ゆるやかに消えていくブルー【水戸】
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その日の夜はお互いに、同じ部屋の同じベッドで眠りについた。
すぐ隣にいるのに、その手はもう重なることはなくて、少しだけ寂しかったのを覚えている。
何度も何度も、頭の中で、まだ引き返せるんじゃないかって考えた。
結婚なんてしなくても、水戸くんと一緒に居られるのなら、それでいいじゃないか。
そう考える自分と、
やっぱり、将来はちゃんと結婚して子育てをして、両親を安心させたいなって思う自分。
これまで親にはわがままばかり通してきたわたしなのに、こんな時だけ義理を通すなんておかしいかもしれない。
自分にも水戸くんにもどっちつかずな感情に嫌気がさして、結局朝まで眠れなかった。
そんなわたしに、水戸くんは気づいていたかもしれない。
だけど、何も言わずにそばにいてくれたのは、彼の優しさだったのかもしれない。
朝になって、別れ際に言われた。
「無責任なことは言えないけど…やっぱり俺は美奈子に、夢追ってて欲しいよ。」
“好きなこと続けて、頑張ってる美奈子を好きになったから”
そう言ってくれた水戸くんの言葉が忘れられなくて、わたしは結局、実家に帰るという選択肢を捨てた。
絵をかくことも、やめなかった。
知り合いのツテを全部当たって、作品を置いてくれる人を探した。
その結果、2つのギャラリーでわたしの作品を置いてもらえることになった。
一つはあいかわらず県外で。
もう一つは、ネットショッピングを主に、海外とも取引をしているというギャラリーだった。
意外にも作品を置いてもらえる場所が増えたことが嬉しくて、より一層作品作りに精を出した。
こんなに楽しいと思ったことは、まだ純粋に絵を描くことが楽しくて仕方なかった、高校生のころ以来かもしれない。
ペインティングナイフをキャンバスの上に滑らせる瞬間、ふと思い出すのは、水戸くんの顔だった。
あの日以来、約束通り一度も会っていない。
元気でいるだろうか。
気づけばあの同窓会で再会してから、半年ほどが経過していた。
そんなある日だった。
同窓会で10年ぶりに再会した友人から、食事に誘われたのは。
名前は紗希といって、卒業後ずっと独身で仕事をがんばっていた女の子だった。
半年前の同窓会では、仕事が忙しくてつらい、と愚痴をこぼしていたのだが、ついにこの度、結婚することになったのだそうだ。
寿退社、ということらしい。
そしてその相手は、同じ湘北高校出身の男の子だった。
高校卒業後に付き合いだしたところまでは知っていたけど、まだ関係が続いていた事に素直に驚いた。
同窓会の日も、紗希のそばには彼がいたし、なんとなく気づいてはいたのだけれど…。
友達の嬉しそうな報告に、こちらも自然と笑みがこぼれる。
「おめでとう。びっくりしたよ、まさかあの彼と結婚するなんて。」
「ありがとう。…まあ、社会人なってから何度も別れたりしてたんだけどね…結局は収まるとこに収まったって言うか。」
「いいじゃん、気の知れた相手なんだし。彼、わたしからみてもいい人だなって思うよ。」
そう言うと、紗希は少女のように頬を緩ませた。
「ふふ…それでね、今度結婚式があるから、美奈子にも来てほしくて。」
ブランドもののバックからその封筒を取り出すと、わたしの目の前に差し出した。
もちろん断る理由もなくて、二つ返事で出席を決める。
「是非出席させてもらうね。楽しみだなあ、紗希のウエディングドレス!」
「そう言ってもらえて、嬉しいよ。」
紗希とふたりきりで話すのは卒業以来はじめてで、だけどおしゃべりな彼女との会話は、沈黙をつくることもなく気楽だった。
お互いに仕事のことや、恋愛の話、高校の頃の思い出話なんかで盛り上がり、あっという間に時間は過ぎていく。
そんな時、少し緊張したような面持ちで、紗希にしては控えめにこう切り出した。
「美奈子はさ、結婚とか考えてる?」
唐突な質問にふと、半年前に水戸くんと結婚について話したことを思い出す。
この年齢になると、やはり結婚の話題は避けては通れないらしい。
「いずれはしたいけど…相手も居ないし、わたしも好きなことして生きてる状態だしなあ。」
「いいじゃん!実は美奈子に、ぴったりな相手がいるんだけど、どう?会ってみない?」
無邪気な紗希を見て、そういえば学生時代から、こんなふうにキューピッド役をやりたがっていたなあ、と思い出す。
いきなりの申し出に驚いたが、なんでも紗希の職場の男の人で、真剣に結婚相手を探している人がいるらしい。
その彼も結婚式に参加するので、会ってみないか?との事だった。
「二次会にきてくれたら、その時紹介するからさ。」
「でも…わたしなんかでいいのかな。」
「いいよ、むしろ喜ぶって!美奈子は美人だし、美的センスもあるし。」
美的センスがどう交際に影響するのかは謎だったけど、友達からの紹介で、男の人と知り合う…というのはお見合いみたいで、すこし気恥ずかしい。
二の足を踏むわたしを見越してか、強引に誘う紗希の申し出を断れず、結局紹介してもらう事で、この話は落ち着いた。
名前はなんて言ったか、一度聞いたのに忘れてしまった。
とことん興味が持てなくて、そんな自分に笑ってしまう。
紗希と休日のカフェでお茶をした日から、1ヶ月。
平日は掛け持ちしているアルバイトに、夜は作品制作に取り組み、休日は県外のギャラリーまで足をのばす。
