このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

番犬【桜木】

夢小説設定

本棚全体の夢小説設定
主人公の名字
主人公の名前

「おーい、花道!

 またフラれそうなんだって?」



いかにも柄の悪そうな4人組が廊下を歩くと、周りの学生もサッと道を開ける。



湘北名物というか、元和光中名物というか、

桜木花道の恋愛イジリが始まった。



リーゼントを決め込んだ不良集団の中に、女子が一人。



わたしは中学の時からこの5人とつるんでいる。

周りからは奇抜な目で見られることも少なくないが、わたしにとってはこれが普通なのだから気にしない。

こいつらといると、女子同士のように気兼ねしなくていいし、とにかく楽なのだ。



「花道、とうとう晴子さんにフラれそうなんだって?」

スカートなんて気にせず、花道の大きな背中に飛び乗る。



「げ、美奈子までいやがるじゃねーか。

 お前ら、またいらんこと吹き込んだんじゃねーだろうなぁ。」



重い…といいつつ、落ちないようにちゃんと腕を回してくれるところが優しい。



「聞いたよ、昨日の試合。

 晴子さんは流川にメロメロだったんだってぇ?」



「あー!!クソ!

 それはその!ただ同じ1年として義理で!義理で応援してやってただけなんだよ!

 俺にだって熱ーい声援をくれたしな!!」



「またまた強がっちゃってるよ、この男は」



「まだ、告白もしてねーのに、フラれてたまるか!!」



いつもの調子で花道を挑発して遊ぶ。

高宮と大楠、野間とは中学の時からの縁だが、実は花道と洋平は、小学校からの腐れ縁なのだ。



そしてこれは、絶対に言うつもりはないけど…

わたしはずっと前から花道が好きだ。



…もう、それを告げるには遅すぎるほど、一緒に居すぎてしまったのだけれど。



だから、わたしは花道の失恋記録がずっと続けば良いなぁなんてこっそり思っている。



クラスの女子は、花道を怖がっている。

それなのに、花道はなぜか、晴子さんのように清楚で、不良とは無縁そうな子ばかりを好きになってしまうのだ。



ただ、晴子さんは今まで好きになった女子たちとは少し違っている気がする。



晴子さんは、まったく花道を怖がらないのだ。



花道を怖がらないのは、わたしだけの特権だったんだけどなぁ。



美奈子、今日の夜空いてる?」

と洋平が言う。



「うん、今日はバイトないし暇だよ。なんで?」

「花道ん家で飲もうぜ」

「おっ!いいねぇ!」

「花道もいいか?」

「なんで家主に先に聞かねーんだよ。逆だろ普通。」

「じゃー花道は無理って事で。」

「んなこと言ってねーだろ。酒があるならウェルカムよ。」

「よし、んじゃ美奈子買い出し係なー。」



「オッケー!じゃ、決まり。」



わたしたち三人は、たまにこうやって花道の家に集まる。

花道は今は一人暮らしなので、なにかと集まりの場にしているのだ。










放課後、一度家に帰って私服になったわたしは、近所のスーパーで買い出しをする。

適当にチューハイ缶やらビールやら。

おつまみやお惣菜、(自分が食べたいと言う理由で作る)唐揚げの材料を買う。



花道の住む古いアパートに着くと、寝起きの花道がいた。



「おー美奈子。…もー来たのか。

 部活の後疲れちまってそのまま寝てた。

 わり、なんも準備してねー。」



「いいよ、台所借りるけど良い?」



「何作んの?」

「へへ、唐揚げ!」

「おお、美味そう!」



こんなふうに花道の家に上がれるのも、幼馴染の特権だ。



そこに、電話の電子音が鳴る。



「おお、洋平。美奈子もう来たぜ。」



電話の主は洋平だったらしい。

言い出しっぺのあいつが1番遅いとは。





「お?そうなのか。…おお、了解。」



受話器を置く花道に、わたしは聞く。



「洋平なんだって?」

「あーなんか、あいつ家の用事で来られなくなったってさ。」

「え?!!まじで!?」



「お、おう、そんな驚かなくてもいいだろ!でっけー声だな!!」



「あっ、ご、ごめん」



洋平が来られないってことは…

今日は花道と二人きり?



思わず動揺して大きな声を出してしまった。

包丁を持つ手もなんだか感覚がなくなる。

花道と二人っていうシチュエーションは、実はあまりない。



「なんか手伝おか?」

「じゃーそっちのお惣菜とか温めてお皿に並べて。」

「りょーかい。腹減った!!」



努めて冷静を装うわたしとは対照的に、花道は普通だ。

悔しいくらいめちゃくちゃ普通だ。



これが晴子さんなら、きっとガチガチに緊張しているだろうに。



何だかとてつもなく悔しい。



テーブルに品数が並んだところで、わたしも席に着く。

花道はビール、わたしはレモンハイを片手に、乾杯する。



「あー、洋平いないから余っちゃうかな。

 ちょっと買いすぎたかも。」



「いや、俺すげぇ腹減ってるから、多分すぐ食っちまうぞ。お前の分が残る保証はない。」



わたしの心配をよそに、花道は唐揚げにがっつく。

「あー!わたしの大好物!作った人が1番に食べるって決まってるのに!」



「へ?ほんなんひーたほとない」



大きな口に、入るだけ唐揚げを詰める。



「もー!一口デカすぎ!」

ムカッとして、花道の腕を軽く殴る。

「しゃーねーだろ。お前の作る唐揚げが美味すぎるのが悪い!」

「…っ!」



不意打ちで褒められて、殴る手を止める。

花道は何の気なしに言ってるだけだと思うけど、ちょっと照れる。



たわいもない話をしている間に、やはり話題は恋愛の話になっていた。
1/2ページ
    スキ