ゆるやかに消えていくブルー【水戸】
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結局、朝まで走る、なんて結果には至らなかった。
夜明け前に2人とも疲れてしまって、道中の大きいサービスエリアに車を停め、その車内で眠ってしまったのだ。
夏だから寒くはなかったけど、倒したシートの上でわたしは水戸くんの指の感覚だけを辿っていた。
だから安心して、慣れない場所でも眠ることができたのかもしれない。
数時間眠ったのち、空が明るくなってくると、まぶしくてお互いに目を覚ました。
自動販売機でコーヒーを買い、ふたり並んで朝の空気のなかに立つ。
遠くの方では鳥が、甲高い声で鳴いている。
隣で眠そうに目をこすっている水戸くんをみていると、本当にこれで最後なんだなあと、じわじわ実感がわいてきた。
そしてわたしの視線に気づいた水戸くんと数秒間、気づけば無言で見つめ合っていた。
「なに、俺の顔なんかついてる?」
「いやぁ、寝ぼけた顔してるなあって。」
それは美奈子もだろ、と言いながら缶コーヒーをあおって空にすると、ジーンズのポケットに手をやってがくりと肩を落とす。
「煙草クルマに忘れた。」
その大袈裟な仕草に、思わず笑みが溢れた。
「いい機会だから禁煙しなよ。」
「あのね美奈子さん、アレがなきゃやってらんねーこともあるんですよ。」
諭すように言うと、きっと灰皿代わりにしようとしていた空き缶を、しぶしぶゴミ箱の穴に落とす。
水戸くんが一服している時、その仕草をこっそり盗み見るのが好きだった。
その時間だけは邪魔したくなくて、いつもわざと黙っていたのを思い出す。
「そういえば、同窓会の時にさ。」
そしてほら、隣でわたしが黙っていると大抵、水戸くんから話を振ってくれる。
これもいつものパターンだ。
「同窓会の時、なんで俺が美奈子のこと覚えてたか、わかる?」
いきなり同窓会の話なんてするので、わたしはわかりやすく戸惑った。
あの日の出来事を、遠い記憶の中に探す。
「え、それは…。掃除の時に話したことを、覚えていたからとか?」
「うーん、半分正解だし、半分不正解。」
わたしはコーヒーに口を付けるのをやめ、つづく言葉を待つ。
水戸くんの唇が、意地悪そうにつりあがるのがわかった。
「実は俺、あの時から美奈子に片想いしてたんだよな。」
「え!?」
朝の静かなサービスエリアに、わたしの大きな声が響き渡った。
片想い、なんて単語はおおよそ似つかわしくないような、水戸くんの高校時代を思い出しつつも、その事実はゆっくりとしたスピードで、かすかな満足感をもたらした。
わたしも思わず、胸の内を吐露する。
「実はわたしも、高校の時から水戸くんのこと好きだった。」
「え、マジで?」
思いもよらない告白に、照れたように目線を泳がせる。
こんな風に動揺した水戸くんをみたのは、初めてだった。
せっかく水戸くんを動揺させることができたのに、それがお互い別れを決意した後だという事が、なんだかアンバランスでおかしくて、そして寂しかった。
その後は、もと来た道を辿って帰路に着いた。
ハイウェイを降りると姿を現したのは、想像通りの見慣れた街だ。
家の前で降ろしてもらい、唐突だったドライブが本当に終わりを告げる。
「じゃあね、水戸くん。」
「うん。元気でな。」
自分でも不思議なくらい、この穏やかな別れがしっくりときていた。
水戸くんもきっと、同じ気持ちだったに違いない。
この瞬間、高校生だったわたしの片思いがやっと報われたような、そんな達成感があった。
結果的に別れることにはなってしまったけど、水戸くんと再会したことには、やはり意味があったのだと、そう思う。
水戸くんをまた好きになることができてよかった。
そして、その気持ちはこれから先もずっと、わたしの根底にあり続けるだろう。
自室に戻ると、そこにはまだ水戸くんの気配があった。
スケッチブックを開けば、いつかの描きかけた横顔。
映画のパンフレット。
旅行のチケット。
そして彼が好きだと言ってくれた、淡いブルーが主役の絵画。
この先、水戸くんと過ごした日々が記憶の片隅に追いやられたとしても、きっと思い出せる。
純真だった恋心と、わたしが夢を追い続ける理由を。
そして、彼と本気で結婚を思い描いた気持ちも。
部屋に戻って安心したのか、溢れる涙で視界が滲んだ。
まだ心は追いつかないけど、頭の中は少しずつ理解している。
わたしはきっと、また誰かに恋をすることができる。
また誰かと、結婚を夢見ることができるのだと。
それができないと思っていたちょっと前の自分とは、今は全く違っているはずだ。
それを彼が教えてくれた気がする。
幸せになってと、背中を押してくれた。
同時に、この先の水戸くんがどうか笑っていられます様にと願う。
彼が傷つかない様に、辛い顔をしないでいられる様に。
水戸くんを幸せにしてあげられるのがわたしではなかったという事実が、この涙の理由の大半だった。
わたしはぐっと涙を拭うと、気乗りするでもしないでもなく描きかけのキャンバスの前に座る。
