long time no see!
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自分の部屋に姉貴を入れた俺は、まず明かりをつけた。
なにもないので、とりあえずお茶でも入れようとやかんを火に掛ける。
キョロキョロと部屋の中を見回す姉貴は落ち着かない様子だったが、ようやくベッドの端のほうにちょこんと腰掛けた。
勢いで抱きしめてしまってから、なんと声をかけていいかわからず、まだ言葉を発せずにいる。
考えている内にお湯が沸いてしまい、マグカップに緑茶パックを入れて湯を注いだ。
「わりぃ、うちなんもねぇんだ。あ、カップ麺ならあったかも。」
「いいよ、おなかすいてない。ありがとう。」
姉貴は言いながらカップを手にすると、一口飲んでほっと一息ついた。
「お父さんは?仕事なの?」
「ああ、オヤジは、中学んとき死んだ。心筋梗塞だったって…。
それから俺一人だけ。」
「えっ、そうなの…知らなかった…」
オヤジが死んだのは数年前だし、姉貴は知らないのは当然だ。
だけどおふくろのことを聞いてこないあたり、引っ越しの原因が離婚であり、俺がオヤジについていったという事実を知っているんだろう。
「オヤジが死んだとき、親戚連中がおふくろには連絡してくれたんだ。
けどおふくろは再婚してて、別の家族が居るから俺とは暮らせないらしい。
それでオヤジの保険金もあったし、今はその金で暮らしてる。
このアパートも、親戚名義。」
黙ったまま聞く姉貴に、つとめて明るく話す。
「あ。別に、もう大丈夫だからな?今更思い出して悲しくなったりもしねーから。
姉貴が気にしなくていいっつうか…。」
「そっか…。ごめんね、花が辛いとき、そばにいてあげられなくて。」
「なに言って…。それは俺の台詞だから…。
この前、いやなこと聞いちまってごめん。
答えたくなかっただけなのに、姉貴の返事に腹立てて帰っちまうし…。」
言ってる途中で、自分がガキすぎて恥ずかしくなる。
照れ隠しに、つい姉貴の顔から目を背けてしまう。
「ううん、いいよ。
そうだね、ちょっと答えたくなかっただけ…。」
「だよな。」
「うん…。」
微妙な沈黙が続く。
姉貴は少しだけ考え込んでいたが、決心したかのように前を見据え、口を開いた。
「加々見さんとは、付き合ってたよ。だけどあの日は、まだ別れたばっかりだったから…。」
この言葉は、ある程度予想していた通りだった。
やっぱり恋人だったのか、と心の中でつぶやく。
姉貴は続ける。
「加々見さんは…加々見先生は、大学の先生なの。
私が専攻している学科の准教授。
2年生になって、彼のゼミに入って、研究の手伝いをする助手のような役割をすることが増えてきて…
そのうちに好きになって、付き合うことになったんだよね。」
言いにくい言葉を飲み込むように、温かいお茶に口をつける。
「…だけどさ、彼と会うのはいつも、夜だけだってことに気づいた。
最初は考えないようにしてたし、彼は自分のことをよく話す方じゃなかったから…
私からも聞かなかった。
だけどある日、大学の先輩から教えてもらって知ったの。
彼が既婚者だってこと…。」
目尻に涙を浮かべる姉貴は、少し鼻声になりながらも、はっきりとした口調で言う。
なるほど、以前朝のバスケットコートで会ったとき、姉貴は加々見の所から帰ってきたところだったのか。
よく聞く単語で言えば、『朝帰り』ってヤツだ。
「本当は…気づいてたんだよね。…心のどこかで…。
あの、酔って帰った日、彼に聞いたの。
何か隠してることはない?って…
そうしたら、淡々と話してくれた。
『隠すつもりもないけど、言うつもりもなかった』って言われてさ。
…さすがに傷ついて、そのまま別れを告げて、一人酒に溺れてたって訳。
でも大丈夫!もう吹っ切れたから!」
無理して笑う姉貴は、まだ少し辛そうに見えた。
そしてめずらしく黙って聞いていた俺は、怒りが爆発しそうだった。
(加々見って…やっぱし今日会ったあのヤローじゃねぇか!!!
ただの生徒だのしらねーだの言いやがって!!!
普通元カノが失踪したって聞いたら、もっと取り乱すだろうがよぉ!!!)
メラメラを瞳に炎を点らせる俺は、お茶がひっくり返るほど強く机を叩いた。
「あのヤロウ…!!!ぶっころしてくる」
そう言って立ち上がる俺に、姉貴は慌ててしがみつく。
「大丈夫、もうほんとに何ともないから!
