long time no see!
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その大学についたのは湘北高校を出てから1時間後くらいだった。
初めて入る大学内は広すぎて、ひとつひとつの部屋を探していたら数日かかりそうな規模だ。
そして俺はその中で、姉貴がどこで何を勉強しているのかも、なにも知らないでいる。
とにかくすれ違う人を引き留めては、
「高橋美奈子って人、知らねぇか?!」
と聞きまくった。
学ランにリーゼントの俺を見ると、みな怪訝そうな表情をみせたが、最後には親切に答えてくれた。
知らない、どこの学部がわからないと探しようがない、と何人にも言われたが、
一人の学生が「教務課ってところで訪ねてみたら?」と教えてくれた。
そこは大学の事務的なことを請け負っている場所らしい。
なにか教えてもらえるかもしれない。
「きょうむか…か。サンキューなメガネくん!!」
つい先輩のメガネ君に似ていたその学生に、いつもの調子で答えてしまう。
走り出す俺に、そのメガネの大学生は困りながら、
「教務課は反対だよ。」
と教えてくれた。
教務課をたずねてみたものの、結局個人情報は教えられないので、
大学側からも連絡してみます、という無難な回答しか得られなかった。
ただわかったのは、ここ数日は学校の講義にも出席していないということだ。
仲のいいダチの名前でも分かれば…とも思ったが、そこまではさすがに教務課も把握していないらしい。
大学からは、『分かり次第連絡する。』と言われたので、自分の家の電話番号を教えておいた。
しかたなく帰ろうかと歩みをすすめたとき、数人の学生グループから聞き覚えのある名前が聞こえ、足を止めた。
「加々見教授!!」
加々見と呼ばれたその男は、長身で足が長く、小顔で、モデルのような体型だった。
姉貴の言っていた最近流行の髪型っていうのは、この男のような長髪なのかもしれない。
(教授…ってことはセンコーって事だよな?)
女子学生たち数人に囲まれた加々見は、彼女たちの質問に淡々と答えていた。
しかし彼女らの甲高い声は、質問というよりもただ単に加々見と話したいだけ、といった雰囲気だった。
「質問が終わったなら、僕は行きますね。」
「はあーい!ありがとうございましたぁー!」
加々見はニコニコとするタイプではないらしく、涼しげな表情を浮かべている。
だが俺の姿を見つけると、瞬時に眉にしわを寄せた。
(そうか、俺制服のままなんだった。)
浮いているのも承知の上だ。
目が合ったので、迷う間もなく俺は加々見に話しかけていた。
「あの、カガミさん…っすか?」
「…えっと、どこの高校生かな?」
いきなり名前を呼ばれて驚いた様子だったが、どこかで会ったことがあるかを真剣に思い出しているようだった。
「あっ、えっと…俺、人を探してんすよ。
高橋美奈子っていう人なんスけど…」
その名前を口にすると一瞬、加々見の目元がぴくりと動く。
その反応に、俺は期待を寄せる。
「…高橋美奈子…ああ、知ってるよ。
僕のゼミの生徒だ。」
「本当か!?よかった!!
あね…そいつが今、どこにいるかとか知らないっすか?!
どっか旅行に行くとか、そう聞いたりとか…」
言いかけて、やめた。
姉貴にとっては加々美センコーなのに、なんで姉貴は先生と呼ばず
「加々見さん」
と呼ぶんだろうか?
そしてなぜ、泣きそうな声でコイツの名前を呼び、
「行かないで」と俺のシャツをつかむんだ?
何かが繋がりそうな気がして考え込む俺に、加々見はもの静かなトーンで言う。
「たしかに美奈子さんは、うちの学生だけど…
彼女がいまどこに居るかなんて、そこまでは知らないな。
…ただ、数日間無断で欠席しているとは聞いてるけどね。」
話を一方的に断ち切り、そのまま足早に去ろうとする加々見に、俺は続けた。
「本当にそうか?
姉貴を泣かせるようなことは… 本当になにもねーのか?」
「君は…弟さんかな?泣かせるようなこと、というのが何なのか、見当がつかないね。」
そしてはぁ、と短いため息を吐き、
「彼女はただの学生だよ。僕が彼女個人について知っていることは、一切ない。」
そう強めの口調で言い残して、振り返らずに歩き出した。
「…そうか。」
一瞬ヘンなことを考えたが、加々見の態度は淡々としているし、本当に知らないのだろう。
それならこれ以上、姉貴のプライベートなことを訪ねても時間の無駄だ、と思った。
俺は何を勘ぐっていたんだろうか…。
結局、無駄足に終わってしまったA大を後にし、来た道を今度は歩いて戻ることにした。