nonsense
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あれから美奈子は学校に来なくなった。
そうして日が経ってから、もう1週間になるだろうか。
美奈子の住む場所は、電話番号からだいたい予測は付いていた。
だが、合わせる顔がない。
たしかに俺が美奈子と親しくなった根底には、奴らとの賭けがあった。
そのことにほんの少しの罪悪感がなかったわけではない。
だけどその賭けの延長で告白したわけではないし、俺たちの間には賭けなんて関係なくきちんとした順序があったと、俺は思っている。
…しかしそれを弁解したとしても、美奈子に受け入れてもらえないことが、一番怖かった。
だから電話もできず、家にも行けない。
完全に誤解を解ける自信もない。
堂々巡りな考えばかりして、ついに1週間も経ってしまったのだ。
先週の日曜日に待ち合わせた公園で、ぼうっと空を見上げる。
家から持ってきたバスケットボールを空に向けて眺める。
これを引っ張り出したのはいつぶりだろうか。
少し劣化したゴム皮の凹凸を眺めていると、美奈子の冷めてしまったであろう俺への感情と重なって、胸が痛んだ。
あいかわらずバスケットコートには、中学生らしき子ども達が数人でボールを追っている。
寒い空気は音をよく通すようで、かなり離れた場所でもその声が鮮明に聞こえる。
耐えられなくなりコートの方へ近づいた。
フェンスに囲まれたコートのまわりには、背の高い木が生い茂っている。
そのひとつの木に、見覚えのある黒髪が寄りかかっているのが目に映る。
まさかと思って足早に近づくと、文庫本を開いたまま膝に乗せ、目を閉じている美奈子だった。
近づいてもそのまぶたは閉じられたままで、小さく寝息も聞こえる。
初めて話したときのように無防備すぎる姿に、一抹の不安を覚える。
美奈子は俺をハラハラさせるのが得意らしい。
「おい、こんなとこで寝てんじゃねーよ、馬鹿。」
つん、とひざを足で押すと、体勢が崩された美奈子は目を覚ました。
「え、あ…みついく…。」
寝起きのうわずった声で、やっと状況を飲み込んだような美奈子の隣に、勢いよく座り込む。
ごちゃごちゃ考えるのは、性に合わないからヤメた。
「風邪引くぞ。」
「…なんでここに…。」
「お前こそ何で、わざわざこのコートの近くにいるんだよ。こんなに広いのによ。」
そういって目線で公園全体を指す。
美奈子は押し黙っていたが、重い口を開いた。
「…三井くんとは、もう…」
「俺とは、何?」
「み、三井くんは本当はわたしのことなんて、どうでもよかったんですよね。
勘違いして…すみませんでした。」
「…勘違いな訳あるかよ。」
「だって、あの時教室で…。」
「…。」
しばし沈黙したが、俺もすべてを話そうと決意した。
ここで言えなければ、もう永遠に伝えることはできないかもしれない。
「たしかに、その賭けをしたのは事実なんだ。」
そう言った瞬間、立ち上がろうとする美奈子の手をつかみ、引き戻す。
「最後まで聞けよ。全部聞き終わったら、逃げていいぜ。約束する。」
それを聞いて迷いつつも、美奈子は元いた場所に腰を下ろしてくれた。
「俺は美奈子のことをそれまで知らなかった。
クラスの奴らの顔なんか覚えてなかったし…。
初めて存在を認識したとき、スゲー暗そうな女だなって思ったよ。
だけど、本当に告白するつもりはなかった。アイツらには適当に話を会わせておくつもりだったんだ。
…だけど。」
「だけど…?」
何を言われるのだろうと怯えている美奈子の、瞳が滲む。
「お前は危なっかしくて、気づいたら目が離せなくなってた。
初めて話した日だよ。
フラフラ下見ながら歩いてるし、車の多い道なのに、前髪もだらだら長いしよ…。
ほんとに前見えてんのかって、不安になった。
…それからは、お前と過ごした時間が真実だ。それから本気で、お前のことを好きになった。」
顔を背けず、まっすぐ美奈子を見据える。
美奈子はぎゅっと唇を固く結び、無言で俺の話を聞いていた。
が、その唇にこもる力がふっと緩んだかと想うと、そのまま俺にそっと口づけた。
久しぶりに近くで感じる、美奈子の香りだった。
名残惜しそうにそっと唇を離すと、やっと視線が重なり合う。
恥ずかしさと悲しさを混同させたような彼女は、先ほどの行動とは裏腹に少し震えたような声で告げる。
「三井くんの気持ちが嘘だったとしても、わたしはあなたが好きです。
好きになっちゃったんです。…ごめんなさい。」
「美奈子…。」
だから嘘じゃねーんだよ、とか、謝るなよ、とか、色々言いたいことはあったが、そのまま飲み込んで彼女の肩を強く抱きしめた。
美奈子への感情は嘘ではない。
だけど結果的に、彼女を傷つけてしまったことは、紛れもなく真実だ。
