距離感【藤真SS】
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「久しぶり、だな」
「久しぶり、だね」
同窓会の会場に着いてすぐ、彼の存在には気がついていた。けれどたった今気づいたのだというフリをして、温度のないあいさつを交わす。
学生時代から目立っていた彼は10年前と変わらず素敵だった。
わからなかったという方が、不自然なのに。
しかし私に向けられるのは、離れている間に覚えた処世術を思わせる、社交辞令的な笑顔だった。
彼のことはなんでも知っていると、あの頃は思っていた。
私にだけ見せるあどけない顔も、不機嫌な態度も。
彼とは高校3年生のときに付き合いはじめた。
特になんのトラブルもない2人だったけれど、きっかけは進路だった。
彼はバスケットボールのスカウトを受け、東京の大学へ行くことになったのだ。
しかしわたしは地元の居心地を捨てることができず、家から通える専門学校に進学した。
一度だけ藤真くんに、冗談めかしく言われたことがあったっけ。
「美奈子も一緒に東京来れば?そしたらお前の手料理が食べられるのに。」
その時はなぜか本気ではないと思って、
「もう、わたしのこと家政婦さんにしようとしてるでしょ。そんなこと言ってないで、ちょいちょい戻ってきてよね。」
なんて笑い飛ばしてしまったけれど、あの時少しでも本気にしていれば、今この人との未来があったのだろうか。
結局、遠距離になって自然に別れるという、よくあるパターンに収まったわたしたち。
お互い嫌いで別れたわけではない。ただきっと、タイミングが悪かったのだ。
「美奈子は今なにしてんの?」
「普通に会社員だよ。藤真くんは?」
近づきも離れもしない距離感での会話は、10年前の関係をあっさり否定する。
「俺も、今は普通の会社員だよ。」
「そっか、お互いそんなものだね。」
途切れた会話の合間、ビュッフェのメニューを選ぶフリをして、彼の左手を盗み見る。
そこには会場の照明に照らされたシルバーのリングが光っている。
「…結婚したんだ。」
そう口にする私は今どんな顔をしているのか、見当もつかない。
「あぁ、2年前にな。」
(美奈子は?)
そう聞かないで黙っているのは、わたしに気を遣っているのか、それともわたしが今どうしているかを知りたくないのか、どちらなんだろう。
普通に考えれば前者なのだけれど、後者の方に期待している自分がいる。
わたしはこの春、恋人にプロポーズされて、入籍する。
だけどそのことは、藤真くんには知られたくない。
送られたエンゲージリングも、わざと外してきた。
彼の前では、あの頃のままの私でいたいから。
ただ痛いほど純粋に、彼を好きで仕方なかったわたしのままで。
「久しぶり、だね」
同窓会の会場に着いてすぐ、彼の存在には気がついていた。けれどたった今気づいたのだというフリをして、温度のないあいさつを交わす。
学生時代から目立っていた彼は10年前と変わらず素敵だった。
わからなかったという方が、不自然なのに。
しかし私に向けられるのは、離れている間に覚えた処世術を思わせる、社交辞令的な笑顔だった。
彼のことはなんでも知っていると、あの頃は思っていた。
私にだけ見せるあどけない顔も、不機嫌な態度も。
彼とは高校3年生のときに付き合いはじめた。
特になんのトラブルもない2人だったけれど、きっかけは進路だった。
彼はバスケットボールのスカウトを受け、東京の大学へ行くことになったのだ。
しかしわたしは地元の居心地を捨てることができず、家から通える専門学校に進学した。
一度だけ藤真くんに、冗談めかしく言われたことがあったっけ。
「美奈子も一緒に東京来れば?そしたらお前の手料理が食べられるのに。」
その時はなぜか本気ではないと思って、
「もう、わたしのこと家政婦さんにしようとしてるでしょ。そんなこと言ってないで、ちょいちょい戻ってきてよね。」
なんて笑い飛ばしてしまったけれど、あの時少しでも本気にしていれば、今この人との未来があったのだろうか。
結局、遠距離になって自然に別れるという、よくあるパターンに収まったわたしたち。
お互い嫌いで別れたわけではない。ただきっと、タイミングが悪かったのだ。
「美奈子は今なにしてんの?」
「普通に会社員だよ。藤真くんは?」
近づきも離れもしない距離感での会話は、10年前の関係をあっさり否定する。
「俺も、今は普通の会社員だよ。」
「そっか、お互いそんなものだね。」
途切れた会話の合間、ビュッフェのメニューを選ぶフリをして、彼の左手を盗み見る。
そこには会場の照明に照らされたシルバーのリングが光っている。
「…結婚したんだ。」
そう口にする私は今どんな顔をしているのか、見当もつかない。
「あぁ、2年前にな。」
(美奈子は?)
そう聞かないで黙っているのは、わたしに気を遣っているのか、それともわたしが今どうしているかを知りたくないのか、どちらなんだろう。
普通に考えれば前者なのだけれど、後者の方に期待している自分がいる。
わたしはこの春、恋人にプロポーズされて、入籍する。
だけどそのことは、藤真くんには知られたくない。
送られたエンゲージリングも、わざと外してきた。
彼の前では、あの頃のままの私でいたいから。
ただ痛いほど純粋に、彼を好きで仕方なかったわたしのままで。
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