baby doll【桜木】
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3学期のはじめ。
偶然知り合った桜木くんと、お付き合いしはじめて数ヶ月が経った。
わたしの前で見せてくれる、あどけない表情、意外にも誠実なところ。
バスケットボールに打ち込む姿。
彼を形成しているそのすべてが大好きで、愛おしくて、わたしは大いにこの現状に満足しているつもりだった。
…そのつもりだったんだけど…。
「ねえ、わたしってそんなに魅力ないかなあ~。」
パックジュースを片手に、机にうなだれる。
対面に座っている友人の麻衣は、わたしのことなんか相手にもせず、袋のお菓子に手を伸ばしている。
お昼休みももうすぐおわりで、わたしも急いでジュースを飲み干さなければならない。
「そんなことないよ。美奈子はカワイイよ。」
「…じゃあなんでかなあ。」
「…あのねえ、いいかげん毎日毎日同じこと聞かないでよ。」
大体、彼氏いないわたしに聞くな!と、彼女はわざとらしく唇をとがらせてみせる。
そんなこと言っても、わたしだって麻衣くらいしか相談できる人がいないのだ。
そう、わたしは今とても悩んでいる。
それは紛れもなく、桜木くんとの関係についてだった。
付き合って2ヶ月ほどが過ぎ、もうすぐ3学期も終わろうとしている。
3月になってもまだ肌寒いこの時期に、わたしの心も寒いままだ。
桜木くんが硬派というか、ちょっと奥手なことには、付き合う前から気づいていた。
だけど、2ヶ月経っても手を繋ぐことすらままならず、当然キスなんて遠い世界のおはなしみたいな状況になっていることを、誰が想像しただろうか。
最初はゆっくりでいいなぁ、なんてホッとしていたけど、ここまでくるとさすがに不安になってくる。
桜木くんは本当のところ、わたしのことをどう思っているんだろう。
わたしがもっと魅力的なら、彼だって…なんて。
自己嫌悪に陥るところまできてしまっている。
だけど自分から手を繋ぐ勇気すらなくて、こうして麻衣に愚痴を聞いてもらう日々が続いていた。
麻衣が辟易するのも、無理はない。
「そんなに気になるなら、桜木くんに直接聞いてみればいいじゃん。」
そう事もなげに、このクールな親友は言う。
わたしはすがりつくような声で、聞き返すことしかできない。
「聞くって…どう聞けばいいの。」
「だーかーら。わたしって魅力ないかな?って、さっきアタシに聞いたみたいにストレートに言っちゃえば。」
麻衣はなんでもストレートに言ってしまう性格だ。
彼女にとっては簡単なことでも、わたしにそんな勇気があるはずもない。
桜木くん本人に聞くなんて、考えただけで頭が沸騰しそうだ。
「う、無理だよ…。そんな恥ずかしいこと言えるわけないじゃん。」
「だけどその恥ずかしいことをしたいんでしょ?桜木くんと。」
「そ、それはそーだけど…。」
反論しようとしたところで、麻衣の視線がチラリと別の場所へ移ったのに気づく。
そしておもしろいものを見つけたとでもいいたげに、その口角をニヤリと上げた。
「で、美奈子は結局ナニがしたいんだっけ?」
「な、なによ急に。」
「アレがしたいんでしょ?ほら練習練習。わたしのこと桜木くんだと思って言ってみ。」
麻衣がいきなりからかいモードになる。
…なんだかイヤな予感がする。
「オレがどーかしたんですか?麻衣さん。」
聞きなじみのある声が背後から聞こえて、わたしの肩はおもしろいくらいに跳ねた。
振り返るとそこには、話題の張本人である桜木くんが立っていた。
両手をポケットに突っ込んで、猫背ぎみにわたしたちを見下ろしている。
「さ、さくらぎく…!」
「なんかオレの名前が聞こえたよーな。」
キッと麻衣の睨むと、小さい声で”惜しい”と呟く。
危うく麻衣のいたずらにひっかかるところだった。危ない危ない。
「なんでもないよ!珍しいね、お昼休みに1組に来るなんて。」
「そーですよね。…ええっと。」
すると申し訳なさそうに頭を掻きながら、桜木くんは言う。
「今日一緒に帰れないって、早めに言っとかないとと思って。」
桜木くんと出会った1月。
毎日、彼の部活が終わるのを待っていたときから、わたしたちの関係はさほど変わってはいなかった。
放課後、部活が終わるのを待って、一緒に下校する。
むしろわたしとしては、待っている間に図書室で勉強できて、一石二鳥だった。
桜木くんの部活終わりに、駐輪場で待ち合わせするのが恒例になっているのだけれど、今日は勝手が違うらしい。
「なにかあったの?」
「あ、イヤ。実はあさっての試合に向けて、部活の後、ちょっとだけ残りたくてですね。」