彼女をこれ以上傷つけまいと、彼女を不幸にはさせまいと、俺は柄にもなく誓った。誰でもなく、俺自身にだ。
そうして日が経ってから、もう1週間になるだろうか。
美奈子の住む場所は、電話番号からだいたい予測は付いていた。
だが、合わせる顔がない。
たしかに俺が美奈子と親しくなった根底には、奴らとの賭けがあった。
そのことにほんの少しの罪悪感がなかったわけではない。
だけどその賭けの延長で告白したわけではないし、俺たちの間には賭けなんて関係なくきちんとした順序があったと、俺は思っている。
…しかしそれを弁解したとしても、美奈子に受け入れてもらえないことが、一番怖かった。
だから電話もできず、家にも行けない。
完全に誤解を解ける自信もない。
堂々巡りな考えばかりして、ついに1週間も経ってしまったのだ。
先週の日曜日に待ち合わせた公園で、ぼうっと空を見上げる。
家から持ってきたバスケットボールを空に向けて眺める。
これを引っ張り出したのはいつぶりだろうか。
少し劣化したゴム皮の凹凸を眺めていると、美奈子の冷めてしまったであろう俺への感情と重なって、胸が痛んだ。
あいかわらずバスケットコートには、中学生らしき子ども達が数人でボールを追っている。
寒い空気は音をよく通すようで、かなり離れた場所でもその声が鮮明に聞こえる。
耐えられなくなりコートの方へ近づいた。
フェンスに囲まれたコートのまわりには、背の高い木が生い茂っている。
そのひとつの木に、見覚えのある黒髪が寄りかかっているのが目に映る。
まさかと思って足早に近づくと、文庫本を開いたまま膝に乗せ、目を閉じている美奈子だった。
近づいてもそのまぶたは閉じられたままで、小さく寝息も聞こえる。
初めて話したときのように無防備すぎる姿に、一抹の不安を覚える。
美奈子は俺をハラハラさせるのが得意らしい。
「おい、こんなとこで寝てんじゃねーよ、馬鹿。」
つん、とひざを足で押すと、体勢が崩された美奈子は目を覚ました。
「え、あ…みついく…。」
寝起きのうわずった声で、やっと状況を飲み込んだような美奈子の隣に、勢いよく座り込む。
ごちゃごちゃ考えるのは、性に合わないからヤメた。
「風邪引くぞ。」
「…なんでここに…。」
「お前こそ何で、わざわざこのコートの近くにいるんだよ。こんなに広いのによ。」
そういって目線で公園全体を指す。
美奈子は押し黙っていたが、重い口を開いた。
「…三井くんとは、もう…」
「俺とは、何?」
「み、三井くんは本当はわたしのことなんて、どうでもよかったんですよね。
勘違いして…すみませんでした。」
「…勘違いな訳あるかよ。」
「だって、あの時教室で…。」
「…。」
しばし沈黙したが、俺もすべてを話そうと決意した。
ここで言えなければ、もう永遠に伝えることはできないかもしれない。
「たしかに、その賭けをしたのは事実なんだ。」
そう言った瞬間、立ち上がろうとする美奈子の手をつかみ、引き戻す。
「最後まで聞けよ。全部聞き終わったら、逃げていいぜ。約束する。」
それを聞いて迷いつつも、美奈子は元いた場所に腰を下ろしてくれた。
「俺は美奈子のことをそれまで知らなかった。
クラスの奴らの顔なんか覚えてなかったし…。
初めて存在を認識したとき、スゲー暗そうな女だなって思ったよ。
だけど、本当に告白するつもりはなかった。アイツらには適当に話を会わせておくつもりだったんだ。
…だけど。」
「だけど…?」
何を言われるのだろうと怯えている美奈子の、瞳が滲む。
「お前は危なっかしくて、気づいたら目が離せなくなってた。
初めて話した日だよ。
フラフラ下見ながら歩いてるし、車の多い道なのに、前髪もだらだら長いしよ…。
ほんとに前見えてんのかって、不安になった。
…それからは、お前と過ごした時間が真実だ。それから本気で、お前のことを好きになった。」
顔を背けず、まっすぐ美奈子を見据える。
美奈子はぎゅっと唇を固く結び、無言で俺の話を聞いていた。
が、その唇にこもる力がふっと緩んだかと想うと、そのまま俺にそっと口づけた。
久しぶりに近くで感じる、美奈子の香りだった。
名残惜しそうにそっと唇を離すと、やっと視線が重なり合う。
恥ずかしさと悲しさを混同させたような彼女は、先ほどの行動とは裏腹に少し震えたような声で告げる。
「三井くんの気持ちが嘘だったとしても、わたしはあなたが好きです。
好きになっちゃったんです。…ごめんなさい。」
「美奈子…。」
だから嘘じゃねーんだよ、とか、謝るなよ、とか、色々言いたいことはあったが、そのまま飲み込んで彼女の肩を強く抱きしめた。
美奈子への感情は嘘ではない。
だけど結果的に、彼女を傷つけてしまったことは、紛れもなく真実だ。
彼女をこれ以上傷つけまいと、彼女を不幸にはさせまいと、俺は柄にもなく誓った。誰でもなく、俺自身にだ。