ってか、あのヤロウって顔知らないでしょ?」
「見なくってもわかるんだよ、そーゆー男のツラはよぉ。」
どうどう、と言いながら俺を闘牛かなんかのようになだめる。
深呼吸深呼吸、と促されるままに息を吸っていると、少し怒りが和らいだ。
洋平も姉貴も、俺をなんだと思ってるんだろうか。
「んで、姉貴はどこに行ってたんだよ?
ハルコさんが店の店長から、失踪したって聞いたっつーから、俺…」
「…探してくれてたの?」
こくり、と無言でうなずく。
「ごめん、傷心旅行のつもりで、江ノ島まで…
ふらっと行って帰るつもりが、つい長居しちゃって…」
着替えもなかったからサウナとか転々としてた、と恥ずかしそうに笑う。
「すげぇ心配した。」
「ごめんね。ありがとう。」
「ゆるさん。」
「どうしよう…。どうしたら許してくれるの?」
「…。」
「何でも言って?何でもするから。ね?」
言いながら、本当の弟にでも語りかけるように優しく手を握ってくる。
俺は感情を抑えられなくなって、その手を引いて身体を引き寄せた。
姉貴の小さい身体が、俺の腕の中にすっぽりと はまり込む。
こんな風に誰かを抱きしめるのは今日が初めてで、心臓の音がバクバクと鳴り響く。
絶対に姉貴にも聞こえてると思う。
死にそうなくらい恥ずかしいが、仕方ない。
「あの、花…?」
耳の横で、戸惑うような声が聞こえる。
「なんでもっつうんなら…。
俺と付き合って…ください。」
何度も口にしてきた言葉だが、こんなに緊張した告白が今まであっただろうか。
姉貴相手なのに、なぜか敬語になってしまった。
「俺、姉貴がいなくなったって聞いて、すげー後悔した。
俺のせいでなんかあったんじゃないかって思ったから…。
それは俺の自意識過剰だったけど、探しながら思ったんだよ。
俺、お前から見たらガキかもしんねーけど…
そばにいたいって思った…。」
喉が渇きすぎて、声がうまく出ない。
だめかよ?と最後に絞り出すように付け加える。
心臓の音が大きすぎて姉貴の声が聞こえねぇかも。
全身が心臓になっちまったんじゃないかってくらいに、耳の奥でバクバクとうるさい。
姉貴は少しだけ考え込んで、
「花…それはだめだよ。」
と言った。
「だめって何だよ。イヤだとか、無理だ、ならわかるけど…。
…俺はやっぱりそーゆー対象には見れねーって事?」
「えっと、イヤとか無理とかじゃないんだけど…。
なんていうか花はずっと弟だったし…。
その…。
さすがに高校生と付き合うって言うのは世間的にどうかなと…。」
「世間的にとかは知らん。
俺は姉貴と付き合いたい。」
泳ぐ姉貴の視線をよそに、まっすぐに見つめる。
「そ、その…えっと…」
俺の前で歯切れの悪い返事ばかりを繰り返している姉貴に、ずっと言ってみたかったことを言ってみる。
「美奈子…って呼んでもイイ?」
「え、えぇ!?」
「美奈子…。」
うろたえる姉貴が可愛くて、勢いで顔を近づける。
この前勝手に触った唇に、今度は自分の唇を重ねたくなる。
「…ダメ?」
あと、数センチ。
お互いの呼吸がかかるくらい、近くに姉貴の顔がある。
あの柔らかい唇にふれたら、俺はどうなってしまうのだろう。
目は?つむるべき?どの距離で?