聞けば試合に向けて自主練習をしたいので、ひとりで体育館に残るというのだ。
すごいなぁ、と感心したように相づちをうつと、
「そんなたいしたモンじゃありませんよ!天才は練習などしませんから!要するに、秘密特訓ってヤツっス!」
と、大げさに弁解するので、思わず笑ってしまった。
「終わるまで待ってようかな。」
「でもあんまり遅くなると、ウチの人心配するでしょーし…。」
桜木くんはなぜかいつも、わたしの家族のことまで気にかけてくれる。
そんな優しいところも、わたしは好きなんだけど…。
「わかった、じゃあ今日は先に帰るね。」
桜木くんの優しさをむげにはできず、言葉通りにするよう告げる。
帰り道に桜木くんがいないのは、久しぶりすぎてなんだかヘンな感じだ。
「あさっての試合が終わったら、またいつもみたいに待っててくれますか…?」
「もちろん。」
そう言うと、光が差したようにぱあっと顔をほころばせて、彼は笑った。
会話のくぎりがついたところで、予鈴が鳴る。
桜木くんは7組まで、戻らなければならない。
じゃあね、と手を振って別れると、そのやりとりをみつめていた麻衣が、なにか言いたげに大きく机を叩いたので、びっくりしてしまった。
「わかった、あんたらの距離が縮まらない原因。桜木くんの敬語だ。」
そのきらりと光った瞳は、まるで往年の名探偵のようだ。
「そうかなあ、桜木くんはあれが一番話しやすいんだよ、きっと。」
「美奈子にも直せるところあるよ?」
「え?」
「下の名前で呼びなよ。そうしたらもっと距離が縮まるんじゃないかな。」
はい、相談料5000円ね。
そう言って差し出された手のひらを軽く叩いて、わたしは自分の席へと戻る。
だけど麻衣の言ったことには一理ある。
桜木くんはあいかわらず敬語のままだし、わたしも名字呼びを変えられずにいる。
…もし、いきなり下の名前なんて呼んだら、彼はどんな反応をするだろうか。
想像しただけで、照れくさくてじんわり頬が熱くなる。
だけど、本音を言えばわたしだって名前で呼びたい。
それに、キスだってしたい。
喋るたび、あの薄くて綺麗な唇が動くのを、わたしはいつも一歩引いたところからみつめている。
彼の唇にふれたら、わたしはどうなってしまうんだろう。
そして、その先だって…。
そこまで考えたところで、ハッと我に返る。
とっくに授業は始まろうとしている。
わたし、ナニ想像してるんだろう…。
欲求不満もここまでくると、ちょっと救いようがない。
少し前までは誰かと付き合うなんて想像もしていなかったのに、今は桜木くんのことを知ってしまって、だんだん欲張りになっている自分がいる。
彼のことをもっと知りたい。
言葉ではなく、彼のぬくもりを、愛し方を知ってみたい。
そう思うのはきっと、普通のことのはずなのに。
…桜木くんは違うのかな。
わたしに触れたいとは思わないのかな。
この俗っぽい悩みが、ここ最近のわたしのほとんどを蝕んでいた。
:
:
「…ああもう、なんでいつもこうなるんだろ。」
暗い夜道。
自転車を走らせながら、つぶやく。
明日が提出期限の課題を、あろうことか学校に忘れたのだ。
そしてそれに気づいたのは、ご飯を食べて、お風呂にはいって、さあ課題をしようかと机に向かったタイミングだった。
時計はすでに22時を指している。
さすがにもう校舎は開いていないかもしれないと思いつつも、望みを捨てきれずにこっそり家を抜けてきた。
麻衣に頼めば、答えを写させてくれるとは思うけど…。
負けず嫌いな性格が、その選択を邪魔している。
こういう要領の悪さが成績に直結していることには、薄々気づいている。
到着した校舎は、やはりどこも真っ暗だった。
職員室をみても、すっかり明かりが消えている。
「さすがにダメかあ。」
先生達もさすがに帰宅しているようで、諦めて引き返そうとしたときだった。
ふと、遠くに見える空がオレンジに発光していることに気づく。
それは体育館の上窓から漏れた明かりのようで、瞬時に桜木くんの顔が脳裏をよぎる。
「まさかね…だってもう22時だよ…?」
言いながらも、その足は期待を持って、早歩きで体育館へと向かっていた。
閉ざされた重い扉をゆっくりと開くと、やはりカギはかかっていない。
明かりの消し忘れではない。まだ誰か残っているのだ。
がらんとした体育館には、いくつかのバスケットボールがそのまま転がっている。
その中でぽつんと1人、寝転がっている後ろ姿は、どこからどうみても桜木くんだった。
しかし3月といっても、夜はまだ寒い。
こんな寒さの中、薄着のまま倒れ込んでいる桜木くんに急に不安がこみあげてきて、乱暴に靴を脱ぎ捨て、足早に駆け寄る。
