ゆるやかに消えていくブルー【水戸】
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少し離れたところに路駐していた、水戸くんの車に乗り込む。
黒い2ドアのセダン。
本当は車の整備士になりたかったのだと、いつか彼は話してくれたことがある。
その車内はお世辞にも広いとは言えないけど、2人でのドライブにはうってつけだった。
「よかった。美奈子が思ったよりも早く出てきたから、もう少し遅く行ってたら会えなかったかもな。」
バイト先で会えなくても、電話一本かけてくれればいつでも会えるはずなのに、と思う。
だけどそうしなかった理由を聞いてしまうことが怖くて、なにも言えなかった。
黙ったままのわたしにチラリと視線を移すと、少し低めのトーンで話し始める。
「長い間、連絡できなくて悪かった。」
一点に見つめていた指先から目線を移すと、水戸くんはまっすぐ行き先だけを見据えていた。
「何かあったの?」
「うん、色々あった。それで、俺の中でもすげー考えた。」
それから静かに語り出したのは、やはり家族間の事だった。
「じいさんが倒れたって言ったろ?結局、処置が早かったんで死んではいないんだけど、ほとんど意識もなくしちまって、もう長くないだろうって言われてさ。」
親族が集まった場で議題に上がったのは、おじいさんが所有している会社の持ち株の件だったらしい。
もともと水戸くんの家族が経営している会社の創始者はおじいさんで、会社の株のほとんどを所有している。それをどう配分するかで、揉めたのだそうだ。
「ヘンな家族だろ?じいさんが死にそうだって言うのに…。話すのは金のことばっかでさ。」
昔からそうだった、と水戸くんは言う。
おじいさんは根っからの経営者気質であり、長男であった水戸くんのお父さんに会社の実権を譲った。
だけどそれをよく思わない兄弟や親戚たちと、会社の行く末を巡って昔から衝突が起きていた。
それが今回、おじいさんが危篤状態になった事によって、浮き彫りになった、というような話だった。
「オヤジは俺に、会社を継がせたいと言ってる。けど、それをよく思ってねーヤツもいて。」
財産分与の話が、今後の会社経営の話にまで飛び火しているというような内容だった。
わたしはなんだか現実味のない話に、頭をついていかせるのに必死だった。
水戸くんはこれまで、家族や会社の内情については一切話してこなかった。
きっと意識的に、避けていたのだろうと思う。
いつも明るくて、でもどこか本心を隠して接するような態度の根底には、きっとこの問題が隠れていたのだろうと、今更に合点がいった。
「同族経営だからいろいろめんどくせーって、前にも言ったろ。だから、わかってたんだけどさ。揉め事はガキの頃から腐るほど見てきたし。けどさ…。」
「けど…?」
選ぶように言葉をつまらせる水戸くんに、問いかける。
ずっと頷くだけになっていたわたしが、久々に発した声は、とても弱々しいものだった。
「だけど、アイツらが揉めてんの見ながら、ずっとお前のこと考えてた。美奈子が幸せになるには、どうしたらいいのかって。」
「わたしの幸せ…?」
「うん。さすがに俺でもちょっとは考えたんだよ、美奈子とずっと一緒にいるにはどうしたらいいか。…結婚、とか。」
ひゅっと、喉の奥が冷たくなった気がした。
その唇はまだ動いていないのに、彼が次に何という言葉を発するのか、わたしは予知能力のように察することができてしまった。
そして、想像通りの形を描いて、その言葉は紡がれる。
「美奈子は俺と一緒にいねーほうがいいよ。だから、別れよう。」
黒い2ドアのセダン。
本当は車の整備士になりたかったのだと、いつか彼は話してくれたことがある。
その車内はお世辞にも広いとは言えないけど、2人でのドライブにはうってつけだった。
「よかった。美奈子が思ったよりも早く出てきたから、もう少し遅く行ってたら会えなかったかもな。」
バイト先で会えなくても、電話一本かけてくれればいつでも会えるはずなのに、と思う。
だけどそうしなかった理由を聞いてしまうことが怖くて、なにも言えなかった。
黙ったままのわたしにチラリと視線を移すと、少し低めのトーンで話し始める。
「長い間、連絡できなくて悪かった。」
一点に見つめていた指先から目線を移すと、水戸くんはまっすぐ行き先だけを見据えていた。
「何かあったの?」
「うん、色々あった。それで、俺の中でもすげー考えた。」
それから静かに語り出したのは、やはり家族間の事だった。
「じいさんが倒れたって言ったろ?結局、処置が早かったんで死んではいないんだけど、ほとんど意識もなくしちまって、もう長くないだろうって言われてさ。」
親族が集まった場で議題に上がったのは、おじいさんが所有している会社の持ち株の件だったらしい。
もともと水戸くんの家族が経営している会社の創始者はおじいさんで、会社の株のほとんどを所有している。それをどう配分するかで、揉めたのだそうだ。
「ヘンな家族だろ?じいさんが死にそうだって言うのに…。話すのは金のことばっかでさ。」
昔からそうだった、と水戸くんは言う。
おじいさんは根っからの経営者気質であり、長男であった水戸くんのお父さんに会社の実権を譲った。
だけどそれをよく思わない兄弟や親戚たちと、会社の行く末を巡って昔から衝突が起きていた。
それが今回、おじいさんが危篤状態になった事によって、浮き彫りになった、というような話だった。
「オヤジは俺に、会社を継がせたいと言ってる。けど、それをよく思ってねーヤツもいて。」
財産分与の話が、今後の会社経営の話にまで飛び火しているというような内容だった。
わたしはなんだか現実味のない話に、頭をついていかせるのに必死だった。
水戸くんはこれまで、家族や会社の内情については一切話してこなかった。
きっと意識的に、避けていたのだろうと思う。
いつも明るくて、でもどこか本心を隠して接するような態度の根底には、きっとこの問題が隠れていたのだろうと、今更に合点がいった。
「同族経営だからいろいろめんどくせーって、前にも言ったろ。だから、わかってたんだけどさ。揉め事はガキの頃から腐るほど見てきたし。けどさ…。」
「けど…?」
選ぶように言葉をつまらせる水戸くんに、問いかける。
ずっと頷くだけになっていたわたしが、久々に発した声は、とても弱々しいものだった。
「だけど、アイツらが揉めてんの見ながら、ずっとお前のこと考えてた。美奈子が幸せになるには、どうしたらいいのかって。」
「わたしの幸せ…?」
「うん。さすがに俺でもちょっとは考えたんだよ、美奈子とずっと一緒にいるにはどうしたらいいか。…結婚、とか。」
ひゅっと、喉の奥が冷たくなった気がした。
その唇はまだ動いていないのに、彼が次に何という言葉を発するのか、わたしは予知能力のように察することができてしまった。
そして、想像通りの形を描いて、その言葉は紡がれる。
「美奈子は俺と一緒にいねーほうがいいよ。だから、別れよう。」