ゆるやかに消えていくブルー【水戸】
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
水戸洋平という男子生徒は、決してまじめな高校生ではなかった。
それがわたしの第一印象だった。
高校3年生ではじめて同じクラスになった彼の周りには、少し目立つ友達が多かったように思う。
大きな声で廊下を歩いたり、どうでもいいことで大げさに笑い合っていたり。
だけど不用意に周囲を傷つけることはなかったし、不快にさせるような言動もなかった。
先生達はアイツらは不良だ、なんて言っていたけれど、わたしは心の中ではそれを否定していた。
その予想がリアルに変わったのは、月に1回ほど持ち回りで当たる、放課後の教室掃除の時だった。
その日はわたしと水戸くんが、ペアの当番になったのだ。
水戸くんはきっと残らないだろうな、と心のどこかでそう思っていたのに、彼は律儀にもHR後の教室に残っていた。
わたしがおおげさなくらい目を丸くしたので、気づいたのだろう。
「俺なんかでも、掃除くらいちゃんとするよ。」
といたずらっぽく笑った。
「まあ適当なヤツなら、話し合わせて一緒にサボったかもしれねーけど、高橋さん一人できっちりやりそうだし。」
そう言いながら机と椅子を持ち上げ、黒板側に集めていく。
その並べ方は乱雑なものではなく、きちんとそろえられていたのが意外だった。
そこからはあいまいな世間話をしながら、ひととおり教室掃除をして、帰る頃には彼に対する感情は、まったく異なるものに変化していた。
その掃除での出来事があった後にも、たまに校内で喧嘩をする場面や、顔中を絆創膏だらけにする姿を目にした。
だけどその度に思ったのは、彼は本当はちゃんと悪いことをしていると自覚していて、そうしているのではないかと言うこと。
正直水戸くん達のように喧嘩っ早い人たちは、学校には多く居たし、他校にだってたくさんいた。
その誰もが、誰が一番強いのかという自らの権力を誇示しているように感じていた。
だけど、水戸くんはなんていうか…。
そういったものには一切興味が無いように思えたのだ。
もし権力が欲しいのならば、先生にだって噛みつくだろうし、周囲の真面目な生徒たちだって寄せ付けなかっただろう。
だけど水戸くんはクラスのどんな人たちにも優しかったし、クラスメートも水戸くんを慕っていた。
だからなおさらに、なぜか喧嘩の絶えない彼のことが、よくわからなかった。
なぜ喧嘩をするのか、なぜそんなにも自分を否定するような行為をしているのかが…。
煙草の匂いに気づいたのは、水戸くんとすれ違ったときだった。
ふわりと学生服から香る、なんのメーカーかもわからない乾いた匂い。
ひとり煙草をくゆらせる彼を想像して、どうかその時間だけでも彼が彼らしくいられるよう、美術室の石膏像に向き合いながらわたしは願った。