「桜木くん!?大丈夫?」
なんだかこの光景は、いつかのわたしたちを彷彿とさせる。
自転車で衝突して、道路に投げ出されたまま動かなかった桜木くんを、あの日わたしは死んだと思ったのだ。
あの時とはまた違った様子の彼を、何度か揺さぶると、その閉じられたまぶたがゆっくりと開かれた。
「ん…美奈子さん…?」
「桜木くん、どうしたの?どっか痛いの?」
「え、痛い…?なんの話ッスか。」
上半身を起こして、ごしごしと目を擦る。
そしてすぐに、「寒っ!」といって両腕を抱えた。
それもそのはずだ。
体育館の中でも、そこかしこに冷気を感じる。
「俺、休憩してそのまま寝ちまってたのか…。」
「風邪引いちゃうよ。」
「ダイジョーブです、天才は風邪ひきませんから。」
言った途端に、すんと鼻を鳴らす。
こういうところが危なっかしくて、見ていていつもハラハラさせられてしまう。
「こんな時間まで練習してたの?」
「イヤ、さすがにこの時間まで残ってるつもりはなかったんですけ…ど。」
言いながら、桜木くんの視線が下へと移動する。
その視線を追うと、わたしの手は無意識に桜木くんの膝に置かれていて…。
思わずその手を、はねのける。
慌てて駆け寄ったせいで、いつもより距離が近い。
そのことに今更気がついて、途端にぎこちなくなってしまう。
桜木くんの顔が赤いのがわかる。
それは私も同じで、たぶん似た様に赤面していることだろう。
気まずくなってつづく言葉を探していると、桜木くんがハッとしたように言った。
「そ、それより美奈子さん、なんでココに…!」
思わず時計を確認すると、その針は23時を指そうとしていた。
こんな時間に学校にいるなんて、最長記録なのは確かだ。
「実は課題を忘れて、取りに来たんだけど…校舎締まってたんだよね。」
「え、1人で来たんすか。」
「うん。」
「自転車で?」
「そうだけど…。親にはこんな時間に出るなって言われそうだから、黙って出てきちゃったんだよね。」
そう言ってへらへらと笑ってみるが、桜木くんの表情は曇ったままだ。
てっきり笑ってくれるかと思ったので拍子抜けしてしまう。
「桜木くん?」
様子を伺うように名前を呼んでみると、いきなり強めに肩を掴まれたので、驚いた。
自転車の後ろに乗っているときとは違って、桜木くんの呼吸が近い。
途端に心拍数がはねあがり、わたしは平常心でいられなくなる。
「あ、あの…?」
「美奈子さん、危ないっすよそんなことしたら。」
落ち着かせるように、はあーと大きく呼吸をする。
いつもヘラヘラと笑っている桜木くんの真剣な顔に、戸惑ってしまう。
わたしは弁解するように続ける。
「大丈夫だよ…。自転車だし。」
「でも、夜道でなんかあったら。」
「そうそう可笑しな事件なんて起こらないって。ましてや、わたしだよ?」
安心してもらいたくて、おどけたように言ってみる。
夜道で起こる事件なんてきっと可愛い子限定のはずだ。
それに、自転車に乗っている人をわざわざ襲ったりするだろうか?
犯人に好みというものがあるだろう。
そもそも、自分の魅力にはまるで自信がない。
わたしなんて襲う人はいないよ、と笑いながら言うと、桜木くんの瞳は、困ったように揺れていた。
「なんでそんな自分のこと、ちゃんとわかってないんすか。」
責めるような言葉とは裏腹に、その声色は小さい子に諭すかのように優しかった。
真剣な様子に、先ほどまでの冗談じみた言動は続けられなくなる。
「美奈子さんはその、可愛くて…。いつどっかの暴漢に襲われてもおかしくないほど魅力的なんすよ?だ、だから…。ちゃんと警戒してほしいっつーか。ちゃんと自分が女子ってコトを理解してほしいっつーか…。」
最初は勢いのよかった言葉も、だんだん尻すぼみになっていく。
恥ずかしさを誤魔化すように、指先で頬を触る桜木くんをみつめながらも、つい嬉しさがこみ上げてしまう。
成り行きとはいえ、桜木くんに「可愛い」って…。
昼間、麻衣に言われたことが頭をよぎる。
聞くのなら今しかないかもしれない。
わたしのことをどう思っているのか。…わたしたちの関係をどう思うのかを。
「…さ、桜木くんも、そう思う?」
「へ?」
「さっきわたしのこと、女子…って言ったじゃん。」
「はい、女子って…。」
「それでその、桜木くんも思うのかなって…。襲いたい…とかさ。わたしのこと…。あはは。」
笑ってみるけれど、すぐになんてことを言ってしまったんだという後悔が押し寄せる。
(いや言い方!襲いたいじゃなくて、魅力あるって思うかな?とかさ、もっとオブラートに包んだ言い方あるでしょうよ!!)