などと考えていると、姉貴が先にぎゅっと目をつむった。
「だ、だ、
ダメーーーーーーーー!!!!!」
ゴチン!と鈍い音をたてて、姉貴の額が俺の額にぶつかる。
姉貴が昔、俺に教えてくれた頭突き技だった。
「っつてぇーーー!」
「おおおお茶ごちそうさま!さよならっ!」
そうまくしたてると姉貴は勢いよく立ち上がってバッグを持ち、そのまま部屋を出て行ってしまった。
取り残された俺は、シンとした部屋で呆然としたままつぶやく。
「…んだよぉ、もしかして俺、フラれた…?」
タンスの上に飾ってある笑顔のオヤジの写真が、今の俺を笑っているように見える。
「くそオヤジ、笑ってんじゃねえよ…いいかげん息子を幸せにしろって。」
すこし腫れた額をこすりながら、ぶつぶつと悪態をついた。
なにもないので、とりあえずお茶でも入れようとやかんを火に掛ける。
キョロキョロと部屋の中を見回す姉貴は落ち着かない様子だったが、ようやくベッドの端のほうにちょこんと腰掛けた。
勢いで抱きしめてしまってから、なんと声をかけていいかわからず、まだ言葉を発せずにいる。
考えている内にお湯が沸いてしまい、マグカップに緑茶パックを入れて湯を注いだ。
「わりぃ、うちなんもねぇんだ。あ、カップ麺ならあったかも。」
「いいよ、おなかすいてない。ありがとう。」
姉貴は言いながらカップを手にすると、一口飲んでほっと一息ついた。
「お父さんは?仕事なの?」
「ああ、オヤジは、中学んとき死んだ。心筋梗塞だったって…。
それから俺一人だけ。」
「えっ、そうなの…知らなかった…」
オヤジが死んだのは数年前だし、姉貴は知らないのは当然だ。
だけどおふくろのことを聞いてこないあたり、引っ越しの原因が離婚であり、俺がオヤジについていったという事実を知っているんだろう。
「オヤジが死んだとき、親戚連中がおふくろには連絡してくれたんだ。
けどおふくろは再婚してて、別の家族が居るから俺とは暮らせないらしい。
それでオヤジの保険金もあったし、今はその金で暮らしてる。
このアパートも、親戚名義。」
黙ったまま聞く姉貴に、つとめて明るく話す。
「あ。別に、もう大丈夫だからな?今更思い出して悲しくなったりもしねーから。
姉貴が気にしなくていいっつうか…。」
「そっか…。ごめんね、花が辛いとき、そばにいてあげられなくて。」
「なに言って…。それは俺の台詞だから…。
この前、いやなこと聞いちまってごめん。
答えたくなかっただけなのに、姉貴の返事に腹立てて帰っちまうし…。」
言ってる途中で、自分がガキすぎて恥ずかしくなる。
照れ隠しに、つい姉貴の顔から目を背けてしまう。
「ううん、いいよ。
そうだね、ちょっと答えたくなかっただけ…。」
「だよな。」
「うん…。」
微妙な沈黙が続く。
姉貴は少しだけ考え込んでいたが、決心したかのように前を見据え、口を開いた。
「加々見さんとは、付き合ってたよ。だけどあの日は、まだ別れたばっかりだったから…。」
この言葉は、ある程度予想していた通りだった。
やっぱり恋人だったのか、と心の中でつぶやく。
姉貴は続ける。
「加々見さんは…加々見先生は、大学の先生なの。
私が専攻している学科の准教授。
2年生になって、彼のゼミに入って、研究の手伝いをする助手のような役割をすることが増えてきて…
そのうちに好きになって、付き合うことになったんだよね。」
言いにくい言葉を飲み込むように、温かいお茶に口をつける。
「…だけどさ、彼と会うのはいつも、夜だけだってことに気づいた。
最初は考えないようにしてたし、彼は自分のことをよく話す方じゃなかったから…
私からも聞かなかった。
だけどある日、大学の先輩から教えてもらって知ったの。
彼が既婚者だってこと…。」
目尻に涙を浮かべる姉貴は、少し鼻声になりながらも、はっきりとした口調で言う。
なるほど、以前朝のバスケットコートで会ったとき、姉貴は加々見の所から帰ってきたところだったのか。
よく聞く単語で言えば、『朝帰り』ってヤツだ。
「本当は…気づいてたんだよね。…心のどこかで…。
あの、酔って帰った日、彼に聞いたの。
何か隠してることはない?って…
そうしたら、淡々と話してくれた。
『隠すつもりもないけど、言うつもりもなかった』って言われてさ。
…さすがに傷ついて、そのまま別れを告げて、一人酒に溺れてたって訳。
でも大丈夫!もう吹っ切れたから!」
無理して笑う姉貴は、まだ少し辛そうに見えた。
そしてめずらしく黙って聞いていた俺は、怒りが爆発しそうだった。
(加々見って…やっぱし今日会ったあのヤローじゃねぇか!!!
ただの生徒だのしらねーだの言いやがって!!!
普通元カノが失踪したって聞いたら、もっと取り乱すだろうがよぉ!!!)
メラメラを瞳に炎を点らせる俺は、お茶がひっくり返るほど強く机を叩いた。
「あのヤロウ…!!!ぶっころしてくる」
そう言って立ち上がる俺に、姉貴は慌ててしがみつく。
「大丈夫、もうほんとに何ともないから!