そんなめまぐるしい日々を送っているうちに、時間の感覚をなくしていき、気づけば紗希の結婚式当日を迎えていた。
すぐ隣にいるのに、その手はもう重なることはなくて、少しだけ寂しかったのを覚えている。
何度も何度も、頭の中で、まだ引き返せるんじゃないかって考えた。
結婚なんてしなくても、水戸くんと一緒に居られるのなら、それでいいじゃないか。
そう考える自分と、
やっぱり、将来はちゃんと結婚して子育てをして、両親を安心させたいなって思う自分。
これまで親にはわがままばかり通してきたわたしなのに、こんな時だけ義理を通すなんておかしいかもしれない。
自分にも水戸くんにもどっちつかずな感情に嫌気がさして、結局朝まで眠れなかった。
そんなわたしに、水戸くんは気づいていたかもしれない。
だけど、何も言わずにそばにいてくれたのは、彼の優しさだったのかもしれない。
朝になって、別れ際に言われた。
「無責任なことは言えないけど…やっぱり俺は美奈子に、夢追ってて欲しいよ。」
“好きなこと続けて、頑張ってる美奈子を好きになったから”
そう言ってくれた水戸くんの言葉が忘れられなくて、わたしは結局、実家に帰るという選択肢を捨てた。
絵をかくことも、やめなかった。
知り合いのツテを全部当たって、作品を置いてくれる人を探した。
その結果、2つのギャラリーでわたしの作品を置いてもらえることになった。
一つはあいかわらず県外で。
もう一つは、ネットショッピングを主に、海外とも取引をしているというギャラリーだった。
意外にも作品を置いてもらえる場所が増えたことが嬉しくて、より一層作品作りに精を出した。
こんなに楽しいと思ったことは、まだ純粋に絵を描くことが楽しくて仕方なかった、高校生のころ以来かもしれない。
ペインティングナイフをキャンバスの上に滑らせる瞬間、ふと思い出すのは、水戸くんの顔だった。
あの日以来、約束通り一度も会っていない。
元気でいるだろうか。
気づけばあの同窓会で再会してから、半年ほどが経過していた。
そんなある日だった。
同窓会で10年ぶりに再会した友人から、食事に誘われたのは。
名前は紗希といって、卒業後ずっと独身で仕事をがんばっていた女の子だった。
半年前の同窓会では、仕事が忙しくてつらい、と愚痴をこぼしていたのだが、ついにこの度、結婚することになったのだそうだ。
寿退社、ということらしい。
そしてその相手は、同じ湘北高校出身の男の子だった。
高校卒業後に付き合いだしたところまでは知っていたけど、まだ関係が続いていた事に素直に驚いた。
同窓会の日も、紗希のそばには彼がいたし、なんとなく気づいてはいたのだけれど…。
友達の嬉しそうな報告に、こちらも自然と笑みがこぼれる。
「おめでとう。びっくりしたよ、まさかあの彼と結婚するなんて。」
「ありがとう。…まあ、社会人なってから何度も別れたりしてたんだけどね…結局は収まるとこに収まったって言うか。」
「いいじゃん、気の知れた相手なんだし。彼、わたしからみてもいい人だなって思うよ。」
そう言うと、紗希は少女のように頬を緩ませた。
「ふふ…それでね、今度結婚式があるから、美奈子にも来てほしくて。」
ブランドもののバックからその封筒を取り出すと、わたしの目の前に差し出した。
もちろん断る理由もなくて、二つ返事で出席を決める。
「是非出席させてもらうね。楽しみだなあ、紗希のウエディングドレス!」
「そう言ってもらえて、嬉しいよ。」
紗希とふたりきりで話すのは卒業以来はじめてで、だけどおしゃべりな彼女との会話は、沈黙をつくることもなく気楽だった。
お互いに仕事のことや、恋愛の話、高校の頃の思い出話なんかで盛り上がり、あっという間に時間は過ぎていく。
そんな時、少し緊張したような面持ちで、紗希にしては控えめにこう切り出した。
「美奈子はさ、結婚とか考えてる?」
唐突な質問にふと、半年前に水戸くんと結婚について話したことを思い出す。
この年齢になると、やはり結婚の話題は避けては通れないらしい。
「いずれはしたいけど…相手も居ないし、わたしも好きなことして生きてる状態だしなあ。」
「いいじゃん!実は美奈子に、ぴったりな相手がいるんだけど、どう?会ってみない?」
無邪気な紗希を見て、そういえば学生時代から、こんなふうにキューピッド役をやりたがっていたなあ、と思い出す。
いきなりの申し出に驚いたが、なんでも紗希の職場の男の人で、真剣に結婚相手を探している人がいるらしい。
その彼も結婚式に参加するので、会ってみないか?との事だった。
「二次会にきてくれたら、その時紹介するからさ。」
「でも…わたしなんかでいいのかな。」
「いいよ、むしろ喜ぶって!美奈子は美人だし、美的センスもあるし。」
美的センスがどう交際に影響するのかは謎だったけど、友達からの紹介で、男の人と知り合う…というのはお見合いみたいで、すこし気恥ずかしい。
二の足を踏むわたしを見越してか、強引に誘う紗希の申し出を断れず、結局紹介してもらう事で、この話は落ち着いた。
名前はなんて言ったか、一度聞いたのに忘れてしまった。
とことん興味が持てなくて、そんな自分に笑ってしまう。
紗希と休日のカフェでお茶をした日から、1ヶ月。
平日は掛け持ちしているアルバイトに、夜は作品制作に取り組み、休日は県外のギャラリーまで足をのばす。
そんなめまぐるしい日々を送っているうちに、時間の感覚をなくしていき、気づけば紗希の結婚式当日を迎えていた。