頭の中で激しく突っ込む。ああ、なに言われたとおりに聞き返してるのよわたしは…。
面食らったような表情の桜木くんを見ていられなくて、視線は不自然に横へと移動した。
口から出た言葉をもう一度、空気のように吸ってしまえればいいのに、と思う。
だけど言ってしまったものは、もう無かったことにはできない。
こんなのはすべて、夜のテンションという単語に包括して、どこかに投げ捨ててしまいたい。
「ごめん、忘れて!変なこと言った。」
泣きそうになりながら弁解する私の顔は、今まで見せた中で一番情けないものだっただろう。
すると硬直したままの桜木くんが、消え入りそうな声で呟いたのが聞こえる。
「…お、思う。」
「え…、」
「思う…って言ったら、オレのこと、キライになりますか…?」
気まずそうにその視線を、上目遣いにこちらへ向ける。
子犬のように潤んだその目は、わたしが動揺してしまうのには十分すぎるほどだった。
自分から言い出したことなのに、赤い顔でそう問いかける桜木くんに、ドキドキが止まらない。
急に桜木くんが男の子に見えて、みるみる顔が火照っていくのが分かる。
今まで一度も向けられたことがないと思っていた熱っぽい視線が、わたしの平常心を奪っていく。
「だって桜木くん、手も繋いでくれないし。」
「ソ、ソレは…なんかタイミングがわかんなくて。」
「わたし勝手に、自分に魅力がないんだって思ってた。」
「そんな事…!」
「キライになんてなるわけないじゃん、桜木くんのこと、その、好きだから。」
「…ほんとに、ほんとですか?」
するとこほん、と咳払いをして、むりやり落ち着けたような声で彼は言う。
「美奈子さん、キスしてもいーですか。」
その真剣すぎる表情と、あけすけな言葉が面白くて、わたしはつい頬がゆるんでしまった。
「ふふ。」
「む。なんかオカシイっすか。」
「うん、だってソレ、聞かなくってもいいのに。」
「でも一応、許可がないと…。」
やりとりに桜木くんらしさを感じて、いっそう愛おしさが募る。
みんながいう「不良」のイメージとは裏腹に、こういうときにふと出てくる真面目さが、すごく好きだなあと思う。
「…いいよ。」
ドキドキしながら言うと、目の前の唇が近づいて、ツンと軽く当たった。
寄り目になった桜木くんと目が合ったかと思うと、もう一度唇の感覚が襲ってくる。
いつのタイミングで閉じればいいのかわからなかった瞼は、考える暇もなく閉じられて、ただ自分のものではないもう1人の体温をなぞる。
それはとても温かくて、柔らかなものだった。
ただ彼を好きだという気持ちだけが、満ち足りていく。そんな感覚。
長いようで短かったその感覚が離れていくと、桜木くんが頬を緩ませて笑ったので、わたしもつられて笑ってしまった。
次の瞬間、先ほどのムードとは真逆すぎる大きなクシャミが、響き渡る。
「へーっくしゅ!さ、寒い…!!」
両腕をこする桜木くんを見て、わたしも我に返る。
そういえばここは体育館で、外と同じくらい寒くて…。
「ごめん桜木くん、寒かったよね!」
いそいで自分の着ていたコートを脱ごうとすると、
「すぐ着替えてくるんで、待っててください。送りますから!」
そう言って返事も聞かず立ち上がり、大股で部室の方へ向かっていく。
照れくさいのか、後ろ姿を見せたまま、赤い短髪をわしゃわしゃとかいた。
そんな背中を見送りつつも、わたしは先ほどの出来事を思い出してしまう。
「さ、桜木くんとキスしちゃった…!」
言葉にするとよけいに恥ずかしさが襲ってくる。
キスってすごい、と思った。
あんなに気持ちがわからなくて、遠い存在になっていた桜木くんを、今ではとても近くに感じる。
息づかいまで思い出せるほど、近くに。
帰り道、どんな話をすればいいか、頭の中で考える。
お互いに照れてしまって、上手く話せないかもしれない。
だけど今度は、大丈夫な気がする。
ゆっくりだけどきっとわたしたちなら、進んでいけるんじゃないかって。
わたしは彼が好きで、彼もわたしを好きでいてくれている。
その事実がなによりも、今日はっきり確認できたのだから。
…だけど、もう少し、わたしからも積極的になった方がいいのかなあ?