ってか、あのヤロウって顔知らないでしょ?」
「見なくってもわかるんだよ、そーゆー男のツラはよぉ。」
どうどう、と言いながら俺を闘牛かなんかのようになだめる。
深呼吸深呼吸、と促されるままに息を吸っていると、少し怒りが和らいだ。
洋平も姉貴も、俺をなんだと思ってるんだろうか。
「んで、姉貴はどこに行ってたんだよ?
ハルコさんが店の店長から、失踪したって聞いたっつーから、俺…」
「…探してくれてたの?」
こくり、と無言でうなずく。
「ごめん、傷心旅行のつもりで、江ノ島まで…
ふらっと行って帰るつもりが、つい長居しちゃって…」
着替えもなかったからサウナとか転々としてた、と恥ずかしそうに笑う。
「すげぇ心配した。」
「ごめんね。ありがとう。」
「ゆるさん。」
「どうしよう…。どうしたら許してくれるの?」
「…。」
「何でも言って?何でもするから。ね?」
言いながら、本当の弟にでも語りかけるように優しく手を握ってくる。
俺は感情を抑えられなくなって、その手を引いて身体を引き寄せた。
姉貴の小さい身体が、俺の腕の中にすっぽりと はまり込む。
こんな風に誰かを抱きしめるのは今日が初めてで、心臓の音がバクバクと鳴り響く。
絶対に姉貴にも聞こえてると思う。
死にそうなくらい恥ずかしいが、仕方ない。
「あの、花…?」
耳の横で、戸惑うような声が聞こえる。
「なんでもっつうんなら…。
俺と付き合って…ください。」
何度も口にしてきた言葉だが、こんなに緊張した告白が今まであっただろうか。
姉貴相手なのに、なぜか敬語になってしまった。
「俺、姉貴がいなくなったって聞いて、すげー後悔した。
俺のせいでなんかあったんじゃないかって思ったから…。
それは俺の自意識過剰だったけど、探しながら思ったんだよ。
俺、お前から見たらガキかもしんねーけど…
そばにいたいって思った…。」
喉が渇きすぎて、声がうまく出ない。
だめかよ?と最後に絞り出すように付け加える。
心臓の音が大きすぎて姉貴の声が聞こえねぇかも。
全身が心臓になっちまったんじゃないかってくらいに、耳の奥でバクバクとうるさい。
姉貴は少しだけ考え込んで、
「花…それはだめだよ。」
と言った。
「だめって何だよ。イヤだとか、無理だ、ならわかるけど…。
…俺はやっぱりそーゆー対象には見れねーって事?」
「えっと、イヤとか無理とかじゃないんだけど…。
なんていうか花はずっと弟だったし…。
その…。
さすがに高校生と付き合うって言うのは世間的にどうかなと…。」
「世間的にとかは知らん。
俺は姉貴と付き合いたい。」
泳ぐ姉貴の視線をよそに、まっすぐに見つめる。
「そ、その…えっと…」
俺の前で歯切れの悪い返事ばかりを繰り返している姉貴に、ずっと言ってみたかったことを言ってみる。
「美奈子…って呼んでもイイ?」
「え、えぇ!?」
「美奈子…。」
うろたえる姉貴が可愛くて、勢いで顔を近づける。
この前勝手に触った唇に、今度は自分の唇を重ねたくなる。
「…ダメ?」
あと、数センチ。
お互いの呼吸がかかるくらい、近くに姉貴の顔がある。
あの柔らかい唇にふれたら、俺はどうなってしまうのだろう。
目は?つむるべき?どの距離で?
などと考えていると、姉貴が先にぎゅっと目をつむった。
「だ、だ、
ダメーーーーーーーー!!!!!」
ゴチン!と鈍い音をたてて、姉貴の額が俺の額にぶつかる。
姉貴が昔、俺に教えてくれた頭突き技だった。
「っつてぇーーー!」
「おおおお茶ごちそうさま!さよならっ!」
そうまくしたてると姉貴は勢いよく立ち上がってバッグを持ち、そのまま部屋を出て行ってしまった。
取り残された俺は、シンとした部屋で呆然としたままつぶやく。
「…んだよぉ、もしかして俺、フラれた…?」
タンスの上に飾ってある笑顔のオヤジの写真が、今の俺を笑っているように見える。
「くそオヤジ、笑ってんじゃねえよ…いいかげん息子を幸せにしろって。」
すこし腫れた額をこすりながら、ぶつぶつと悪態をついた。