは、すこし時間がかかった。
体が飛び上がるほど驚いたが、タイミング的に花かもしれない。
(なにか忘れ物したかな…、)
「もしもし?」
軽めのトーンで出ると、受話器の向こうの声は想像とは異なる人物だった。
『もしもし、美奈子?』
低くて落ち着いた声。
この声をわたしは、よく知っている。
「加々見さん…?」
何を言えばいいのかわからず、思わず口ごもる。
別れてから、加々見さんと会うのは避けていた。
もちろん、連絡もなかった。
『美奈子、元気にしてた?』
「うん…。加々見さんは?」
『僕は…普通だよ。
…美奈子、ゼミの異動届を出したって言うのは、本当?』
そう。
わたしはこれ以上、加々見さんと関わるのが気まずくて、ゼミを変更することにしていた。
今までのような、教授と学生の関係にも戻れるとは思わなかったし、なにより花に心配をかけたくなかったのもある。
「うん…。
やりたいことが変わったの。」
『そうか。…たぶん近々受理されると思うよ。』
「そう…。よかった。」
数秒の沈黙の後、加々見さんは少し息を吸ったあと、切り出した。
『美奈子、今度ゆっくり会って話したい。』
加々見さんらしくない言葉に戸惑うも、せいいっぱい冷たく言い放つ。
「…話すこと、わたしはないよ。」
『それでも…顔を見たいんだ。
美奈子、やっぱり君が好きだ。
会えなくなって、それに気づいた。』
何を言っているのだろう。
奥さんがいるのに、わたしにそんなことを言ってのける彼が、今はただただ怖かった。
「奥さんはどうするの?」
『別れるつもりだよ。美奈子がどれだけ大切だったか、今になって思い知ったんだ。』
その言葉は、ただ単にこの状況に酔って発するものではなく、少なくとも本心が混ざっている気もする。
しかし、その言葉を鵜呑みにしてヨリを戻すくらいなら、わたしはあの日加々見さんと別れたりしなかった。
…それに、今は花がいる。
花がすごく好きだから、わたしの気持ちが揺らぐ事はない。
「わたし、今付き合ってる人がいるから…。
だから加々見さんとはもう会えない。」
『…。
それって赤髪の彼?』
瞬間、全身にビリッと、電流のように緊張が走った。
「なんで…」
ストーカ?見られていた?
そんな思考を遮るように、加々見さんは続ける。
『君と別れた後、赤い髪で学ランを着た子が、大学まで会いに来たんだよ。
…君を探してるって言って。』
あの、江ノ島に行っている間のことだ、と頭の中でつじつまが合う。
『ぶっ殺す。』
と言って立ち上がった花は、加々見さんの顔を知っていたのだ。
『その反応をみると、本当にそうみたいだね。
…言いたくないけど、大学生と高校生っていうのは、かなり危ない関係なんじゃないかな…。』
危ない関係…
頭の中でその単語が反すうされる。
『僕も今は既婚者だけど、君も危ない橋を渡っている。
お互いにWin-Winな関係だと思わない?
…それに、妻とは本当にもう別れるつもりなんだ。
君も彼からは身を引いて、もう一度僕とやり直さないか?』
遠回しに、脅されているような気がした。
高校生と付き合うなんて、もし大学内で噂になれば、わたしは常識を欠いた者として見られるかもしれない。
罪悪感がなかったわけではないが、なんとなく言いづらくて、友達にも花のことは黙っていた。
もちろん、加々見さんのことだって言えるはずもなかったのだが…。
『また返事を聞かせてほしい。
研究室で待ってるから。』
ツーツーと、一方的に電話が終了したことを知らせる音が流れる。
わたしは放心して、しばらくその場に立ち尽くしていた。