桜木くんが勇気を出してくれたぶん、今度はわたしから勇気を出してみよう。
「よし、今日はわたしから、手を繋ぐぞ…!」
ちいさく決意して、転がったままになっているバスケットボールを手に取り、ぎゅっと胸に抱きしめてみた。
偶然知り合った桜木くんと、お付き合いしはじめて数ヶ月が経った。
わたしの前で見せてくれる、あどけない表情、意外にも誠実なところ。
バスケットボールに打ち込む姿。
彼を形成しているそのすべてが大好きで、愛おしくて、わたしは大いにこの現状に満足しているつもりだった。
…そのつもりだったんだけど…。
「ねえ、わたしってそんなに魅力ないかなあ~。」
パックジュースを片手に、机にうなだれる。
対面に座っている友人の麻衣は、わたしのことなんか相手にもせず、袋のお菓子に手を伸ばしている。
お昼休みももうすぐおわりで、わたしも急いでジュースを飲み干さなければならない。
「そんなことないよ。美奈子はカワイイよ。」
「…じゃあなんでかなあ。」
「…あのねえ、いいかげん毎日毎日同じこと聞かないでよ。」
大体、彼氏いないわたしに聞くな!と、彼女はわざとらしく唇をとがらせてみせる。
そんなこと言っても、わたしだって麻衣くらいしか相談できる人がいないのだ。
そう、わたしは今とても悩んでいる。
それは紛れもなく、桜木くんとの関係についてだった。
付き合って2ヶ月ほどが過ぎ、もうすぐ3学期も終わろうとしている。
3月になってもまだ肌寒いこの時期に、わたしの心も寒いままだ。
桜木くんが硬派というか、ちょっと奥手なことには、付き合う前から気づいていた。
だけど、2ヶ月経っても手を繋ぐことすらままならず、当然キスなんて遠い世界のおはなしみたいな状況になっていることを、誰が想像しただろうか。
最初はゆっくりでいいなぁ、なんてホッとしていたけど、ここまでくるとさすがに不安になってくる。
桜木くんは本当のところ、わたしのことをどう思っているんだろう。
わたしがもっと魅力的なら、彼だって…なんて。
自己嫌悪に陥るところまできてしまっている。
だけど自分から手を繋ぐ勇気すらなくて、こうして麻衣に愚痴を聞いてもらう日々が続いていた。
麻衣が辟易するのも、無理はない。
「そんなに気になるなら、桜木くんに直接聞いてみればいいじゃん。」
そう事もなげに、このクールな親友は言う。
わたしはすがりつくような声で、聞き返すことしかできない。
「聞くって…どう聞けばいいの。」
「だーかーら。わたしって魅力ないかな?って、さっきアタシに聞いたみたいにストレートに言っちゃえば。」
麻衣はなんでもストレートに言ってしまう性格だ。
彼女にとっては簡単なことでも、わたしにそんな勇気があるはずもない。
桜木くん本人に聞くなんて、考えただけで頭が沸騰しそうだ。
「う、無理だよ…。そんな恥ずかしいこと言えるわけないじゃん。」
「だけどその恥ずかしいことをしたいんでしょ?桜木くんと。」
「そ、それはそーだけど…。」
反論しようとしたところで、麻衣の視線がチラリと別の場所へ移ったのに気づく。
そしておもしろいものを見つけたとでもいいたげに、その口角をニヤリと上げた。
「で、美奈子は結局ナニがしたいんだっけ?」
「な、なによ急に。」
「アレがしたいんでしょ?ほら練習練習。わたしのこと桜木くんだと思って言ってみ。」
麻衣がいきなりからかいモードになる。
…なんだかイヤな予感がする。
「オレがどーかしたんですか?麻衣さん。」
聞きなじみのある声が背後から聞こえて、わたしの肩はおもしろいくらいに跳ねた。
振り返るとそこには、話題の張本人である桜木くんが立っていた。
両手をポケットに突っ込んで、猫背ぎみにわたしたちを見下ろしている。
「さ、さくらぎく…!」
「なんかオレの名前が聞こえたよーな。」
キッと麻衣の睨むと、小さい声で”惜しい”と呟く。
危うく麻衣のいたずらにひっかかるところだった。危ない危ない。
「なんでもないよ!珍しいね、お昼休みに1組に来るなんて。」
「そーですよね。…ええっと。」
すると申し訳なさそうに頭を掻きながら、桜木くんは言う。
「今日一緒に帰れないって、早めに言っとかないとと思って。」
桜木くんと出会った1月。
毎日、彼の部活が終わるのを待っていたときから、わたしたちの関係はさほど変わってはいなかった。
放課後、部活が終わるのを待って、一緒に下校する。
むしろわたしとしては、待っている間に図書室で勉強できて、一石二鳥だった。
桜木くんの部活終わりに、駐輪場で待ち合わせするのが恒例になっているのだけれど、今日は勝手が違うらしい。
「なにかあったの?」
「あ、イヤ。実はあさっての試合に向けて、部活の後、ちょっとだけ残りたくてですね。」
