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スーパーマンはクリプトナイト。ワンダーウーマンなら腕輪を縛ればいい。
ではバットマンは、何が弱点なのだろうか?
貸出カウンターでぼんやり考えながら、午後の気怠い空気に包まれた館内を見渡す。図書館での勤務は今日も退屈で、来客数がいつもより少ないとなれば尚更だ。
しかしすることがないからといって、仕事用のノートパソコンでブラウザを開き「バットマン 弱点」なんて調べてみても、当たり前だがろくな情報は出てこない。
何度めかのあくびを噛み殺した私の頭上に、影ができた。
「随分と暇そうじゃないか、ナマエ」
「Mr.ウェイン…職場に来るのはやめていただくようにと伝えたはずですが」
声の先を見上げれば、薄い唇を曲げてにこやかに笑みを作る優男がひとり。黒髪を後ろに撫で付け、どこかのブランド店で誂えたのだろう高級そうなスーツに身を包んだその男――ブルース・ウェインこそ、私の頭を悩ませている張本人だ。"外"用の仮面を付けた彼に内心では舌を出しながら、表情を変えず冷静に対応する。
「おや、そうだったかな? すまないね、可愛らしい"お願い"以外は聞けない性分で」
「お願い以外でも理解できるよう、懇切丁寧に教えて差し上げましょうか」
「ここでするつもりかい? 君に
「……はぁ」
諦めて溜息をつく。相手をするだけで疲れる奴なんてそうそういない。公共の場でセクハラはダメですよ社長、なんて嗜めたところでまた軽口を叩かれるだけだ。
他の職員が事務所に引き篭もっているため、誰にも見られていないことだけは幸いだが。
「へえ…バットマンの弱点、か」
「ちょっと、勝手に見ないで」
開きっぱなしだったブラウザを覗き込んだウェインから、慌ててパソコンを引き離す。
「そんなもの、知ってどうする気だ?」
「どうって…別に、気になったから調べてただけ」
嘘だ。倒すのは無理だとしても、一泡吹かせてやりたい、ぐらいの気持ちはある。ただでさえやられっぱなしなのに、ここのところはどの計画も失敗続きだ。そろそろなんとかしないと、友人の愛するプリンちゃんの機嫌をまた損ねる羽目になる。
「まあ、君に教える気はないが」
「教えられるってことは、あるの?」
まさか、と驚いて彼の顔を見つめた。動じず普段通りの笑みを浮かべるウェインに、からかわれたのだとわかって眉を潜める。
「ほんといい性格してるわよね――バッツィ?」
「その名前をここで呼ぶな」
仕返しとばかりに一言口にしただけで、彼の顔がはっきりと歪む。それに気を良くして更に言葉を続けた。他人の秘密を暴くことほど楽しいものはないでしょう?
「そんな怖い顔しないで? バッ――…ン、ぅ」
乱暴に顎を掴まれ、唇を重ねられて。舌が絡み合ったかと思えば歯列をなぞり、柔らかい粘膜をつつく。その動きにはいつまで経っても慣れなくて、息をする暇もないほど翻弄されてしまう。
「ん、は…ぁ」
開放されたときには息も絶え絶えになっていて。それを見た彼は、サディスティックに笑うのだ。いつもベッドでしているように。
「車で待っているから早く来るように――アコナイト」
耳元でやさしく囁いて踵を返したウェイン。私が逃げられないことを十分に理解した上で早退を促す彼は、相変わらず狡賢い。お前なんか大嫌いだという意味を込めて、遠ざかる背中に中指を立てた。
大きな溜息を吐いて椅子からよろよろと立ち上がり、散らばった私物を片付け始める。全身の熱を持て余しながら。
ああ、私の心に火をつけたのは――。
BGM : Heart Afire / Defqwop