そして絵の具の凹凸が描いたその流線型を、彼の横顔を思い描きながら、そっとなぞった。
夜明け前に2人とも疲れてしまって、道中の大きいサービスエリアに車を停め、その車内で眠ってしまったのだ。
夏だから寒くはなかったけど、倒したシートの上でわたしは水戸くんの指の感覚だけを辿っていた。
だから安心して、慣れない場所でも眠ることができたのかもしれない。
数時間眠ったのち、空が明るくなってくると、まぶしくてお互いに目を覚ました。
自動販売機でコーヒーを買い、ふたり並んで朝の空気のなかに立つ。
遠くの方では鳥が、甲高い声で鳴いている。
隣で眠そうに目をこすっている水戸くんをみていると、本当にこれで最後なんだなあと、じわじわ実感がわいてきた。
そしてわたしの視線に気づいた水戸くんと数秒間、気づけば無言で見つめ合っていた。
「なに、俺の顔なんかついてる?」
「いやぁ、寝ぼけた顔してるなあって。」
それは美奈子もだろ、と言いながら缶コーヒーをあおって空にすると、ジーンズのポケットに手をやってがくりと肩を落とす。
「煙草クルマに忘れた。」
その大袈裟な仕草に、思わず笑みが溢れた。
「いい機会だから禁煙しなよ。」
「あのね美奈子さん、アレがなきゃやってらんねーこともあるんですよ。」
諭すように言うと、きっと灰皿代わりにしようとしていた空き缶を、しぶしぶゴミ箱の穴に落とす。
水戸くんが一服している時、その仕草をこっそり盗み見るのが好きだった。
その時間だけは邪魔したくなくて、いつもわざと黙っていたのを思い出す。
「そういえば、同窓会の時にさ。」
そしてほら、隣でわたしが黙っていると大抵、水戸くんから話を振ってくれる。
これもいつものパターンだ。
「同窓会の時、なんで俺が美奈子のこと覚えてたか、わかる?」
いきなり同窓会の話なんてするので、わたしはわかりやすく戸惑った。
あの日の出来事を、遠い記憶の中に探す。
「え、それは…。掃除の時に話したことを、覚えていたからとか?」
「うーん、半分正解だし、半分不正解。」
わたしはコーヒーに口を付けるのをやめ、つづく言葉を待つ。
水戸くんの唇が、意地悪そうにつりあがるのがわかった。
「実は俺、あの時から美奈子に片想いしてたんだよな。」
「え!?」
朝の静かなサービスエリアに、わたしの大きな声が響き渡った。
片想い、なんて単語はおおよそ似つかわしくないような、水戸くんの高校時代を思い出しつつも、その事実はゆっくりとしたスピードで、かすかな満足感をもたらした。
わたしも思わず、胸の内を吐露する。
「実はわたしも、高校の時から水戸くんのこと好きだった。」
「え、マジで?」
思いもよらない告白に、照れたように目線を泳がせる。
こんな風に動揺した水戸くんをみたのは、初めてだった。
せっかく水戸くんを動揺させることができたのに、それがお互い別れを決意した後だという事が、なんだかアンバランスでおかしくて、そして寂しかった。
その後は、もと来た道を辿って帰路に着いた。
ハイウェイを降りると姿を現したのは、想像通りの見慣れた街だ。
家の前で降ろしてもらい、唐突だったドライブが本当に終わりを告げる。
「じゃあね、水戸くん。」
「うん。元気でな。」
自分でも不思議なくらい、この穏やかな別れがしっくりときていた。
水戸くんもきっと、同じ気持ちだったに違いない。
この瞬間、高校生だったわたしの片思いがやっと報われたような、そんな達成感があった。
結果的に別れることにはなってしまったけど、水戸くんと再会したことには、やはり意味があったのだと、そう思う。
水戸くんをまた好きになることができてよかった。
そして、その気持ちはこれから先もずっと、わたしの根底にあり続けるだろう。
自室に戻ると、そこにはまだ水戸くんの気配があった。
スケッチブックを開けば、いつかの描きかけた横顔。
映画のパンフレット。
旅行のチケット。
そして彼が好きだと言ってくれた、淡いブルーが主役の絵画。
この先、水戸くんと過ごした日々が記憶の片隅に追いやられたとしても、きっと思い出せる。
純真だった恋心と、わたしが夢を追い続ける理由を。
そして、彼と本気で結婚を思い描いた気持ちも。
部屋に戻って安心したのか、溢れる涙で視界が滲んだ。
まだ心は追いつかないけど、頭の中は少しずつ理解している。
わたしはきっと、また誰かに恋をすることができる。
また誰かと、結婚を夢見ることができるのだと。
それができないと思っていたちょっと前の自分とは、今は全く違っているはずだ。
それを彼が教えてくれた気がする。
幸せになってと、背中を押してくれた。
同時に、この先の水戸くんがどうか笑っていられます様にと願う。
彼が傷つかない様に、辛い顔をしないでいられる様に。
水戸くんを幸せにしてあげられるのがわたしではなかったという事実が、この涙の理由の大半だった。
わたしはぐっと涙を拭うと、気乗りするでもしないでもなく描きかけのキャンバスの前に座る。
そして絵の具の凹凸が描いたその流線型を、彼の横顔を思い描きながら、そっとなぞった。