nonsense
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次の日、俺はばっさり髪を切って登校した。
ずっとうっとおしい長髪だったから、その反動でかなり短く切った。自分でもまだ違和感があるけど、それもそのうち慣れるだろう。
教室に入るなり、嫌などよめきが起こる。
話したことのない女子たちが、陰で誰?だの何だの、こそこそ言っているのが聞こえる。
しかし一番驚いていたのは、いつもつるんでいる連中だった。
「お、おい三井、まじでお前最近どーした?」
「三井らしくねーじゃん!!」
一気に俺の席に集まってくる。
それは面白がっていると言うよりも、変わろうとする俺自身に対する嫌悪感を孕んでいる気がした。
「うっとおしかったんだよ、ずっと。」
吐き捨てるように言うと、さっきから押し黙って聞いていたヤツが口を開いた。
「ハハ、それじゃまるっきり、バスケ部の三井クンに戻っちまったじゃねーか!」
なぁ、と大声で笑い、周囲を見回し同意を求める。
すると、他のヤツらは焦ったように「やめろ!」と言って、そいつの口をふさいだ。
しばし仲間内で流れる、シーンとした空気。
今までこいつらにバスケのことを言われたことはなかったが、禁句として認識されていたことを今になって知った。
俺は目も合わさず、
「また、バスケするわ。」
と短く言った。
それは遠回しに、こいつらとの付き合いをやめると言う意味でもあった。
すると先ほどまでじゃれあいの様だった空気が、一気に俺を嘲笑うようなモノへと変わる。
「は?お前が?今更か?」
さっき大笑いしたやつが、今度はおもしろくなさそうに吐き捨てる。
「もう何年もやってねーんだろ?今更戻ってどうすんだよ。」
「ああ、それでもいいんだよ。」
「無理だろ、毎日俺らとつるんでサボってるような不真面目なヤツが、今更部活なんてよ。」
思いのほかしつこく食い下がってくるコイツが、段々と目障りに感じてくる。俺がバスケをしようがしまいが、コイツには関係ないはずだ。
周囲の奴らも、ざわざわと声を潜めているのがわかる。
「てめーには関係ねーだろ。」
話を早く終わらせたくて、強めに言ってみるも、そいつの見下すような姿勢はなおも変わらない。
「お前みたいなクソ野郎が今更バスケになんか、戻れるわけねーだろ。バカか?」
「あ?なんつった今。」
あきらかに向けられた敵意に、思わず席を立った。
そのまま目の前の胸倉をつかむと、クラスのあちこちから甲高い悲鳴が上がった。
「てめーみたいな中途半端なヤローはな、なにやったって無駄なんだよ!」
「んだとコラ!」
胸をつかんだままそいつの体を押すと、逆に胸倉をつかみ返される。
向こうのほうが、つかみ上げる力は強い。
息が苦しくなるほど首を絞られ、少し体が宙に浮く。
俺は正直、そこまでケンカに自信はない。
しかし引くわけにもいかず、なおもそいつを睨み返す。
「やめて!!」
どよめきの中で、ただひとり線の細く通った声。
大柄な二人の間に割って入ってきたのは、美奈子だった。
「っ、美奈子、やめろ…!」
「美奈子だってよ…ハハッ バッカじゃねえの?
お前ら、マジで付き合ってるわけ?」
美奈子に気を取られた俺は、勢いよく壁にたたきつけられる。そしてそいつは、俺たちを交互に見て笑い出した。
俺は美奈子を引き寄せて、背中に隠すように立つ。
その様子をただニヤニヤと、おもしろそうに眺めている。
「…んだよ。」
「いやー三井!ところでアレはいつするつもりだ?」
「あ?」
「忘れたのかよ?
『クラスで一番ブスな女に告白する』っていう、罰ゲームのネタばらしだよ!!」
「え…?」
その瞬間、全身の血の気が引いた気がした。
ただ聞こえたのは、背中で小さくつぶやいた美奈子の声だった。
「お前がいつ言うのか、俺らで掛けてんだからよお。
なんなら今言えよ、ゲームで負けたから付き合うことになったってな!」
笑っているそいつに、周りの仲間も引いたような視線を送っているが、止めるものは一人もいない。
しかし、そんなことは今は、心底どうでもよかった。
頭が真っ白になって、一体どうすればいいのか、どうすれば誤解が解けるのか、そればかりを考えていた。
すると背中にいたはずの美奈子が、勢いよく教室から走り出す。
「おい、美奈子…!待てって!」
俺も急いで追いかけようと、走り出す。
その背後でまだアイツが何か言っていた気がしたが、耳には入らない。
廊下に出ると、まだ美奈子の背中がみえる。美奈子の走る速度なら、いとも簡単に追いついてしまえる事はわかっていた。
なおも逃げようと身体をひねって抵抗する美奈子を、必死で近くの空き教室に引き入れる。
「離してください…!!」
「離さねぇ。なあ、美奈子聞いて…。」
「なにも聞きたくない…!」
「誤解なんだよ、本当だ。俺のこと、信じてくれ…」
「信じられません、なにも…っ!」
「美奈子…。違うんだ。俺は、本当にお前が…」
「っ、痛い…。」
逃げないようにつかんでいた細い手首に、思ったよりも力が入ってしまったようだ。
それに気づいて力をゆるめると、一瞬で美奈子の手がするりと俺から抜けだす。
「美奈子…!」
「…三井くん、さよなら。」
ぽつり言うと、そのままドアを開けて駆け足で去っていく。
その声は、ひどく震えているように聞こえた。
俺はひとり残された教室で、どうすることもできず、その手に最後に残った美奈子の温度を確かめるように握った。