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※ 今夜を君を待っているのif話
公安とFBIと名探偵が手を組んで黒の組織を壊滅させ、それにキッドと夢主が手を貸していたら
そしてそれから六年後に降谷零と夢主が再会したら?というお話です
キッドとは破局してます
ラスト部分、デフォルトネームに関連した容姿の描写が少しだけあります
シーツに寝転がったまま、戯れに彼女の背中を撫ぜた。薄暗い部屋でもよく見える、いくつもの傷跡が無防備に晒されたそこ。火傷や弾痕まで、様々な種類が眠っている。元は白く綺麗だったのだろう肌は、赤や茶といった色に染め上げられていた。女の背とは思えないほどに。
「…何?」
ベッドに座って首だけで振り返った彼女が問う。その咥えられた煙草から紫煙が揺れた。
適当に選んだラブホテルは清潔だったがどこか黴臭く、年季を感じさせた。やたら分厚いマットレスと。それとは対象的に薄い掛け布団に挟まり、ぼんやりとなまえ…さん、の俯いた横顔を眺めた。
「いいえ、何も」
大仰に頬を緩め笑ってみせる。すれば彼女がまた前に向き直ってしまったのを、惜しいと思った。
再会したのはほんの数時間前。声をかけたのは自分から。ぺらぺらと一方的に話しながら半ば無理やり、手近なバーに連れ込んだ。酔わせてホテルに、なんていう使い古された手口。諦めたような表情の彼女は抵抗もせず従ってくれて、変わってしまったんだなと惜しく感じた。
ずっと探していた、なんて都合のいいことは言わない。だけど。組織を壊滅させ、互いに日常へ戻ってもう六年が経つ。ふとした事で思い出したり、会いたくなったのも…また事実だ。
あの怪盗と結ばれたのだと思っていた。聞けば大学在籍中に別れたらしい。仲良くなりすぎたと言っていた。生きる世界が違ったのだとも。その台詞だけで、どちらから切り出したかは明白だった。
怪盗キッドを封印した黒羽快斗は、マジシャンとなり世界を飛び回っている。あと数年もしないうちにその名を轟かせることとなるだろう。
反対になまえは。一族の当主となるため、家のために。未だ泥棒の仮面を被り、闇の中で生きているのだという。いつか暴いてやりたいものだと思う、いいや。
いつかではなく、今――…
「煙草なんていつから吸い始めたんですか」
「お巡りさんに、言えない年齢から?」
雑念を振り切るように問えば、再びこちらを見て首を傾げる彼女。いつの間にそんなに憂いを込めて笑うようになったのか。溌剌とした少女はもう失く、そこに居るのは気だるさの香る女だった。それにどことないやるせなさを感じるのは、自分が年齢の一回り違う大人だからだろうか。
慣れた手つきで吸殻をベッドサイドの灰皿で押し潰すその手を見て、吸い始めたのは別れてからだろうなと推察した。赤井の吸う煙草の煙に顔を顰めていたなまえさんは、もういないのだろう。
布団の中に戻ってきた彼女を迎え入れ、腕の中に収める。案外素直に胸に縋る手は冷たい。
「随分と大人しいんですね」
「もう跳ね返る年じゃないわ」
背中に回した手を引けば指が傷に引っかかる。びくりと揺れた耳がほのかに赤くて喉奥で笑った。
「まだ子どもですよ、あなたは」
その名と同じラピスラズリの瞳は、昔の輝きを失い。もう一度あの日のように笑わせてみたい、と思ったのは決して同情などではなく。ただの、一人の男としての欲望だった。