聞けば試合に向けて自主練習をしたいので、ひとりで体育館に残るというのだ。
すごいなぁ、と感心したように相づちをうつと、
「そんなたいしたモンじゃありませんよ!天才は練習などしませんから!要するに、秘密特訓ってヤツっス!」
と、大げさに弁解するので、思わず笑ってしまった。
「終わるまで待ってようかな。」
「でもあんまり遅くなると、ウチの人心配するでしょーし…。」
桜木くんはなぜかいつも、わたしの家族のことまで気にかけてくれる。
そんな優しいところも、わたしは好きなんだけど…。
「わかった、じゃあ今日は先に帰るね。」
桜木くんの優しさをむげにはできず、言葉通りにするよう告げる。
帰り道に桜木くんがいないのは、久しぶりすぎてなんだかヘンな感じだ。
「あさっての試合が終わったら、またいつもみたいに待っててくれますか…?」
「もちろん。」
そう言うと、光が差したようにぱあっと顔をほころばせて、彼は笑った。
会話のくぎりがついたところで、予鈴が鳴る。
桜木くんは7組まで、戻らなければならない。
じゃあね、と手を振って別れると、そのやりとりをみつめていた麻衣が、なにか言いたげに大きく机を叩いたので、びっくりしてしまった。
「わかった、あんたらの距離が縮まらない原因。桜木くんの敬語だ。」
そのきらりと光った瞳は、まるで往年の名探偵のようだ。
「そうかなあ、桜木くんはあれが一番話しやすいんだよ、きっと。」
「美奈子にも直せるところあるよ?」
「え?」
「下の名前で呼びなよ。そうしたらもっと距離が縮まるんじゃないかな。」
はい、相談料5000円ね。
そう言って差し出された手のひらを軽く叩いて、わたしは自分の席へと戻る。
だけど麻衣の言ったことには一理ある。
桜木くんはあいかわらず敬語のままだし、わたしも名字呼びを変えられずにいる。
…もし、いきなり下の名前なんて呼んだら、彼はどんな反応をするだろうか。
想像しただけで、照れくさくてじんわり頬が熱くなる。
だけど、本音を言えばわたしだって名前で呼びたい。
それに、キスだってしたい。
喋るたび、あの薄くて綺麗な唇が動くのを、わたしはいつも一歩引いたところからみつめている。
彼の唇にふれたら、わたしはどうなってしまうんだろう。
そして、その先だって…。
そこまで考えたところで、ハッと我に返る。
とっくに授業は始まろうとしている。
わたし、ナニ想像してるんだろう…。
欲求不満もここまでくると、ちょっと救いようがない。
少し前までは誰かと付き合うなんて想像もしていなかったのに、今は桜木くんのことを知ってしまって、だんだん欲張りになっている自分がいる。
彼のことをもっと知りたい。
言葉ではなく、彼のぬくもりを、愛し方を知ってみたい。
そう思うのはきっと、普通のことのはずなのに。
…桜木くんは違うのかな。
わたしに触れたいとは思わないのかな。
この俗っぽい悩みが、ここ最近のわたしのほとんどを蝕んでいた。
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「…ああもう、なんでいつもこうなるんだろ。」
暗い夜道。
自転車を走らせながら、つぶやく。
明日が提出期限の課題を、あろうことか学校に忘れたのだ。
そしてそれに気づいたのは、ご飯を食べて、お風呂にはいって、さあ課題をしようかと机に向かったタイミングだった。
時計はすでに22時を指している。
さすがにもう校舎は開いていないかもしれないと思いつつも、望みを捨てきれずにこっそり家を抜けてきた。
麻衣に頼めば、答えを写させてくれるとは思うけど…。
負けず嫌いな性格が、その選択を邪魔している。
こういう要領の悪さが成績に直結していることには、薄々気づいている。
到着した校舎は、やはりどこも真っ暗だった。
職員室をみても、すっかり明かりが消えている。
「さすがにダメかあ。」
先生達もさすがに帰宅しているようで、諦めて引き返そうとしたときだった。
ふと、遠くに見える空がオレンジに発光していることに気づく。
それは体育館の上窓から漏れた明かりのようで、瞬時に桜木くんの顔が脳裏をよぎる。
「まさかね…だってもう22時だよ…?」
言いながらも、その足は期待を持って、早歩きで体育館へと向かっていた。
閉ざされた重い扉をゆっくりと開くと、やはりカギはかかっていない。
明かりの消し忘れではない。まだ誰か残っているのだ。
がらんとした体育館には、いくつかのバスケットボールがそのまま転がっている。
その中でぽつんと1人、寝転がっている後ろ姿は、どこからどうみても桜木くんだった。
しかし3月といっても、夜はまだ寒い。
