long time no see!
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少し汗ばむような蒸し暑い日曜日の午後。
ハルコさんとやってきたスポーツ用品店で、ふいに知らない女に名前を呼ばれた。
「今桜木くんて呼ばれてたけど…あなた、もしかして桜木花道?」
ここに来るのは初めてだが、服装からすると店員のようだ。
センター分けの前髪に、ふんわりとカールした焦げ茶の髪型。
見た目からして自分よりも年上だとわかる。
アーモンドのような目に、長いまつげがどこかミステリアスな顔立ち。
誰だよアンタ…
と口をついて言いかけた瞬間、無意識に言葉につまる。
あの大きな目…見覚えがある気がする…。
「あ…えと…」
指さして思い出そうとするも、記憶に邪魔されてなかなか出てこない。
すると彼女は少しだけ寂しげな目をして、床に視線を落とす。
「…忘れちゃったかな。」
この仕草だ。俺のなかに残る、どこか懐かしくて大人っぽさを感じる、そんな感覚は。
「あ、姉貴か…?昔、隣に住んでた、あの…?」
「うん、そうよ。キミがほんとほんとに、あの花なの?」
おそるおそる尋ねると、寂しげだった顔が一気に子どものようにほころんだ。
美奈子…
俺は姉貴と呼んでいたが(というか呼ばされていたが)、名字までは知らない。
とても幼いころに、俺自身の引っ越しが原因で別れたからだ。
しかし幼馴染とも言えるほど仲の良かった彼女は、一目ではわからないほどに大人っぽくなっていた。
「オイ、まじかよ。まじであの姉貴なんか?この美人が…?」
信じられず、彼女のまわりをぐるぐる回りながら眺めてみる。
しかしさっきのうつむく仕草。
あの大きな瞳に影の落ちる瞬間。
気が強く、男友達のようだった美奈子がその表情をみせるたび、幼かった俺は彼女に放った暴言やいたずらを、とても後悔したを思い出す。
「それはこっちの台詞よ!
あの花が赤髪?リーゼント?もしかして…もう高校生!?ひゃー!わたしも年取るわけだあ。」
彼女のくだけた口調は、長い間会っていなかったその時間をあっさりと飛び越えてしまうほどに自然だった。
どう接するべきかを考える暇もなく、一瞬で昔のような関係性に引き戻される。
「にしてもその頭…あはは。小学校上がるまではずっと丸刈りだったのにねぇ。」
「っるせえ!!今の俺は泣く子も黙る桜木花道サマなんだよぉ!」
子どもの頃をハルコさんの前で話され、照れくささからつい悪態をついてしまうが、こういうやりとりすらもなんだか懐かしい。
「あのぅ…。もしかして、桜木君のお姉さんですか?」
黙ったまま見ていたハルコさんが、かしこまった様子でたずねる。
すっかり彼女を蚊帳の外にしてしまっていたようだ。
「い、いや、えーっと!
ハルコさん、この人、昔隣の家に住んでた人なんすよ。
俺が7歳んとき引っ越したから、それっきり会ってなかったんすけど。」
「わたし、高橋美奈子といいます。
花とは小6の時まで隣に住んでて…
あ、わたし花の5つ上なの。だからわたしのこと、姉貴って呼ぶのよ。」
「ちげえって、姉貴が無理やり呼ばせたんだって…」
ぼそぼそとつぶやくが、美奈子はそれを聞かなかったことにして話を続ける。
「ハルコちゃんって、花の彼女?すごく可愛いじゃない。」
「いや、あははは!やっぱそー見える!?」
「あ、いいえ!私はただのお友達なんです。
桜木君はうちの高校でバスケットしてて、私の兄と同じチームなんですよ。」
「ハルコさん、そんなにさらっと否定しなくても…」
「え?花、今バスケやってるの?!」
落ち込む俺を無視したまま、美奈子が急に目を輝かせた。
店長と思わしき男がちらりとこちらを見るのが視界に入った。
「おお!こー見えても湘北の天才バスケットマン桜木って呼ばれてんだぜ!
そしてこのハルコさんが、その才能を見抜いたのだよ!!」
「ほんとに!?すごい!
実は、私も中高とバスケしてたんだ!!
離れても同じスポーツをしていたなんて、なんだかすごい偶然よね。」
大学生になり今はバスケから遠のいているが、スポーツが好きでこの店でアルバイトをしているらしい。
今の姉貴はおとなしそうに見えるが、バスケの話になると目をキラキラと輝かせた。
本当にバスケが好きなんだな、と俺もうれしくなる。
まさか幼いころに分かれた美奈子と再会するなんて、それに同じスポーツをやっていたなんて。
大好きなハルコさんが教えてくれたバスケが、幼馴染との縁も結んでくれた。
そのことを考えると、店内に置かれた無数のボールを眺めるたけでも、胸が熱くなった。
「花、ハルコちゃん、買い物ならまたうちにおいでよ。サービスするからさ!」
「本当ですか?ありがとうございます!!
…あ、桜木君! お兄ちゃんとの練習の約束まで、あと15分しかないよ。」
店内の時計をみると、思ったよりも時間が経っている。
近くのバスケットコートで、ゴリと待ち合わせをしているのをすっかり忘れるところだった。
「あっ、ヤベ…。また殴られる…!ハルコさん、早く行きましょう!
んじゃ、姉貴!またな!」
「あ、うん、気をつけてね!」
気づけば自然と、「またな」という言葉を選んでいた。
予定があったせいで慌ただしく別れてしまったが、美奈子とはもう少し話をしていたいと思った。
というのも、美奈子は、俺の母親ととても仲が良く、なんとなく雰囲気が似ていたからだ。
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