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鳴り響く怒号。大勢の人が廊下を駆ける。そして、いくつもの呪文が爆ぜる音。
私はその喧騒から壁一枚隔てた部屋で、見つからないようにと息を殺し隙を窺っていた。
マルフォイ家に上手く侵入出来たのはいいものの、少しのミスから見つかってしまい、こうして追われている。
――そう、侵入。
フリーの探偵業、というよりはスパイに近いか。それが私たちみょうじ家の家業。料金しだいだが、頼まれれば潜入から暗殺までどんなことでもする。
もっともあまり知られてはいないので、一般の魔法使いの間ではほぼ都市伝説のようなものとなっている。それと依頼料がバカ高いのもあり、依頼はそんなに入ってこない。
そして今回、私たちが雇われているのは――不死鳥の騎士団。
ダンブルドアに頼まれては断れない、と頭首であるお祖父様が嬉しそうにボヤいていた。
「…よし」
小さな声で気合いを入れなおし、拳を握りなおす。
今回の目的は屋敷の構造を覚えること。
まだホグワーツに通っている身でもあるし、何よりも猛威を振るっている死喰い人、何より例のあの人と戦闘になるのは、非常にまずい。
顔が割れてはいけないため、仮面をしっかりと被り直す。
そろそろここから出、
――パチン
よく見知った、姿現しをする時の音が、私の後ろで響いた。
「……鼠が一匹紛れ込んでいるとは聞いたが…驚いたな。まだ子どもではないか」
バッと後ろを振り向く。そこにいたのは――例のあの人で。
杖をこちらに向けながら、愉悦の笑みを浮かべている。
姿現ししたのか、と思いながら、動揺を隠すように一礼する。
「これはこれは……貴方様が直々に姿を見せるとは。さぞかし無能な部下をお持ちなのでしょうね」
「貴様の親は年上には敬意を払えと教えないのか? 純潔の癖に子の躾も出来んとは、マグル同様卑しい育ちのようだな」
「っ、……貴方のような純血主義者と一緒にされても困ります。生憎と私は純血主義とかいう馬鹿な風習を守るつもりはありませんし――」
不味い。言い過ぎた、かもしれない。
だが意に反して、例のあの人の口元は、未だ弧を描いていた。
「ぺらぺらとよく動く口だ。――この術をお前に使う気はなかったが、まぁいいだろう」
「何です? 磔の呪文でも使うつもりですか? それとも死の呪文?」
内心冷や汗をかきながら、それでも平然と振る舞う。
時間稼ぎにもならないかもしれない。それでも、最後まで抵抗はするつもりだ。
袖口には杖が隠されている。大丈夫、私なら上手くやれるはず。
「いいや、禁じられた魔法などではな――」
「”武器よ去れ”っ!」
杖を引き抜き、叫ぶ。
向こうも応戦したのだろう。同時に閃光が走り、小さいが爆発が起こる。
もうもうと煙が上がる中、咳き込みながらももう一度杖を振り上げる。
が、その腕は何かに絡めとられてしまう。
「っな」
「その程度か。大口を叩く割には大したことはないな」
こちらに向かってくるあの人。杖先からは鶴のような蛇のような、黒い紐状の物が出ていて、それが私の腕に巻きついていた。
そのまま杖を動かされ、例のあの人のほうへと引きずられる。
「くっ、離せっ!」
「威勢のいい女だ。どれ……その顔、見せてもらうぞ」
あっという間に距離を詰められ、左腕で腰を抱かれる。その肌の冷たさと嫌悪感に身じろぐが、離す気など毛頭ないらしいあの人は、腕の力を強めてきた。いや、私も冷静すぎるがセクハラだろう、これは。
そうしてもう片方の手で顎を持ち上げられる。私の杖腕は自由になっていたが、抵抗などできるわけもない。
仮面を剥がされれば私がみょうじ・なまえであることがバレてしまう。それだけは避けなければ……でも、どうやって?
「や……め、ろっ」
口で僅かばかりの抵抗を試みるが、例のあの人は笑みを崩さずにこちらの反応を楽しむばかり。そのドSっぷりを存分に発揮している。
遂にその手が仮面の縁に掛かった。
その、瞬間。
「! 何……っ!」
「っぐ、う!?」
弾かれたように例のあの人が離れる。
それと同時に、酷い頭痛が私を襲う。
割れそうなぐらいに痛む頭を抱え、その場に崩れ落ちる。
ふと視線をずらせば、例のあの人が見える。彼は片手を抑えており、よく見ると地面には赤いものが滴り落ちていた。
「――ッ、――――!」
「ァ、……」
あの人が何かを叫んでいる。
それすら聞き取れぬまま、私はあまりの痛みに意識を手放した。