こんな寒さの中、薄着のまま倒れ込んでいる桜木くんに急に不安がこみあげてきて、乱暴に靴を脱ぎ捨て、足早に駆け寄る。
「桜木くん!?大丈夫?」
なんだかこの光景は、いつかのわたしたちを彷彿とさせる。
自転車で衝突して、道路に投げ出されたまま動かなかった桜木くんを、あの日わたしは死んだと思ったのだ。
あの時とはまた違った様子の彼を、何度か揺さぶると、その閉じられたまぶたがゆっくりと開かれた。
「ん…美奈子さん…?」
「桜木くん、どうしたの?どっか痛いの?」
「え、痛い…?なんの話ッスか。」
上半身を起こして、ごしごしと目を擦る。
そしてすぐに、「寒っ!」といって両腕を抱えた。
それもそのはずだ。
体育館の中でも、そこかしこに冷気を感じる。
「俺、休憩してそのまま寝ちまってたのか…。」
「風邪引いちゃうよ。」
「ダイジョーブです、天才は風邪ひきませんから。」
言った途端に、すんと鼻を鳴らす。
こういうところが危なっかしくて、見ていていつもハラハラさせられてしまう。
「こんな時間まで練習してたの?」
「イヤ、さすがにこの時間まで残ってるつもりはなかったんですけ…ど。」
言いながら、桜木くんの視線が下へと移動する。
その視線を追うと、わたしの手は無意識に桜木くんの膝に置かれていて…。
思わずその手を、はねのける。
慌てて駆け寄ったせいで、いつもより距離が近い。
そのことに今更気がついて、途端にぎこちなくなってしまう。
桜木くんの顔が赤いのがわかる。
それは私も同じで、たぶん似た様に赤面していることだろう。
気まずくなってつづく言葉を探していると、桜木くんがハッとしたように言った。
「そ、それより美奈子さん、なんでココに…!」
思わず時計を確認すると、その針は23時を指そうとしていた。
こんな時間に学校にいるなんて、最長記録なのは確かだ。
「実は課題を忘れて、取りに来たんだけど…校舎締まってたんだよね。」
「え、1人で来たんすか。」
「うん。」
「自転車で?」
「そうだけど…。親にはこんな時間に出るなって言われそうだから、黙って出てきちゃったんだよね。」
そう言ってへらへらと笑ってみるが、桜木くんの表情は曇ったままだ。
てっきり笑ってくれるかと思ったので拍子抜けしてしまう。
「桜木くん?」
様子を伺うように名前を呼んでみると、いきなり強めに肩を掴まれたので、驚いた。
自転車の後ろに乗っているときとは違って、桜木くんの呼吸が近い。
途端に心拍数がはねあがり、わたしは平常心でいられなくなる。
「あ、あの…?」
「美奈子さん、危ないっすよそんなことしたら。」
落ち着かせるように、はあーと大きく呼吸をする。
いつもヘラヘラと笑っている桜木くんの真剣な顔に、戸惑ってしまう。
わたしは弁解するように続ける。
「大丈夫だよ…。自転車だし。」
「でも、夜道でなんかあったら。」
「そうそう可笑しな事件なんて起こらないって。ましてや、わたしだよ?」
安心してもらいたくて、おどけたように言ってみる。
夜道で起こる事件なんてきっと可愛い子限定のはずだ。
それに、自転車に乗っている人をわざわざ襲ったりするだろうか?
犯人に好みというものがあるだろう。
そもそも、自分の魅力にはまるで自信がない。
わたしなんて襲う人はいないよ、と笑いながら言うと、桜木くんの瞳は、困ったように揺れていた。
「なんでそんな自分のこと、ちゃんとわかってないんすか。」
責めるような言葉とは裏腹に、その声色は小さい子に諭すかのように優しかった。
真剣な様子に、先ほどまでの冗談じみた言動は続けられなくなる。
「美奈子さんはその、可愛くて…。いつどっかの暴漢に襲われてもおかしくないほど魅力的なんすよ?だ、だから…。ちゃんと警戒してほしいっつーか。ちゃんと自分が女子ってコトを理解してほしいっつーか…。」
最初は勢いのよかった言葉も、だんだん尻すぼみになっていく。
恥ずかしさを誤魔化すように、指先で頬を触る桜木くんをみつめながらも、つい嬉しさがこみ上げてしまう。
成り行きとはいえ、桜木くんに「可愛い」って…。
昼間、麻衣に言われたことが頭をよぎる。
聞くのなら今しかないかもしれない。
わたしのことをどう思っているのか。…わたしたちの関係をどう思うのかを。
「…さ、桜木くんも、そう思う?」
「へ?」
「さっきわたしのこと、女子…って言ったじゃん。」
「はい、女子って…。」
「それでその、桜木くんも思うのかなって…。襲いたい…とかさ。わたしのこと…。あはは。」
笑ってみるけれど、すぐになんてことを言ってしまったんだという後悔が押し寄せる。
(いや言い方!襲いたいじゃなくて、魅力あるって思うかな?とかさ、もっとオブラートに包んだ言い方あるでしょうよ!!)
