long time no see!
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それから3,4日経ってからだろうか。
意外な人の口から姉貴の名前を聞いたのは。
俺は宣言どおり、姉貴のことを考えないようにしていた。
…しかし人間、忘れようと思えば思うほど考えてしまうものだと、つくづく思い知らされた。
それをかき消すために、わりと真面目にバスケに打ち込んで、仲間とくだらない話で笑ったりして…
そうしている間だけは姉貴の事を思い出さずに済んだ。
ぼーっとしている時間があると、不意に姉貴の最後の言葉がリフレインされる。
『花には関係ない。』
心の底から軽蔑するように冷たかった言葉。
そのたびに胸が冷たくなる感覚がしたが、それも今だけで、きっと少しずつ和らいでいくものだろうと分かっている。
オヤジが死んだときのことを思い出しても、今はもう当時ほど傷つかないことを理解しているからだ。
午後のホームルームが終わり部活までの時間、洋平達と喋っていた時だった。
別のクラスのハルコさんが、めずらしく俺の教室までやってきた。
「お、晴子ちゃん!」
と、洋平達が瞬時に華やぎ手招きする。
「ハルコさん!どうしたんっすか?」
「桜木君、ちょっと話が…」
いつになく困り顔のハルコさんは、人けのない非常階段まで俺1人を連れ出した。
そしておもむろに、「桜木君には言った方がいいと思ったんだけどね。」と口を開く。
「この前一緒にいったスポーツ用品のお店があったじゃない?
わたし、お兄ちゃんのプレゼントを買いに、昨日行ってきたの。」
なにを言われるのだろう、と一瞬身構える。
ハルコさんの真剣な表情をみると、姉貴が自分のことを何か言ったのだろうか、とか、瞬間的にいろいろなことを考えてしまったからだ。
ハルコさんは続ける。
「半分は、美奈子さんに会いに行ったっていうのもあったんだけど、お店で見当たらなかったから店長さんに聞いてみたの。
そうしたら美奈子さん、ここのところ出勤してなくて、行方がわからないって…。
家の電話にも出ないし、心配でアパートを訪ねたけど留守なんだって。」
「…え?」
「無断欠勤とかするタイプじゃないから、店長さんも心配だっていってて…
って、え、桜木君?!」
ハルコさんの言葉を聞くなり、俺は夢中で走り出していた。
鞄も教室に置きっぱなしだったが、そんなことはどうでも良かった。
姉貴…
まただ。
頭に中で、アイツが悲しげに目を伏せる。
いつもは消えてくれ、と願うのに、今は消えないでくれと願った。
アイツが悲しそうにする理由は何なのか…。
もしかして、俺が無意識にアイツを傷つけてしまったのだろうか?
それもこれも、会って確かめないと何も始まらない。
だけど目的なく走り出した俺は、姉貴の行きそうな所なんてわかるはずもない。
「そうだ、A大…」
ぽつりとつぶやく。
姉貴が以前、今通っている大学の名前を教えてくれたことがあった。
そのくらいしか、姉貴が今いそうな場所で思いつくところがない。
そのA大に行こうと、駅に向かって走り出すが、その道中で財布も鞄も何もかも教室に置いてきてしまったことを思い出した。
「ああ、クソ!俺のバカヤロー!」
俺はA大までの距離は考えないようにして、とにかく無我夢中で走り出した。