long time no see!
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
大学から姉貴の住むアパートまでは1時間半くらいかかり、さすがに足が痛い。
一瞬ゴリの顔が思い浮かんだが、一日中走ってたんだから部活をサボったのも免除になるだろうと、謎理論を打ち立てた。
一縷の望みをかけて、アイツのアパートを見に行ったが、やはり部屋に明かりはない。真っ暗のままだ。
「んだよ、帰ってねーのかよ…」
暗闇の中につぶやいた言葉が溶けていく。どこに行ってしまったのだろう。
最後に自分と会ったとき、いやな別れ方になってしまったことがずっと心に引っかかっていた。
(もし俺の態度が原因で、アイツが姿を消しちまったんなら…)
ここ最近、若者の自殺が増えているというニュースをよく耳にする。
駅のホームに飛び降りとか、ビルから落ちるとか…。
そんな嫌な想像が浮かんでは消えていく。
もう、姉貴のあの突き放すような言葉とか、自分が傷つくとかはどうでもいい。
ただアイツに会って、無事を確認したかった。
そして、あの夜に捨て台詞を吐いたことをただ謝りたい。
「姉貴…ごめん」
言葉にすると、泣いてしまいそうだった。
頭の中で、子ども姿の姉貴に叱咤される。
またしても大切な人は、言いたいことも言えないまま去ってしまうのだろうか。
おふくろもいなくなって、オヤジも死んで…
もう失う家族は居ないと思っていたのに。
姉貴に出会って、昔の楽しかったころを思い出して、すこしだけ家族に再会できたような、そんな気がしていたんだ。
だけど…その感情はまるっきり家族に対するそれではなくて…。
俺はガキだけど、初めてアイツを守りたいと思った。
アイツが泣くなら抱きしめてやりたいし、泣かせる奴は逆に泣かせてやりたい。
アイツは大人ぶってるが、たぶん内面は昔のままの姉貴のままだ。
口が悪くて、横暴なくせに、俺が少し意地悪をいうと、傷ついてしゅんとする。
アイツは年下の俺には弱みを見せたくないのかもしれないが、俺はもう小1のころの俺じゃない。
他のヤツよりタッパもあるし、アイツが酔っぱらったら抱えてやれるし、バカ話で笑わせてもやれる。
…今の俺は、アイツの弱いところも全部受け止めてやれるはずだ。
考えながらただ歩いていると、気づけば自分の住むアパートに行き着いていた。
無意識に歩いていてもたどり着けるほど、身体に染みついてしまった帰り道。
あの引っ越しからずっと、俺は古いこのアパートに住み続けている。
道すがら鍵をさがしてポケットに手を突っ込んでいると、またしても見覚えのあるハンドバッグが、暗闇の中にキラリと光って見えた。
「アネ、キ…?」
「花…」
みると、最後に別れたときと同じ服装の姉貴が、俺の部屋のドア前にしゃがみ込んでいる。
「花、ごめんわたし…」
彼女がなにか言い切るより前に、俺は姉貴を抱きしめていた。
「花、痛いよ…」
言われても、力が入ってしまう。
安心して、涙は出なかったがその代わりに鼻水が出た。
ぐず、と音を立てると、俺が泣いたと思ったのか姉貴は優しい声で言った。
「なくなよ、花。」
そうして俺の頭をふわふわと撫でた。