頭の中で激しく突っ込む。ああ、なに言われたとおりに聞き返してるのよわたしは…。
面食らったような表情の桜木くんを見ていられなくて、視線は不自然に横へと移動した。
口から出た言葉をもう一度、空気のように吸ってしまえればいいのに、と思う。
だけど言ってしまったものは、もう無かったことにはできない。
こんなのはすべて、夜のテンションという単語に包括して、どこかに投げ捨ててしまいたい。
「ごめん、忘れて!変なこと言った。」
泣きそうになりながら弁解する私の顔は、今まで見せた中で一番情けないものだっただろう。
すると硬直したままの桜木くんが、消え入りそうな声で呟いたのが聞こえる。
「…お、思う。」
「え…、」
「思う…って言ったら、オレのこと、キライになりますか…?」
気まずそうにその視線を、上目遣いにこちらへ向ける。
子犬のように潤んだその目は、わたしが動揺してしまうのには十分すぎるほどだった。
自分から言い出したことなのに、赤い顔でそう問いかける桜木くんに、ドキドキが止まらない。
急に桜木くんが男の子に見えて、みるみる顔が火照っていくのが分かる。
今まで一度も向けられたことがないと思っていた熱っぽい視線が、わたしの平常心を奪っていく。
「だって桜木くん、手も繋いでくれないし。」
「ソ、ソレは…なんかタイミングがわかんなくて。」
「わたし勝手に、自分に魅力がないんだって思ってた。」
「そんな事…!」
「キライになんてなるわけないじゃん、桜木くんのこと、その、好きだから。」
「…ほんとに、ほんとですか?」
するとこほん、と咳払いをして、むりやり落ち着けたような声で彼は言う。
「美奈子さん、キスしてもいーですか。」
その真剣すぎる表情と、あけすけな言葉が面白くて、わたしはつい頬がゆるんでしまった。
「ふふ。」
「む。なんかオカシイっすか。」
「うん、だってソレ、聞かなくってもいいのに。」
「でも一応、許可がないと…。」
やりとりに桜木くんらしさを感じて、いっそう愛おしさが募る。
みんながいう「不良」のイメージとは裏腹に、こういうときにふと出てくる真面目さが、すごく好きだなあと思う。
「…いいよ。」
ドキドキしながら言うと、目の前の唇が近づいて、ツンと軽く当たった。
寄り目になった桜木くんと目が合ったかと思うと、もう一度唇の感覚が襲ってくる。
いつのタイミングで閉じればいいのかわからなかった瞼は、考える暇もなく閉じられて、ただ自分のものではないもう1人の体温をなぞる。
それはとても温かくて、柔らかなものだった。
ただ彼を好きだという気持ちだけが、満ち足りていく。そんな感覚。
長いようで短かったその感覚が離れていくと、桜木くんが頬を緩ませて笑ったので、わたしもつられて笑ってしまった。
次の瞬間、先ほどのムードとは真逆すぎる大きなクシャミが、響き渡る。
「へーっくしゅ!さ、寒い…!!」
両腕をこする桜木くんを見て、わたしも我に返る。
そういえばここは体育館で、外と同じくらい寒くて…。
「ごめん桜木くん、寒かったよね!」
いそいで自分の着ていたコートを脱ごうとすると、
「すぐ着替えてくるんで、待っててください。送りますから!」
そう言って返事も聞かず立ち上がり、大股で部室の方へ向かっていく。
照れくさいのか、後ろ姿を見せたまま、赤い短髪をわしゃわしゃとかいた。
そんな背中を見送りつつも、わたしは先ほどの出来事を思い出してしまう。
「さ、桜木くんとキスしちゃった…!」
言葉にするとよけいに恥ずかしさが襲ってくる。
キスってすごい、と思った。
あんなに気持ちがわからなくて、遠い存在になっていた桜木くんを、今ではとても近くに感じる。
息づかいまで思い出せるほど、近くに。
帰り道、どんな話をすればいいか、頭の中で考える。
お互いに照れてしまって、上手く話せないかもしれない。
だけど今度は、大丈夫な気がする。
ゆっくりだけどきっとわたしたちなら、進んでいけるんじゃないかって。
わたしは彼が好きで、彼もわたしを好きでいてくれている。
その事実がなによりも、今日はっきり確認できたのだから。
…だけど、もう少し、わたしからも積極的になった方がいいのかなあ?
桜木くんが勇気を出してくれたぶん、今度はわたしから勇気を出してみよう。
「よし、今日はわたしから、手を繋ぐぞ…!」
ちいさく決意して、転がったままになっているバスケットボールを手に取り、ぎゅっと胸に抱きしめてみた。
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