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「綺麗な毛色の猫ね」
ふと壁際に目をやれば、それは椅子に座らされた男に留まる。私の前に誰かが連れて来た奴隷のようだ。
グランドマスターとの取引はいつものように滞りなく終わった。私が連れてきた奴隷はすっかり萎縮しきり、先程から言葉を発しようとしない。
こちらを睨みつける瞳は翡翠の色。その美しさに見とれて、そっと息を吐いた。
「オイオイ、そいつは…」
「だめかしら? 貴方と私の仲じゃない」
する、と頬から首に手を添えて滑らせる。途端にだらしなく鼻の下を伸ばした彼。駄目押しとばかりに肩にしなだれかかり、笑いかけた。
「次はもっとイイのを連れてくるわ。だから、ね?」
「…全く、ナマエはしょうがない子だ。800万でどうだろう?」
「有難う」
提示された金額に頷く。交渉成立だ。
猫が私を見上げる。戸惑って眉を顰めた彼は、真意を図りかねているようだった。
見れば見るほど、綺麗な顔だった。全てのパーツが上手く調和し、その造形美は惚れ惚れするほどだった。乱れた黒髪すら彼の美しさを損ねず、むしろ引き立てているように見える。私はうっとりと目を細めた。
「拘束を解除してくださらない? これじゃあ持って帰れないわ」
「君が思うより暴れ馬だぞ。そのまま連れていけばどうだ?」
冗談じゃない。心の中で眉を顰めるが、顔には出さない。
そんな奇妙な椅子に座らせたまま帰るだなんて、見世物になってしまうじゃないの。これだから美意識のない者は嫌いだ。
「あら、大丈夫よ。ポチにシロ、おいで」
苛立ちを抑え、振り返って名前を呼ぶ。すると今まで気配を消していた男たちが重い足音を響かせながら歩み寄ってきた。
大きな体、傷だらけの紫の肌。ズボンとサンダル以外何も身に着けておらず、筋肉隆々とした肉体を晒す二人。その片方が椅子に掴みかかった。猫が目を見開き、声を漏らす。
「壊すんじゃないわよ」
まるで玩具のように椅子から男を引き剥がすポチ。彼が抵抗する前にみぞおちを殴って気絶させ、軽々と担ぎ上げるシロ。
それを確認した私は、グランドマスターに手を振ってピンヒールで床を踏みつけ、歩き出した。
▽
「もっと丁寧に扱いなさい」
ぼすん、とベッドに投げ出された男。勢いが強すぎて羽毛布団が破れてしまった。
叱れば、シロはしゅんと俯く。ガタガタと震えるその立派な体躯に、寒いのかしらなんて首を傾げた。
「じゃあ、出ていっていいわ」
ポチが彼の足に枷を取り付けたのを確認し、部屋から追い出す。
ここは私の宇宙船にある自室だ。豪奢な家具の数々は殆どが贈り物。広々としたウォークインクローゼットに吊るされている服もそう。何なら今の船だって、名前も覚えていない星の官僚と“仲良く”なった際にもらい受けたものだ。
気ままに宇宙を放浪しながら始めた人身売買業が軌道に乗り、こうして好き勝手している。サカールに初めて来たのは半年ほど前。ここの混沌とした無法地帯ぶりは嫌いじゃない。
未だ気を失ったままの男に寄り添い、その頬を撫でた。撫で付けられていたのだろう髪はざんばらで、肌には無数の傷や汚れが付着している。服もボロボロだ。起きたらまずはお風呂ね、と算段をつけた。
彫りの深い顔に通った鼻梁、唇は薄くなめらかで。何度見ても美しい。いいものを貰った、と気分を良くした。
瞼の下に眠る瞳が、次に映し出すのは私。ああ、ひよこに刷り込みでもしている気分だ。
こみ上げる笑いを殺して。猫に着せる服を見繕うべく、クローゼットを開けた。